元社畜さん、魔法の基礎を教わる。(2)
たっぷり三十分ほど休んだ後、今度は基本となる火の魔法を教わることになった。
なんでも、一番イメージが容易で習得しやすく、一番危険性が高い物だから扱い方を真っ先に覚えないといけないからだそうだ。
確かに火は料理や灯り以外だと、危険な用途で使われるもんなぁ。
暴発するととんでもないことになりそうだし。
「それじゃあはい、これ」
「? ……これは?」
ヘレナさんに差し出されたものを受け取り、まじまじと観察する。
赤い小さな石がはめ込まれたシンプルな指輪だった。
「ええと、これは……?」
「練習用の魔法の発動体よ。
発動体無しでも魔法は使えるけど、魔力の消費量が倍以上必要になるから使った方が良いわ。
杖でもいいんだけど、私は装飾品を加工したものの方が好きなのよね」
なるほどなぁ。途中で魔力切れ起こしたら積極的に狙われそうだものね……
私は魔力無限だから魔力切れ起こしそうにないけど、ないと可笑しいと思われそうだし購入できるようになったら購入しよう。真っ先に。
貰った練習用の発動体を右手の薬指にはめる。
「まずは小さな火から練習していきましょうか。
手の平に小さな火を灯すようなイメージを思い浮かべてみて」
やっぱりイメージすることが大事になってくるのか。
もしかして魔力をエネルギーにしてイメージしたものを形にして、魔法として放出しているのかな。
……考えても良く分からないから深く考えずに集中しよう。
ええと、手の平に小さな火を灯す……ライターやマッチの火を思い浮かべれば大丈夫かな?
ライターやマッチの小さな火を灯すイメージを頭に思い浮かべながら手の平に意識を集中させる。
ぽっ、と音を立てて小さな火が手の平の上に浮かび上がった。
おお、結構簡単にできたな……
「本当に飲み込みがいいわねぇ……それじゃあ、ちょっとずつ大きくしてみて」
「はい」
大きく……とりあえず周りの酸素を取り込むイメージをすればいいかな……?
火は空気中の酸素を取り込むことでより大きく、より温度を高くすることができるからなぁ。
あ、でもあんまり勢いよくしたら爆発するか。ちょっとずつ……ちょっとずつ……
「ちょ、ちょちょちょストップ!ストップ!消して!」
「はぇ?」
火がマッチを灯したくらいの大きさからキャンプファイヤー程度の大きさになったところでヘレナさんに止められた。
え、どうかしたんだろうか。ちょっと大きくし過ぎたかな?
っていうか、ここ深く考えなくても森の中だったわ。火事になっちゃう。
ええと、消すには……大量の水?バケツひっくり返すイメージをすればいいかな?
大きなバケツをひっくり返して中の水をぶちまけるイメージをすると、大量の水が頭上に降ってきた。
ああ、うん。せやな、私が火の元だもんね。そりゃあ私めがけて水降ってくるわな。
あ、でもちゃんと火、消えた。
「……だ、大丈夫?」
「はい」
頭のてっぺんからつま先までぐっしょりですけどね。
いや、自業自得ですけども。
「それよりもどうかされたんですか?
もしかしなくても少し火を大きくし過ぎたんでしょうか?
それで森に火がつきかけたとか……?」
「え、ええ……少し驚いちゃって。疲れていない?体がだるいとかは?」
「いえ、あまり疲れていませんし、だるみもないですが……」
いきなりどうしたんだろうか。体調はすこぶる好調なんだけれども……
まぁ、まだちょっと骨は浮いてるかもしれないけど。
ヘレナさんはひとしきり私の身体を調べた後、安心したように息を吐いた。
「本当にすごい魔法の才能ねぇ……驚いたわ」
「? ありがとうございます……?」
なんだか苦笑されながら褒められた。なんで苦笑されてるんだろう?
……まぁ、褒められて悪い気はしないし、気にしないでおこう。




