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第7話 売られた

 ここで俺の転生した国、ユリス王国の地理と歴史について少し語ろう。


 ユリス王国は中央に[王都アルノン]があり、東西南北に1つずつ大きな都市がある。


 北には[工業の町ガレック]。

 南には[農業の町ファーム]。

 西には[美食の町ネイヤン]。

 東には[芸術の町リアート]。


 これら4つの町は、ユリス4大地方都市と呼ばれている。


 単純な大きさや発展度だけなら、俺達が滞在しているこの[商業の町マリナ]の方が王都に近いため、より発展していて面積も広い。


 それなのになぜ4大地方都市なのか?

 マリナは王都に近いと言っても、十分に地方と呼べるぐらいには離れている。

 だというのになぜ都市に数えられないのか?


 その理由は案外シンプルなものだ。


 貴族が暮らしているか、暮らしていないか。

 その1点のみだ。


 貴族とは、このユリス王国において王族に次ぐ地位と権力を持つ一族である。


 このユリス王国の政治は王族と貴族が行っていて、彼らはそれだけの権力を持っている。

 彼らに意見する事ができるのは、ユリス試験でも上位3番以内の成績で合格し、国の内政に関わる権利、賢人権を得た人達だけだ。


 王族、貴族がなぜこれほどの権力を持っているのか?

 それはユリス王国が建国する8000年前からの直系だからだ。


 王族と貴族。

 同じ支配者階級ではあるが王族は国全体の民を、貴族は地方の民を支配している。


 ......支配というのは、言い方が悪かったか。

 彼らは国を、民の生活を守っているのだ。


 しかし、これほど長い間続いている国はもちろん、その間王の一族が変わっていないなんて、この世界でも転生前の世界でも聞いたことがない。

 この長い長い8000年の歴史は、彼らの権力を絶対の物としたのだ。



 ーーーーー



「わたしの名前は、アイリス・ペンフォードと言います」


 少女は確かにそう言った。


 ペンフォード。

 それは[美食の町ネイヤン]を治めている西の貴族、ペンフォード家と同じ家名だった。


(偶然? いやそれはない)


 ユリス王国に置いて、家名は身分を表す物としても使われる。家名が有る人と無い人でまず分けられ、その後平民と上級国民で分けられる。


 家名は、国の情報機関が全て調べ管理している。

 ましてや、貴族と被るなんてありえない。


 とすると考えられるのは......

 この少女が嘘の家名を語っている可能性だ。


 だが、貴族は滅多に表に出ないため、顔を見た事がある人自体が少ない。

 だから嘘をついてもそれがホントかウソか見分けるのが困難なのだ。


 しかし、全く方法が無いわけでは無い。

 貴族は自らの地位を示す証として、記章というバッジのようなものを持っていると本で読んだ。


 それには特殊な魔法が込められており、複製が不可能な代物らしい。

 そのため、記章を持っていれば本物の貴族だとわかるのだ。


「アイリスは記章を持ってるの?」


 俺よりも先にフレアが質問した。

 やはりフレアも半信半疑なようだ。


「きしょうは、拐われた時に取られました」


 当然だ。

 誘拐犯が記章だけ剥ぎ取らない理由が無い。

 でもこれじゃあ、本当に貴族で記章を取られたのか、それとも元から持っていなかったのかわからない。


 仮に偽物だとして、嘘をつくメリットはなんだ?


 ......やっぱり、この状況で貴族の家名を語る理由がわからない。嘘だとバレれば殺されてもおかしくない。

 それだけ、貴族の名には重みがある。


 だとすると、やっぱり本物なのか?


「わかったわ。あなたは本当にアイリス・ペンフォード様みたいね」


「うん」


 あれ? ホントに本物なの?


「あの......記章を持ってないのに、なんで本物だって分かったんですか?」


「敬語じゃなくて?」


「......わ、分かったんだ?」


 うっかりしてた。

 やっぱり長い間、敬語ばっかり使ってると体が覚えるのか。


「私が近衛騎士だから。とだけ言っておくわ」


 はぐらかされた。

 近衛騎士だったら分かるもんなのか?


 とはいえ、フレアがそう言うのなら信憑性も高い。アイリスが貴族なのも本当なんだろう。


 そうなると2つ。新しく疑問が生まれる。

 貴族が外出するとなれば、それ相応の護衛が付く。誘拐犯はどうやって護衛を突破し、なぜアイリスを連れ去ったのか?

 もう1つは、貴族の娘が拐われたというのに、なぜ衛兵が動かないのか?


 この2つだ。

 1つ目は誘拐犯が護衛以上の手練れで、金銭目的ということで説明がつく。

 だが、2つ目は見当もつかない。


 なんで、衛兵は動かないんだ?

 拐われたのが数日前なら、とっくに捜索願いが出されてるはずだ。


「その......アイリス様......アイリス様はもしかすると......」


 さっきまであんなに堂々としていたフレアが、なんだか言いにくそうにしている。

 何を言おうとしてるんだ?


「いいんです、フレアさん。もう分かっています」


 アイリスはフレアの言おうとした事を察しているみたいだ。何を言おうとしたんだ?

 俺だけが置いてけぼりになってる気がする。


 だが、話に付いていけずにいた俺も、次に発せられたアイリスの言葉で全てを理解した。

 フレアがなぜ、口に出す事を躊躇ったのかも。


「わたしは、家族に売られたのでしょう」

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