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ピースブリッジの幻想郷(東方Project短編集)

不遇

この作品は東方Projectの二次創作です。苦手な方はお戻り下さい。

 一つ、ぬいぐるみが落ちていた。兎を模したぬいぐるみだった。

 ここは里の近く。こういった物が落ちていても大して不自然ではない。ただ、人間が落としたのか妖怪が落としたのか、それはわからない。幻想郷には、人形を愛する者も多い。


 薄桃色の、汚れた人形。何度か雨に打たれたのだろうか。破れてはいないが、ところどころ泥を被り、枯れ葉が引っ付いている。

 しかし、大事にされていた人形なのだろう。破れてもいないが、古めかしさが感じられる。幼少に貰い、大人になって尚飾ってあるような。そんな、人形だった。


 拾ってみようか。


 ……いや、呪術の類いかもしれない。


 紫様は、こうした物を無闇に触るな、という。人形とは人の形。何が宿っていてもおかしくはない、と。

 藍様も、わからない物は触らない方が良い、という。一見して乱雑にあるそれも、もしかしたら術を構成する一部かもしれない、と。


 立ちすくんで、人形を見下ろす。

 晴れ渡る空は、どこまでも高い。入道雲は太陽を邪魔せずに、強烈な日差しは、素肌を突き刺す。昨日は雨だったからだろうか。空気も澄んでいて、殊更日差しが強い。

 人形は未だ湿っているようだ。雨を受けて、己が内の綿に望まぬ水を与えられる。地面に触れていればそれは容易には渇かず、うだるような暑さに、まるで茹でられた蛸のようだ、とも思った。


 しかし、この人形には何故か、親近感を覚える。


 主人に見捨てられたのか、それとも単純に、落としてしまっただけなのか。それはあまり、関係がない。

 大事にされていた、家族とされていた。その存在が、忘れ去られる。それを八雲家と私の関係に、当て嵌めてしまう。考えすぎだとはわかっている。だが、考えてしまう。


 きっと、私は出来が悪い。紫様は、藍様も式になり始めは出来が悪かった、という。橙も、焦らなくてもいい、と言って下さる。藍様も近しいことを言うし、私はそれに甘んじていた。

 ただ、少しずつ知識が増え、世の理も囓り始めれば、さぁ私はこれから先、八雲の姓が与えられるのか。その可能性について、懐疑的になる。


 人形は、可愛い。そう、新たな家族に迎え入れた時、それは弟や妹が増えたように、大事な存在だと思う。愛情も注ぐし、壊れれば、直す。

 しかし、その人形に変わる物や、その人形を越える物が出てきた時。その人形はどうなるのだろうか。


 よもや、その人形が一子で、出来が良いのが二子とはならないだろう。人形ならば、捨てられる。供養程度はされるだろうか。……あの暖かな場所には、戻れない時が来るのだろうか。


 遠くで聞こえる蝉の音が、暑さを増幅する。


 この人形も、陰干しにでもしなければ、そもそも黴が蔓延り、色褪せ、価値がなくなるだろう。付喪神にでもなるのだろうか。そうなれるだけでも、幸せなのだろうか。


 自暴自棄であると、自身が感じる。

 私はうち捨てられた人形に手を伸ばし、優しく、優しく、抱き上げる。呪術があっても。何らかの影響があっても。この人形には、罪はないではないか。


 見た目通り、雨に打たれた人形は湿っていて、その上、陽に曝されて握れば熱い。不安よりも、可哀想だという感情が優る。


 里に持って行ってみよう。もしかしたら、探している人がいるかもしれない。持ち主が見つかれば、今ならまだ、直すことができる。

 そして直すことができる内に直さなければ、それは壊れることしかできない。


 私という、一つの式が。八雲という家に認められますように。


 持ち主を探す人形を握り、それでも尚利己的な欲に浸る。

 そんな自分が本当に嫌いだった。

読了頂き、ありがとうございます。

橙はこの後、紫様と藍様に泣きながら怒られて抱きしめられて美味しいお夕飯を食べるので、ご安心下さい。

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