元社畜さん、確認する。
スライムの道案内通りに歩いていくと、うすぼんやりと光が漏れ出る狭い通路を見つけた。
スライムを見てみると、その通路を指している。
言われるまま(喋っていないけれど)にその狭い通路を通ると、淡く発光している鉱石が密集している広い小部屋に出た。
ここなら大きな動物も入ってこれないだろうし、隠れるのにもってこいだな。
「おお、明るい」
「ぴき!」
「うん、ありがとうなぁ」
「きゅいきゅい」
どこか得意げにしているスライムを撫でてやると、嬉しそうに声を上げた。
鉱石があまりない、けれど一定の明るさが確保できているところに腰を下ろす。
さて、今後のことだけれどどうしよう。
もうスライムやら勝手に発光する鉱石がある時点で、私が今まで生きていた世界ではないことは分かっている。
元の世界への戻り方が分からない以上、この世界で生きていく術を身につけなければならない。
いや、元の世界に戻る気はさらさらないけれど。
正直もうあのブラック会社と母親に振り回されるのは真っ平ごめんである。
一応ここに居れば大きいモンスターに対する脅威はある程度無くなるし、安全は確保できたとしよう。
問題は食料だ。引きこもっていたら飢え死にしてしまう。
と、いうか。今この時点ですでに空腹だ。
まともな食事をしたのはいつ頃だったっけ。最近はもっぱら十秒飯だったからなぁ。
……スライムってゼリーみたいだよね?食ったらうまいかな。
「ぴ、ぴき?」
じっと見つめていると、私の視線に不穏なものを感じたらしいスライムが私から少し距離を取った。
意外とカンがいい。いや、恩人だから食べないけど。
……この状況が続いたら、分かんないけど。
「……そういや、ラノベとかだと転移後にステータスの確認とかしてたよなぁ」
なんか文字書かれた透明な板みたいなの出る演出でさ。異世界転移したならちょっと憧れるよね。
なんて考えていると、ヴン、と言う音を立てて目の前に何かが浮かび上がった。
それは黒くて半透明の薄い板のようなものだ。その薄い板に白い文字で何かが書かれている。
……うん、ラノベによくあるステータス画面ですな。何で出てきたんだろう……もしかして、私がステータスって呟いたからか?
……まぁいっか。なんて書いてあるんだろ。見てみよう。
名前:工藤優那
種族:人族
MP:∞
称号:異世界からの来訪者
【スキル】
《生活魔法:10》《神聖魔法:2》《苦痛耐性:10》《毒耐性:3》《鑑定:5》《料理:10》《言語翻訳》《アイテムボックス》
【固有スキル】
《ネットモール》
……なんだか色々と突っ込みたいけれど、《ネットモール》って何ぞ。
私の貧相な頭で思い浮かべることができるのは某密林なんだけれども。
《ネットモール》という字面に、眉間に皺を寄せて首を傾げていると、ステータス画面の内容が変化した。
【固有スキル】
《ネットモール》:金銭をチャージすることで異世界(地球)の物品を購入することができる。
現在のチャージ金額:0円
……ええと。チート、でいいのかね。まぁ、地球製の物を購入できるのは便利なんだろう。
でもどちらにしろ今すぐに食糧確保はできなさそうだ。《ネットモール》で買い物しようにも先立つものがない。
……ご飯を食べられないと悟った瞬間、きゅうぅ、とお腹が切ない音を立てた。
「……お腹、空いたなぁ」
「きゅい?」
「最近まともに食べてないからなぁ……最後に固形のご飯食べたのいつだったっけ」
きゅるる、と更に私の腹が切ない音を立てる。
……もうこれはあれだ。ふて寝しよう。寝て空腹を忘れよう。
ごろり、とその場に寝転がると、スライムがどこか焦ったようにきゅいきゅいと鳴いた。
「ごめん、寝るわ。このまま起きてるとお前さんを食べちゃうかもだし、寝てごまかす」
「きゅい?!」
「おやすみ」
ごろんとスライムに背中を向けて、遠くなる意識に身を任せた。