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元社畜さん、異世界で何します?  作者: 木須田ユーマ
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元社畜さん、道連れを探す。(2)


 午後になりました。

 現在私は奴隷市場に居ます。

 ……うん、こわいでござる。帰りてぇ。

 すぐそばにレーアさんやヘレナさん達がいるけど怖いでござる。

 何が怖いって、向けられてくる視線が怖い。

 お店の前に立ってた店員さんらしき人達が一斉にこっち向いたからね……

 あれは値踏みしてる目だった。

 ニコルがとっさに前に立って目隠しになってくれたけど、それでも視線は降り注いでくる。

 ちなみにスライムはというと、最初は抱っこしてたのだけれど大量の視線を向けられた時に思わず潰しかけたんだよね……

 だから今は頭の上に緊急避難中である。

 頭の上って安定感なくない?

 大丈夫?あ、大丈夫なのね。分かった。


 レーアさんについて歩くこと五分弱。

 お目当てのお店に着いたのか、レーアさんの足が止まった。


「ちょっとイェルクー!居る?話があるんだけどー!」


 レーアさんが店頭から声を張り上げる。

 暫くするとお店の奥からよれよれになったカーキ色のズボンとYシャツを着た、眠そうな顔の男性が頭をバリバリと掻きながら出てきた。

 男性……イェルクさんはレーアさんを見つけると、へらり、と口を笑みの形に歪めた。


「何の用だよレーア……また冷やかし?」

「違うわよ!っていうか今までも仕事の話ばっかりだったでしょ!」


 物凄く気心が知れた仲らしい。

 言葉は強いのに二人とも笑っている。

 いいなぁ、こうやって軽口が叩き合える仲って。

 私は自分が生き延びることに精いっぱいで親友どころか友達すらいなかったんだよなぁ。


「今日はね、この子と一緒に行動してくれるパーティメンバーを探しに来たの」

「え?……人間の女の子?」


 レーアさんが私を前の方に押し出して紹介してくれた。

 イェルクさんは私を視認するとぱちくりと目を瞬かせた後、じぃっと私を観察してくる。

 お……おう。そんな風にまじまじと観察されるとちょっと怖いんだぜ。


「ちょっと、イェルク?」

「はっ。ご、ごめんよ。人間なんて久しぶりに見たものだからつい。

 っていうか何で魔族領に人間の女の子?どっかから浚ってきた?」

「違うわよ!……うちの娘がダンジョンの中で見つけて拾ってきたの。

 ちょっと訳ありなのよ、この子」


 ちょっぴり苦い顔をしながらレーアさんが言いにくそうに呟く。

 ……うん?確かに私は異世界からやって来たとかいうトンデモな来歴持ちで訳ありだけど、そんな顔をするほどかなぁ……?

 イェルクさんはそんなレーアさんの様子を見て何かを察したのか、「そっか、俺が聞いてもいい話なら仕事が終わった後にでも聞くよ」と言って、私の方に視線を向けた。


「ええと、さっきはごめん。

 俺の名前はイェルク=クルーガーっていうんだ」

「わ、私はユーナです。ユーナ=クドゥー。

 本日はよろしくお願いいたします」

「うん、よろしくね。ところでどんな人材をお探しで?

 見たところ魔法職のように見えるけど、もしかして戦士を探してたりする?」

「は、はい。私とジオだけじゃ防御が薄いと」


 イェルクさんはジオの名前に一瞬首を傾げたけれど、「ぴき!」と鳴き声を上げたジオを見て「なるほど、テイマーだったんだね」と一人で納得していた。


「それじゃあ俺についてきて。レーア達も」

「はいっ」

「ええ」


 イェルクさんに案内されるままお店の奥へ入る。

 お店の奥は奴隷さんという名の商品が檻の中に入れられていた。

 ……中に入ったら檻の中にいた奴隷さん達の視線が一斉に突き刺さったんですがっ。

 あっ。でも思ってたよりも奴隷さん達の健康状態良い……あんまり目も死んでないし。

 う、疑ってたわけじゃないけど良かった……


「ええと、戦士向きの子はっと……」


 あっ。イェルクさんの呟きで大体の女性と子供が視線逸らした。

 あからさまに舌打ちも聞こえてきたし、結構露骨ですね皆さん?


「一番奥の方に男が一人いたくらいかなぁ。最近貴族が大量に購入していったんだよね。

 ユーナちゃん女の子だし、本当は女性の方が気後れしなくていいんだろうけど……」

「い、いえいえ!大丈夫ですよ!

 むしろ貴重な人材を紹介してくださるだけでもありがたいですっ」

「そう?ごめんね、気を遣ってくれてありがとう」


 イェルクさんは本当に済まなそうにそう言うと、その人がいる檻に案内してくれた。


 イェルクさんが案内してくれたのは、一番奥まった場所にある檻だった。

 檻の中には、一目で鍛えられていると分かる体格をした、粗末な服を着た長い金髪の青年が隅の方で座り込んでいた。

 その青年はこちらに気が付くと、ゆっくりと立ち上がって格子のそばまで近寄る。

 近寄ってきたことで分かったことだけれど、青年の額からはリーゼさんよりも短い角が二本――内片方は途中で折れているけれど――生えており、透明度の高い翡翠のような翠色の瞳をしているのが分かった。


「……へえ、ハーフオーガかい」

「? ハーフ……?」

「片親が人間の場合に、極稀に生まれることがあるオーガ種よ。

 普通は片親が人間でもオーガが生まれるんだけれど……」

「通常のオーガ種よりも力こそ弱いけれど、普通のオーガでは扱うことすらできない魔法を扱うことができるんだ。

 ……まあ、オーガは『力こそ全て』って考えだから……」


 なるほど。オーガの社会の中では爪弾きにされる存在だと。

 好きでそう生まれたわけじゃないだろうに、世知辛いなぁ……

 あれっ、ということはリーゼさんもちょっと思うところがあったりするのかな……

 思わずリーゼさんを見上げると、リーゼさんと目が合った。


「ああ、アタシは別にどうとも思ってないよ。

 冒険者稼業をしてれば魔法の有用性は嫌でも分かるからね。

 むしろ魔法を使えるのが羨ましいくらいさ」


 私を安心させるためか、私の頭を撫でながらリーゼさんがそう言った。

 確かに、魔法嫌いだったらこのパーティにいるわけがないか。


「彼が今いる奴隷の中で一番力が強い子だよ。

 ……まだ警戒されているのか喋りすらしてくれないけど、それでもいい?」

「え?どういうこと?」

「いやあ、実はもう彼を仕入れてかれこれ三年も経つけど一向に喋ってくれなくて。

 本当に一言も喋らないからこうして紹介しても購入してくれなかったり返品されたりなんだよねぇ……

 読み書きもできないみたいで、お手上げ状態なんだ」

「……それって商品としてどうなの?」


 ……いろいろとツッコミたい単語が聞こえたけど、それな。

 にしても、三年もだんまりなのかぁ……って、あれ?

 なんだか青年……ハーフオーガさんでいっか。ハーフオーガさん、何か言いたそうにしてるような……?

 あとしきりに喉の辺りをさすってるような?


「……あの、少し、近づいてみてもいいですか?」

「へ?あ、うん。いいよ?」

「ありがとうございます」


 イェルクさんに許可をとってハーフオーガさんに近寄る。

 ハーフオーガさんは私を見て一瞬驚いた顔をして、口を開いた。

 けれどすぐに眉間に皺を寄せて、煩わしそうに自分の喉を撫でる。


「……あの、つかぬ事をお聞きしますが……

 もしかして貴方、声が出ないんですか……?」

「「「「「「「えっ?」」」」」」」

「!」


 私の発言にイェルクさんとレーアさん、ヘレナさん達が揃って間抜けな声を上げた。

 ハーフオーガさんはというと相当驚いたのか、くわっ!と目を見開いて私を見下ろしていた。


「その、なんだかイェルクさんの言ってることに物申したそうにしてたので。

 それにしょっちゅう喉を気にしてたので……もしかしたらと。

 ち、違っていたらすみま……あ、当たってるんですね」


 少し食い気味に首を横に振られた。どうやら推測は当たっていたらしい。

 首を振るのを止めた彼は何故か期待しているかのような目でじっと私を見ている。

 ……ええっと。


「元々は声が出せていたんですよね?」


 首肯。

 うん、何度か声を出そうとする仕草はしてたもんね。

 ……そういえば最初に見たステータスに鑑定あったよね。

 これって人間とか魔族にも使えるのかな。


 そう考えていると、目の前にステータスのウィンドウが出現した。

 え、鑑定って自動発動なの?頭ん中で使おうと思っただけで発動すんの?マジで?情報漏洩ってレベルじゃねえぞ。

 しかも私以外には鑑定結果見えてないようだし。うう、罪悪感半端ない。

 で、でも見えちゃったものはしょうがない……しょうがない、よね?

 ……ごめんなさい、拝見させていただきます!



名前:不明

種族:ハーフオーガ

MP:100


身体状態:不適切な薬品摂取による喉部分の火傷、及び強制沈黙。神聖魔法による治癒が可能。

     "隷属の首輪"の効果による強制隷属。

     殴打による一部部位破壊。


【スキル】

《剣術:7》《体術:8》《身体強化魔法:5》《毒耐性:5》《苦痛耐性:6》他



「Oh……」

「え、どうしたの?何があったの?」

「……すいません。彼を鑑定した結果がちょっとアレだったので……」

「えっ待ってユーナちゃん鑑定スキル持ってたの?何それすごい」

「何て出たんだい?治せるなら治したいから教えて欲しいんだけれど」

「ええと……勝手に見ちゃった手前申し訳ないんですけれども、お話ししてもよろしいですか?」


 ハーフオーガさんは驚いた顔で固まっていたけれど、私が声をかけると我に返ったのか小さく首を縦に振った。


「ありがとうございます。

 不適切な薬品摂取で喉に火傷を負っているみたいです。

 あと、神聖魔法での治癒が可能らしいです」

「……うん、分かった。

 そっかぁ……気づかなかった。ごめんね」


 へにょん、とイェルクさんが情けない顔をしてハーフオーガさんに頭を下げる。

 ハーフオーガさんはそれにぎょっとしておろおろと視線を彷徨わせて、何故か私に助けを求めるような視線を向けてきた。

 わ、私にどないせーと。


「はいはい、謝るのはそれくらいにして神殿に行って来たら?

 治すんでしょ、その子の喉」

「はっ!そうだった。うん、行ってくるよ。ごめんねユーナちゃん。

 そう言うことだから買い取りはまた今度にしてもらっていい?」

「え?あ、はい」


 多分私でも治せると思うけれどここはお任せしよう。

 今思い出したけれどハーフオーガさんを雇うのにもお金が発生するから用意しないと。

 ……今着てる服も身につけてる装備も全部レーアさんやヘレナさんが買ってくれたものだからなぁ……

 買ってもらうことに慣れてしまわないように気を付けないと。

 ……もうすでに手遅れっぽいけど。

 矯正せにゃ……!


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