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第1話 旅立ち

 目を開けるとそこはファンタジーだった。

 なぜファンタジーかだって? それはウサ耳っ娘がいたからさ。

 俺は数ある獣耳のなかでもウサ耳が大好きだ。

 でもウサ耳っ娘は現実にはいなかった。

 つまり、ウサ耳=ファンタジーなのだ。

 どうやら本当に異世界転生したようだな。


「おぎゃ〜、おぎゃ〜」


 うん? 近くに赤ちゃんでもいるのか?


「おぎゃ〜、おぎゃ〜」


 いや違う。俺だ。俺の声だ。自分の意思と関係なくそんなマヌケな声をあげていた。

 体も思うように動かない。俺はたった今産まれたばかりなんだ。

 そんな俺を3人の大人が見ている。


 1人目は、白衣の上からでも分かる大きな胸を持つウサ耳お姉さん。

 間違いなくかわいい。彼女の着ている白衣と、特徴的なウサ耳が彼女の大人の魅力を醸し出している。


 そんなウサ耳お姉さんは俺の下半身を見てから「元気な男の子ですよ」なんて言ってる。

 彼女は俺を落とさないようにか、自分の体に近ずけた。Gカップはあろうかという大きな胸が目の前にある。


(いやぁ、眼福眼福)


 自分が見られるのは恥ずかしいから嫌だけど、こっちから見るぶんにはいいもんだ。

 そんな事を思っていると俺はウサ耳お姉さんから後ろの人に手渡された。嫌だー離れたくないー。


 抵抗むなしく手渡されてしまった。

 俺を渡された人は、大きな産声をあげつつショボくれていた俺を大事そうに抱きしめ笑っていた。


 2人目は、黒髪ショートの女性だった。出産の時泣いていたのか顔は紅潮し息も荒い、目元には泣きあとがついていた。

 でも、それを含めても綺麗な人だった。この人が俺を産んだ母親なんだろう。


(それにしてもかなり若いな)


 まだ20代前半ぐらいか?転生前の俺より少し年上って感じだ。

 母親......いや、俺の新しいお母さんは「ありがとう......産まれてきてくれてありがとう......」って言ってくれてる。こんなに嬉しがられると転生したかいがあるってもんだ。


(トクン......トクン......)


 お母さんの胸元から音が聴こえてくる。

 この音を聴いていると心が落ち着いていく。やさしい音だ。

 赤ちゃんが母親に抱かれると泣いていても泣き止むのは、

 

 ・心臓の音を聴くと胎内にいたことを思い出すから

 ・柔らかい胸が好きだから


 なんて理由があるらしいからな。

 俺もずっと抱かれていたいぐらいだ。

 それなのに......


「早く!早くおれにも抱かせてくれよ!」


(静かにしろよ......お母さんの音が聴こえてないだろ......)


「早く!早く!早く!早く!」


 ええい、うるさい!

 空気を読まず、さっきから騒がしいこいつが俺の父親のようだ。ほんとにうるさい。やたら急かすし。

 いまは母親と産まれたばかりの赤ちゃんがふれあう場面だぞ。

 そんなに子供が欲しかったのか。


 俺は母親から父親に手渡された。

 

 3人目は、黒髪でハンサムな顔のせっかちなこの人だ。そして今たかいたかいされている。

 たかいたかいって異世界にもあるんだな。


 こうして上からだと部屋の全体がよく見える。西洋系の家具が並んでいた。ここは寝室かな? 自宅で出産したみたいだ。

 ウサ耳お姉さんは出産を手伝いにきたお医者さまって所か、白衣だし。


(さて、状況整理はこんなもんか)


 俺はこの2人の息子として生まれかわったみたいだ。


(今はまだ赤ちゃん時代だけど、成長すれば美少女たちとワクワクドキドキの大冒険をするんだ)


(それでそれで、俺の隠されたチート能力で敵を倒しまくってハーレム生活を送るんだろうなぁ。ムフフ)


 再びお母さんの胸に抱かれた俺は、そんな事を考えながら眠りについた。



 ーーーーー



 転生した少年はアランと名付けられすくすくと成長した。


 世界を救う英雄になるため、がんばった。


 朝から晩まで体を鍛え、寝る前には勉強もした。


 自分が魔王を倒し英雄になるためだった。


 5歳の時にはこの世界の言語をマスターしていた。


 さらに、不器用ながら魔法も使えるようになった。


 アランは着々と戦う為の力を付けていった。


 しかし、このファンタジー世界はアランが思っていたものとは、少し違っていた......



 ーーーーー



「えっ!?魔王ってもういないんですか!?」


「ええ、あなたが産まれる少し前に勇者様に倒されたのよ」


 アランは10歳になってその事実を知った。


 お母さんの話によると、魔王は勇者によってすでに倒されているらしい。


(まあ、うすうす感付いてはいたけどね....)


 だって平和だもん。

 俺が生まれた村がものすごい田舎な事を含めても平和。

 戦争とかしてる雰囲気は全くなく、ひたすらに平和だった。

 たくさんいた魔物も魔王が死んだ事で自然消滅したらしい。

 ここまで平和だと戦場で名をあげるという当初の目的を果たすことは出来ないだろう。

 でも俺は....


「勇者様に感謝ですね!」


 そう心から思った。


 俺は今10才だ。でも転生前の年齢を合わせると、精神年齢は28才。もういい大人だ。両親とそう変わらない。

 俺は大人になった。見た目は子供だけど....

「悪い奴を倒してやる」とか「世界を救う!」なんて英雄願望もなくなってしまった。痛いのは嫌なんだ。


 体を鍛えるのも毎朝のかるいジョギング程度になり、今では王都で仕事に就くため勉強漬けの毎日を送っている。


 王都には魔法を学ぶ学校、剣術を学ぶ学校、商業を学ぶ学校などいろんな学校があるらしいが、こんな人口の少ない田舎には学校なんてあるはずもなく自宅学習をしている。

 幸い子供の脳は物覚えがよくスラスラ頭に入ってきた。学ぶ事は多いが楽しい毎日だ。


「僕、王都で立派な仕事に就いてお母さんを楽にしてみせるから!」


「ウフフ、ありがとう」


 俺、この世界ではまっとうに生きていこうと思う。



 ーーーーー



 俺は15才になった。

 この世界では15才になったら成人だ。大人と認められ正規の仕事に就くことができる。


「忘れ物はない? お財布は持った? ハンカチはもった? それからそれから......」


「大丈夫だよ、母さん。全部持ってる」


 俺は今日、村を出て王都に向かう。

 村から1人で離れるのは初めてなので少し不安はあるが大丈夫だ。このためにずっと勉強してきたんだ。


「ほんとに1人でいくの? 最近、魔王軍の生き残りが不穏な動きをしてるって聞いたけど....パパに着いていってもらったほうが......」


 ここ10年以上音沙汰無かった魔王軍の残党たち。

 魔王が勇者に倒された後、姿を消した奴らが今になって動きだしたそうだ。


「大丈夫だよ、父さんも仕事で忙しいし。地図の通りに馬で走ってけば10日ぐらいで着くんでしょ? 盗賊くらいなら魔法でなんとかなるよ」


 お父さんに迷惑はかけられない。そのために、1人で行けるよう乗馬を覚えたんだからな。

 というか魔王軍も今になって動きだすなよ。俺がせっかく戦いとは無縁の人生を送ろうとしてるのに....もし俺が兵士として駆り出されるハメになったら、立派な仕事に就こうと積み重ねてきた勉強が無駄になっちゃうじゃないか。


「じゃあ、行ってきます」


「行ってらっしゃい。気をつけてね」


 母さんとの別れの挨拶を済ませた俺は、仕事を求め王都へと馬を走らせた。

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