閑話:魔法の勉強の後
※今回ご都合主義的ななにかの要素がたんまり含まれています。
ユーナとの魔法の勉強の後。
私はギルドマスターであるお母さんのところに足を運んでいた。
ギルドマスターの執務室のドアをノックして、お母さんの許可を得てから中に入る。
部屋の中では当然ながら、お母さんが書類に精を出していた。
「あら、どうかしたの?」
「お母さん、ユーナのことなのだけれど……」
「もしかして魔力の使い過ぎで倒れちゃったの?
大変、すぐマナポーションを用意するわね」
「いいえ、違うわ。ユーナは倒れてない」
「倒れていない?……じゃあ、何があったの?」
お母さんは浮かせかけた腰を椅子に落ち着けると、真剣な目で私を見た。
「今日、魔の森でユーナの魔法の練習をしたの」
「ええ、それは把握しているわ。それで?」
「彼女、とんでもなく飲み込みが早かったわ。
一時間で魔力の漏れを改善。その後火属性魔法の発動練習に入ったら一瞬で習得。
好奇心に負けて火の大きさを変えてみてと言ったら、周囲の風を取り込みながら火の大きさと勢いを拡大。
最終的に自分で作りだした水を頭から被って炎を消したわ」
「……嘘でしょう?」
一言一句、本当に目の前で起こった出来事だ。
今の今まで魔法を使ったこともないと言っていたから、魔力漏れの改善も半日以上、最悪三日はかかると思っていた。
けれど実際はどうだ。
ギルドマスターであるお母さんに鍛えられた自分ですら四時間はかかったものを、半分の時間でものにされたのだから驚いたなんてものではない。
ましてや魔法を一切使ったことがない人間が、一日で火を熾す魔法どころか、大きく肥大化させながら風や水を発生させる魔法を習得できるだなんて。
「……本当に、ユーナちゃんは倒れなかったのよね?」
「ええ。顔色一つ変えていなかったわ。
……もしかしたら魔法の行使に魔法の発動体すら必要ないかもしれない」
ろくに戦った経験のない、魔法を初めて使った者ならば、あんな大きさの炎を保持するだけでも息切れを起こしていてもおかしくない。
ましてや火、風、水の三属性の魔法をあの勢いでいっぺんに使おうものなら、中級魔法使いでも倒れかねない所業だ。
お母さんは難しい顔で暫く黙り込んだ後、深刻そうな顔をして私を見上げた。
「……ねえ。私なりにユーナちゃんのことについて考えたんだけれど、聞いてくれる?」
「なに?」
「ユーナちゃん、本当は人間じゃないんじゃないかしら」
「どういうこと?」
お母さんが言っていることが理解できず、聞き返す。
「昨日ステータスを見たでしょう?
ステータス欄に書かれていた種族名……"人間"じゃなくて"人族"って書いてあったの」
そういえばそんな風に書いてあったかもしれない。
昨日はそれよりも衝撃的なスキルを目にして、そちらに意識を奪われていたからあまり良く覚えていない。
けれど、普通そんな曖昧な表現で表記されるだろうか。
私でさえ"ヴァンパイアローズ"という種族名が明記されているというのに。
……まさか。
「ユーナが、ホムンクルスだって言いたいの?」
「そうかもしれないという可能性の話よ。
でも人間でもエルフでも……それこそ魔族でも、保有できない量の魔力を有している。
それって、何かしらの実験に使われてそうなったんじゃないかしら」
……確かにホムンクルスはそういう実験とかに良く使われる。
実験に使われた後のホムンクルスは大体が殺害される。
人間と同じように扱われることもあるがそれは本当にまれだ。
……でも、もしもユーナが何かしらの実験に使われたホムンクルスで、彼女が殺される前に彼女を想う誰かしらが、眠っている彼女を転移魔法であの洞窟へ転移させたのだとしたら……
「……このことは他言禁止ね」
「ええ。あと、ユーナは全力で保護するって方向で」
「異論無いわ」
私達はこっくりと頷いて、ユーナに今後教えるべき魔法を相談した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「へっくしょん!」
『おい、やっぱり風邪引いてんじゃねえか?』
「ううん、そんな感じはしない……誰か噂でもしたかな?」
『誰かって誰だよ?』
「さあ?……とりあえず今日は早めに寝ようかなぁ……」
『おう、そうしとけそうしとけ』




