第8話 分からない事だらけ
(今日はいろんな事があったな......)
詐欺に会いそうなった所を助けてもらったと思ったら、その子にこうして泊まる部屋を貸して貰って、道端で偶然会った奴隷少女が貴族だったんだもんなぁ.....
明日は早く起きないといけないからもう寝ないとダメなのに、いろいろ考えちゃって全然眠れない。
いろいろって言うのは、女子二人と同じ部屋で気分が落ち着かない事じゃなくて、奴隷の少女アイリスの事情だ。
こうして宿のベッドに入る前。
3人とも夕食を食べ終わって、自己紹介なんかしながら親交を深めていた時、アイリスが西の貴族ペンフォード家の娘である事がアイリス自身の口から語られ、フレアによってそれが本当の事だと分かった。
さらに、アイリスはペンフォード家に......家族に売られたと言うのだ。
とにかく早く寝よう。
明日は早く起きないと。
でも、考え込んでしまう。
フレアとアイリスが宿で話していた事を。
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「家族に売られた......!?」
俺には理解できなかった。
アイリスが、ユリス王国有数の貴族の娘が、なぜ家族に売られなければならないのか。
ペンフォード家は4大貴族の1つ。
金が無いから娘のアイリスを売った、なんてのはありえない。ペンフォード家が金に困ることなんて、ネイヤンの町民が正体不明の感染病で滅んだとしても絶対に無い。
王族、貴族は町民から税金を取っているが、それは微々たるものだ。彼らは税金が無くなった所で生活が揺るがない、ものすごい大金を所有しているという。
だから金銭目的でアイリスを売った訳じゃない。
だったらなんでだ? なんでアイリスは家族に売られなきゃいけなかったんだ?
「アイリス様、どうされますか? 今のままではご家族の元に戻られてもまた......いえ、今度は奴隷商に売られる程度では済まないでしょう。それでも、ペンフォード家に戻られますか?」
「はい。わたしには戻らなければいけない理由があるのです。少しでも早くペンフォード邸に戻らなければ......」
「......わかりました。今日の所は私の宿でお休みください。明日朝一で出発し、ペンフォード邸宅までお送り致します」
「いえ、まずは王都に行こうと思います。そこで準備を整えてからネイヤンに向かいます。その方が確実性は高まります」
「わかりました。では王都に向かうよう手配を」
「いえ、目立つのは避けた方がいいでしょう。それに連中はまだ、わたしが奴隷として捕まっていると思っているはずです。わたしが逃げ出したという情報が連中に伝わる前に、少人数で出発しようと思います」
「では、そのように」
では、そのように。
いや、どのようにだ。
また俺だけ置いてけぼりにされてる。これで2度目だ、この短時間で2度も話に付いていけずに置いてけぼりになった。
「フレア、今なんの話をしてるんだ? 俺、話に付いていけてないんだけど」
「フレアさん。そういえばこの人は何者なんですか? フレアさんの仲間の方ですか」
「アランは王都に向かって旅をしている者です。仕事を探しに行くそうです」
やべぇ、2人の話に入れない。
「そうだ......アランは腕に覚えはある?」
「えっ......ええ、まあそれなりには」
コメッコ村では魔法の勉強もしてたからな。その辺のチンピラには負けない程度に強いはずだ。
もっとも、実践経験は無いが。
「わかったわ。私とアイリス様は明日の朝一で王都に向かう。アランの行き先も王都でしょ。だから私達は、あなたを護衛として雇うわ。それでいいわね?」
「は、はい......」
しまった! つい気圧された。
肝心な事は全然聞けてない。
「そうと決まれば、早く宿へ行きましょ」
ーーーーー
肝心な事は何も聞けないまま宿に着いて、2人はすぐ眠ってしまった。
とにかく早く寝よう。
明日は早く起きないと。