第3話 マリナの町の裏事情
さて、何が起こったんだろう?
マリナの町に入ろうとしたら、厳ついお兄さんに止められ通行料を要求された。
通行料がいるなんて知らなかった俺は、通行料を払い町に入るか、お金を残しておくため町の外で野宿するかを考えていた。
ここまではOKだ。
問題はこの後だ。
俺が考え込んでいた所に、腰に剣を下げた赤髪美少女が現れ、彼女の顔を見た途端、お兄さんは顔を真っ青にして逃げていった。
ここだ。ここの状況がよく分からない。
彼女は何者で、なんでいきなり話に入ってきたりしたのか。
彼女を見たお兄さんがなぜ逃げたのか。
考えるより聞いた方が早いか。
「あの......危ない所だったって、どういう意味ですか?」
「はあ、やっぱり気付いてなかったのね......君この町に来るのはじめてでしょ」
なんで分かったんだ......!?
いや、そういえばついさっきまでマリナの町を見て呆気に取られてた。その時の俺を見れば、この町に来た事がはじめてだって事くらい分かるか。
「マリナの町に入るのに、お金なんて要らないわ。さっきの人は君みたいに、この町へ初めて来る人から、通行料の名目でお金を騙し取ってたの」
あー、なるほど。そういうことか。つまり俺は詐欺に会いそうになってた訳か。
......バカじゃん、俺。
くそっ! こんな簡単な詐欺に引っ掛かりそうになるなんて。コメッコ村の住民は、優しい人ばっかりだったから油断してた......! 人が多い所には、それだけ多くの犯罪が渦巻いてるって忘れてた! 日本に居た時はこんなんじゃなかったのに......これが平和ボケってやつか。
「そうだったんですか......危ない所を助けて頂き、ありがとうございました」
助けて貰ったら「ありがとう」と言う。
人として当然のマナーだ。
「うん! どう致しまして。私も職業柄こういうことは見過ごせなかっただけだから、気にしないでいいわよ」
職業柄か......彼女の着ている衣服も何かの制服に見えなくもない。腰に剣も下げてるし。衛兵でもやっているのだろうか?
「ひょっとして衛兵の方ですか?」
「ううん。でも、町の人を守るって意味では同じかな」
違ったらしい。しかし、さっきの男の慌てっぷりを見ても、それに近い人なのは確かだ。
まあ、そんなことはいいか。
余計な詮索なんてしない方がいいし。
それよりも町に入るのにお金が要らないと分かった訳だし、早く宿を取りに行かないと。
「じゃあ、僕はこの辺で」
急がないと宿が無くなっちゃう。
「ねえ、私も一緒に行っていい?」
彼女にそう呼び止められた。
「えっ、な、何でですか?」
「だって君この町は初めてでしょ。さっきみたいな事がまたあるかもしれないし」
嬉しい申し出だけど......
「それはあなたにも迷惑が掛かりますし、大丈夫です。次からは騙されないよう気を付けるので、心配してくれなくてもいいですよ。今日泊まる宿を探さないといけないので失礼します」
これでよし! さっき会ったばかりの人にそこまでしてもらう訳にはいかないしな。それに、あんまり女の子の力を借りるのも気が引けるし、早く宿を探さないと。
「この時間だと、もうどの宿の部屋も満室になってると思うけど......」
嘘っ!? もう!? まだ日が暮れて少ししかたってないぞ!?
どうしよう......うん。こうなったら野宿だ。
「じゃあ野宿でも......」
「それはやめておいた方がいいわね。この町には人身売買をしてる裏組織もあるらしいし、こんな所で寝ちゃったら身ぐるみを剥がれるだけじゃ済まないわ。目が覚めたら牢屋の中にいた、なんて事にはなりたくないでしょ? 特に、あなたみたいな他の町から来た人は狙われやすいのよ」
商業の町の裏事情こわっ! 人間も商品かよ!
そんな事聞いちゃったら野宿できないじゃん。
宿には、満室でもう入れない。かといって、野宿すれば奴隷コース一直線。
あれっ? これ詰んでるくね?
ほんとにどうしよう......
「うーん、うーん」
思わず声に出して唸ってしまう。
「うーん、うーん」
うん? 俺の声じゃない?
彼女だ。目の前の彼女が声に出して唸っていた。
「よし! 決めた!」
何か決まったらしい。
「君、私の泊まってる宿へ来ない? わたしの部屋でよかったら一緒に使っていいわよ」
............え?
「よし! 決まりね!」
あまりの衝撃で思考停止している間に、女の子の部屋へのお泊まりが決定してしまった