元社畜さん、奴隷さんを買う。
四日後にイェルクさんのお店にまた来るという約束を交わして、冒険者ギルドに帰った。
なんでも神殿は常に怪我人や病人でごった返しているらしい。
しかも軽傷重傷関係なく貴族などの富裕層が優遇されて、そうでない人達はガンガン後に回される傾向にあるらしい。
……なんだか現代日本よりも世知辛いなそれ。
というか神の教えを説く立場である神殿としてそれは良いのか?
え、今更?そうなのかー……
で、私の方はというと、冒険者ギルドに戻った後すぐに自分でもできそうな依頼を受けた。
何故かレーアさんとヘレナさんが「私がお金出すよ?大丈夫だよ?むしろ貢がせて?」と言っていたけれど、こればかりはと遠慮した。
だって人間……じゃなかった、魔族一人購入するわけだから、ちゃんと自分で稼いだお金で取引したい。
レーアさんとヘレナさんは血の涙を流していた。怖かった。
というか何でレーアさんとヘレナさんは私に貢ぎたがるのか。これが分からない。
とまぁそんな訳で、三日間みっちりと採集系の依頼をこなしてました。
……何故かヘレナさん達もついてきてたけど。
振り返ったら手に持ってた葉っぱ付きの木の枝で身を隠してたけど、バレバレだった。
唯一見つけられなかったのがニコルだけ。
冒険者ギルドで問い詰めてみたら木の上で隠密スキルがっつり使ったんだそう。
そりゃ見つからんわ。
そんでもって纏まったお金が手に入ったので試してみました《ネットモール》。
どうやって使うのかと《ネットモール》の画面の前で四苦八苦してみた結果。
《ネットモール》の画面にお金、もしくは採取した素材などを突っ込んだらチャージ金額に数字が加算されました。
マジか。
まあ、この世界のお金以外のものもチャージ金額に加算されるのはありがたい。
だって《ネットモール》で使ったお金ってどこに行ってるかさっぱりだし。
この世界のお金がこの世界で回らなくなったら経済が破綻しかねない。
……うん、《ネットモール》を使うときはできるだけ採取した素材で賄おう。
……この素材もどこ行ったのか分からないけれどね。
これって売却したってことになるのかな?誰に?
……まあいっか。深く考えないようにしとこう。
と、こういうことをしているとあっという間に四日が経ちまして。
私は再びイェルクさんのお店にヘレナさん達と足を運んでおります。
レーアさんは仕事が入ったとかで泣きながら執務室に引き摺られていきました。
お仕事頑張ってください、ギルドマスター。
イェルクさんはすでにお店の前で待機していて、私達を見つけるや、にっこりと笑って手を振ってくれた。
「やあ、そろそろ来るんじゃないかと思ってたよ」
「すみません、お待たせしてしまいましたか?」
「いやいや、今出てきたところだったからいいんだよ。
それに今日という日を一番心待ちにしていたのは彼の方だと思うからね」
イェルクさんは言いながらお店の奥へ私達を通してくれた。
案内された一番奥の檻の中には、この間と変わらずハーフオーガさんが一人で座っていた。
変わったところと言えば、ハーフオーガさんが何かを心待ちにするようにそわそわとしていたところか。
……あっ。私達を見つけてあからさまに目が輝いた。
どうやら本当に私達が来るのを待っていたらしい。
「……気のせいかしら、お花が飛んでいるような……?」
「気のせい」
ヘレナさんが何事かを小声で呟きながら目をこすっていたけど気にしないことにした。
だってニコルが呆れた顔で答えてたし。
……本当はちょっぴり気になるけど、リーゼさんとアルトゥールさんはしょうがないなぁっていう生温い視線をヘレナさんに向けてたからしょうもないことだと思っとこう。
うん。
「ええと、先に御代をいただいていいかな?
小銀貨三枚なんだけれど」
「はい。ちゃんとあります。お確かめください」
懐から小銀貨を三枚取り出してイェルクさんに渡す。
御代を確認するとイェルクさんはにっこりと笑って、真鍮製の鍵をくれた。
これで檻の鍵を開けろってことかな?
ハーフオーガさんがすでにスタンバイしている扉の錠前に使って扉を開くと、ハーフオーガさんが身体を少し屈めながら出てきた。
……予想はしていたけどハーフオーガさん、背ェめっちゃ高いね……?
私よりも頭二つ分くらい高い。見上げないと顔が見えない。すげえ。
って感動している場合じゃない。挨拶せにゃ。
「んっと、私の名前はユーナ=クドゥー。ユーナって呼んでくれると嬉しい」
「……ユーナ?」
「うん。よろしくね」
「……ああ。よろしく」
長期間喋らなかったからか、少し声がかすれているけれど聞きやすくていい声だ。
……そういえば名乗られていないけどなんでだろう。
「ええと、貴方のことはなんて呼べばいい?」
「……俺、名前、ない……」
おうふ。名前つけられてないのか……しょんぼりさせてしまった。
え、ええと、どうすればいいんだろう。
『じゃあおめぇがつけてやりゃいいだろうよ』
「へ?」
『お前が俺に"ジオ"って名をつけたみたいにしてこいつにも名前をつけてやればいいだろ』
それもそうか。
でも私ネーミングセンスないからなぁ……
っていうか私が名前つけていいかハーフオーガさんにも聞かなきゃ。
「えっと、それじゃあ私がつけてもいい?名前」
「!」
めちゃくちゃ嬉しそうな顔で何度も首を縦に振られた。
そ、そんなに嬉しいんですかそうですか。
……。
う、嬉しいけどプレッシャーがものすごいかかる……
ええと、いい名前つけてあげたいなぁ……
うーん……オーガって日本だと"鬼"って意味だよね。……でも鬼をつけるのも安直な気が……でも目の色からとって翡翠ってのも安直な上になんか響きが可愛い気がするんだよなぁ……うーん。
イメージで組み合わせてみる?
"翠"と"鬼"……
「……フーマ、とかどうだろう?」
「フーマ?」
うん、私の発想じゃあこれが限界でしたごめんなさい。
翠で鳥をイメージした後に風が思い浮かんで、そういえば風魔忍軍とか戦国物のゲームによく出てたよなぁ、頭目の風魔小太郎は鬼だった説があったよなぁとか考えてたら風魔が離れなくなったでござる。
うん。
結局安直な名前になってしまって本当に申し訳ない。
「フーマ、いい名前。ありがとう」
……本人が喜んでるならそれでいっか!




