元社畜さん、道連れを探す。(1)
籠手はいつ私の腕のサイズを測ったのかと思うくらいぴったりとフィットした。
ついでになにかしらの魔法的なサムシングが働いているのか、重みを一切感じなかった。
ギルドマスターってすごいんだなぁ。
改めてそう思った。
「そういえばユーナちゃんはこの三週間で他の従魔を増やしたりしたかしら?」
「いいえ。森の中に入っても魔物や魔獣と言ったものは出てこなかったので……」
そう。全くと言っていいほどに何も出てこなかった。
魔物や魔獣が多く出没すると言っていたヘレナさんも首を傾げていた。
ちょっとだけほっとしたのが半分、実地訓練ができなくて残念なのが半分である。
「そうなの?
変ねぇ……まあそれに関しては良いわ。
問題は盾役がいないことね」
た、盾役ですか。
それってもしかしなくても肉盾……ごふんごふん。
いやまぁ冗談はさておいて。確かに私もスライムも魔法職だもんなぁ。
魔物や魔獣の中には魔法が効きにくいのもいるだろうし。
接近されて攻撃されたらひとたまりもないだろうしなぁ。
「……仕方ないわね。
マリーア。白銀の牙の子達を連れてきてくれる?」
「はい、わかりました」
おろ?ヘレナさん達を呼んだってことはお仕事のお話かな。
私席外した方が良いかね。
ソファから腰を浮かせると、「ああ、ユーナちゃんはそこで待ってて」とレーアさんから言われたので座りなおす。
待ってて、ってことは私も関係ある話なんだよね?
どんな話なんだろう。
そのままレーアさんと紅茶を飲みながらヘレナさん達を待つこと十分ほど。
控えめなノック音と同時にマリーアさんの「お連れしました」という声が聞こえてきた。
ついでヘレナさん達がぞろぞろと部屋の中に入ってくる。
「ああ、来たわね。座って頂戴」
「ええ。どうしたの?お母さん」
「あー……うん、ユーナちゃんのパーティメンバーのことなんだけどね」
あ、私のパーティメンバーのお話でしたか。
……それでなんでヘレナさん達を呼んだんだろう?
私を拾った人たちだからかな?
「それだったら私達のパーティに入れればいいじゃない」
「そうもいかないってこの間も言ったでしょう。
あんた達仮にもSS級冒険者なのよ?
ギルド加入したてのユーナちゃんの肩身が狭くなっちゃうじゃない」
……マジですか。
この世界に来て間もないけど、SS級冒険者って肩書がどれだけ凄いのかっていうのはほんのり察している。
そんな凄腕冒険者集団の中に加入したてのへっぽこが入るとなったら……
……うん、想像しないようにしよう。
怖いでござる。
「それじゃあどうするのよ?
今いるのはもうパーティを組んでいる奴らばっかりでしょう?」
「ええ。だから奴隷市場に行こうと思って」
……はい?奴隷市場?
奴隷ってあれですよね?ちょっとダークなあれですよね?
あれ、私のパーティメンバーの話してたんですよね?
何で奴隷さん?
「……あー」
「確かに首輪をとらなければ、ヘタな連中よりかは信頼はできると思うけども」
「アテはあるのか?」
「ええ。イェルクのとこに行くつもりよ」
「ああ、あそこならある程度安心かしら」
え、え。なんか前向きに考慮されていらっしゃる……?
信頼できる奴隷とはなんなんです?
その前に奴隷って普通に取引されているんです?
えっ、こわ……
「……あの、奴隷市場って……?」
「え?ああ、大丈夫よ。
多分ユーナちゃんが想像しているようなものじゃないわ」
「ええと……?」
まだちょっと把握しきれていない私にレーアさん達が奴隷について教えてくれた。
奴隷は己を購入した者を主人として契約を結び、契約を結んだ主人には一切逆らわない。いや、逆らえない。
なんでも購入した奴隷にはデフォルトで"隷属の首輪"がついていて、命令に逆らおうとした場合は首輪が死なない程度に首を絞めつけるらしい。えげつねぇ。
これはとある例外を除いて、主人側の任意で外すことが可能なのだとか。
そして主人側にも奴隷に無茶な命令はしない、最低限の生活を与えなければならないなどのルールが設けられているらしい。
つまりは「お前生きてる人間買ったんだからちゃんと世話しろよ?死なせるようなことするなよ?」ってことですね分かります。
ようするにちょっとした住み込みの仕事を斡旋する場なのだろう。響きは物騒だけど。
そんでもって奴隷になる人。これは三種類に大きく分けられている。
一つ目は犯罪を犯して奴隷落ちした人。ちゃんとそういう刑が設けられているんだとか。
で、そういう人は主人側でも"隷属の首輪"を外すことができないんだそうだ。なるほどこれがとある例外か。
二つ目は借金を抱えた人が自分で自分を売るパターン。
大体が元から貧しくてまともな職にすら就くことができない人らしい。
飢えて死ぬより、奴隷になってでも生きるのを選んだってことかな……
そして三つめが孤児。
親に口減らしのために捨てられたり、死に分かれたりと理由は様々なんだとか。
孤児院などの施設はあれど、ほとんどが満員で年々奴隷になる子供たちが増えてきているらしい。
……なるほどなぁ。
現代日本にはなかったものだし、ちょっと怖いイメージがある奴隷という響きにちょっと抵抗はあるけど、レーアさん達が大丈夫というなら大丈夫なんだろう。
「それじゃあ午後に奴隷市場に行きましょう。
ヘレナ達には一応護衛を頼んでおくわね」
「ええ、分かったわ」
……大丈夫なんだよね?




