元社畜さん、魔法の基礎を教わる。(1)
あんなサイズの石を加工するのは初めての経験だから、最速でも二週間はかかると言われた。
そりゃあそうだろうなぁ。ヘレナさんのペンダントと比べて三倍くらい大きかったし。
……あれ、指輪にもペンダントにもならないと思うけど、どうするんだろう。
流石にあのサイズの宝石を首にかけたくない。
そんなわけだから、身分証が出来上がるまでの間に魔法の勉強をすることになった。
ちなみにスライムは冒険者ギルドの宿屋部分にある私の部屋でお留守番である。
ヘレナさんに連れられてやって来たのは、町にほど近い森の中だった。
曰く、空気中に含まれる魔素が多い+魔物や魔獣が多く出没するから実戦訓練もできるから修行に最適なんだとか。
……で、できれば暫く魔物や魔獣は出てきてほしくないです……
「それじゃあまずはこれを飲みましょうか」
そう言われて差し出されたのは、ショッキングピンクの液体が入った小瓶だった。
……これを、飲めと。
恐る恐るヘレナさんを見る。平気そうな顔で同じものを呷っていた。
……ヘ、ヘレナさんがくれたものだし、大丈夫だろう。たぶん。きっと。わたししんじてるよ。
小瓶の蓋を取って、覚悟を決めて一気に呷る。
……桃缶のシロップをこれでもかと煮詰めたくらい甘い。
しかもなんだかドロッとして喉に張り付く感覚がするぅ……
小瓶の中身をなんとか吐き出さないように嚥下する。
これと魔法の勉強にどんな関連性があるんだろうか……
……ん?おお?
なんだこれ、ヘレナさんの周りになんだか赤い膜のようなものが見えるんだけど……?
しかも周囲もなんだか緑色の靄がそこかしこにふよふよ浮いているんだけど……
あと、私の周りがちょっと白い靄でいっぱいになってる。
なんか足元でドライアイス水に突っ込んだ?って聞きたくなるくらい白い靄が溢れてる。なにこれ。
「さっきの薬はね、飲むと魔力を可視化させることができる薬なのよ」
ああ、なるほど。だからヘレナさんの周りが赤い膜で覆われてるんだ。
そんでもってこの緑色の靄は風属性の魔力なんだろう。
……ん?っていうことは、このドライアイスばりにもあもあと足元に漂っているこれはもしかして、もしかしなくても?
「それで、貴女の魔力を見てみたんだけれど、見事にダダ漏れだわ。
なんで魔力欠乏症で倒れないのか不思議なくらい」
おうふ。やっぱりかー。魔力無限で良かったわ……
……だとしてもはたから見たら異様なんだろうな、これ。
ぴっちりと赤い膜で覆われているヘレナさんに対して、私はダダ漏れもダダ漏れだ。
「本当に大丈夫?ふらふらしていない?」
「大丈夫です。すこぶる好調ですよ」
「……本当に羨ましくなる魔力量ね……
ともかく、貴女の魔力で魔素だまりができる前に魔力が漏れないようにしましょうか。
魔力を身体にとどめてる状態は……そうね、ぴっちりとした服を着ている感覚に近いかしら。
それをイメージしてみてくれる?」
「はい」
魔素だまりってのがなんなのかは正直分からないけれど、なんとなく良くないものだということは察した。
とりあえずぴっちりした服……ライダースーツ……着たことがないから分かんない。
じゃあ水着……水に濡れたスクール水着を想像してみようかなぁ……
スク水……スク水……なんか変態みたいだな私。
でもスク水のこと考えてたらちょっとだけ白い靄の範囲狭くなったぞ。
この調子でスク水……あ、競泳水着なんかも良さそう。
布面積多いからよりぴっちりしそう。
スク水と競泳水着を頭に思い浮かべること、体感一時間。
ドライアイスを水に投入して足元に設置したかの如く、足元からもくもくと噴出していた私の魔力は……
なんということでしょう。
身体に沿うようにぴっちりと、無駄なくとどまっているではありませんか!
……うん、脳内で妙な一人小芝居するの止めよう。
ツッコミ不在でボケるのは空しいだけである。
「すごいすごい!最低でも半日はかかると思ったのに、飲み込みが早いのね!」
「ありがとうございます。ただ、ちょっと、疲れました……」
精神的に。
いやだってずっとスク水と競泳水着のことばっかり考えてたから……
あの張り付く感じを思い出すために結構色々具体的なところまで妄想しては、いやいや私は百合の変態じゃないと何度自分に言い聞かせた事か……
「そうね、二時間も集中していたし、少し休憩しましょうか」
……一時間だと思っていたら二時間だったでござる。
疲れるわけだぁ……




