たつね
ずっとずっと待っている。いつまで待てばいいのか分からず旅を続けている。
もう3000年はたったのか、そうでないのかも分からない位に。
僕の時は無限にある。でも。いつまで待てばいい?待っていても無駄なのか。ただ謝りたい。ただそれだけなのに。
3000年たっても許せない存在なのか。
_どんなに時を重ねても許されないのか_。
僕は日々そのことで頭がいっぱいだ。
旅を続けていて苦しんでいる人々がいるのに。その人を助けられない。もどかしい。
力はあるけれど使うことを許されていない。それならば力がなければいいのにといつも思う。
過去を振り返っても、どうすればよかったのか未だに分からない。
今でも_。
僕は貧しい国で生まれた。子供達は労働の為に産み育てるもの。そんな社会の中で生まれ育った。
それを嫌だとか思う暇もないくらいの日々。それが永遠に続くと思っていた。
だけど国に新しい王が生まれた。
それが僕の人生の起点。
「子供達に勉強を。優秀な子供にはその家族に報奨金を」
新しい王は僕たちに本とペンを与えてくれた。
僕は仕事の暇が少しでもあれば本を読んでいた。今から考えると絵本みたいな内容の本だったけど、今でも大切に持っている。
字の読み書きは一通り学校に行って習った。でも、それ以上は労働力がなくなるからといってえ、両親から学校に行くのを禁止された。
本当につらくて。悲しくて。泣きじゃくった。でも頑として学校には生かせてくれなかった。それどころか「学校になんか行くからこんなわがままに育ってしまった!」と父は怒り狂った。
だけど、一生懸命お願いして今まで以上に働くから本を読むのだけは許してもらった。
他の学校に行ける子供達から使い終わった本をもらい読んだ。寝る時間を惜しんで。
そして全員が受けなければいけない試験に僕は合格した。しかもトップだった。
トップだったので「他の国で勉強してもっと勉強を受ける権利」をもらった。
両親はもちろん反対した。条件を聞くまでは。
「国がこの子の学習が終わるまで報奨金をだします。優秀ならずっと、報奨金をだします。それくらい優秀な子供は国にとっての宝なんですよ」
先生が嬉しそうに両親に話してくれた。
「あの……。恥ずかしい話ですが報奨金とはいくらなんでしょうか。うちも貧乏なので金額によっては……」
母が思い切って聞いてみた。僕はただ見守るしかなかったので、心臓が爆発しそうな位に緊張していた。金額によっては僕は学校に進むことができるのだから。
「10万リッセンドですね。私がきいているのは」
「10万リッセンド?」
僕は少しびっくりしていた。10万リッセンドもあれば家族3人ぐらい働かなくてもすむ。その金額が出る?
「ああ。もちろん毎月ですよ。今回たつね君が出した成績はとてもすばらしいので+αあるかもしれませんが、国王がとても喜んでいらっしゃいます」
思考が止まってしまった。
10万リッセンドが毎月?そして+α?
10万リッセンドあればたぶん兄弟も両親も今までの暮らしをしなくてもすむ。
そしてそんな大金みたこともないのに毎月だって?
「そ、そんなにですか。うちのたつねに勤まるのでしょうか?」
金額の次は僕が本当に役に立つかどうか。10万リッセンドはそこまで両親の心をつかんでいた。
「もちろん。トティランカにいって勉強している間はずっとでます。そして金額は減りますがこちらに戻ってきて子供達の先生になってくださってもお金が出ます。先生になったら報奨金というより給料ですが、この国の力になりますからね!」
その言葉を聞いて僕たち家族は一つの結論に達した。
僕たつねは永遠にトティランカで勉強し続けなくてはならない。それが終わったら……。
僕の勉強への道はあっさりと許された。そりゃあ10万リッセンドなんてあくせく働いてもやっと1年で稼げるかどうかの金額だ。
兄弟もこれで勉強や遊ぶことが許されるだろう。
だけど。
僕はもうこの家に戻ることはないと分かっていた。この家に戻ればまた家族は貧乏生活に戻るのだから。
もう戻ることはない。
戻れなくていいんだ。勉強も許してくれない家になんて。
「じゃあね。たつね頑張ってね」
お母さんは今までに見せたことがないぐらいの優しい笑顔を見せてくれた。
僕もそれに答える。
「うん。頑張ってくるね。じゃあね」
僕はもう戻ることのできない道にすすんでいることをひしひしと感じでいた。
戻れなくていい。戻りたくもない!
どんな所に住んで勉強するかどうかも分からないけどここよりはマシだ!
この世界は神々の加護を直接受けられる。ある程度の年齢になると誰もが神の洗礼を受け神から名前を戴き、そして加護を受ける。
勉強内容は神から教えられた魔法や歴史などを学べるのだ。
そして勉強がうまくいって試験に合格したら神になれるのだ。
まだ誰もなってはいないけれど。
神になる前に色んな位がある。最高位が真龍帝位、神から与えられた神と同等の位だ。
それに心から憧れた。どれだけ勉強してもなれなかったとしても。
トティランカはすばらしい国だった。蔵書も先生も元の国と比較してはいけないぐらいのレベルだった。
問えばすぐに答えてくれる。
なんてすばらしい環境なんだろう。
ここにこれたことを本当に神に感謝した。ただ一つをのぞいて。
ただ一つは余りに面倒な存在だった。勉強はできるけどいやがる生徒も多数いたのだ。
僕には理解出来なかったけどある一定以上のレベルがあればこの国での勉強を許可されている。
次男以降の子供はここによく入れられてるみたいだった。自国で偉くなるためにうちを継がなくていい子供達が集められていた。
僕の国の基準が低かったために僕はこの国にいられることを実感していた。だけど元の国に戻るなんて死ぬ方がましだ!
僕は毎日他の生徒にバカにされながらも授業を受け、放課後も残って勉強していた。
先生も国である程度しか勉強をこなしていなかった僕の面倒をみてくれていた。
だけど劣等感と罪悪感に苛まれていた。
僕はこの国にいていいレベルの人間じゃない。だけど元の国に戻ったら勉強をするどころか家族に殺されるだろう。暮らしが元にもどるのだから。
戻る理由もないし、勉強を続けたい。
授業を受け放課後先生の教えを特別に受け、先生が忙しいときには龍の谷の近くの池のそばで勉強していた。
家に戻ってもバカにされるだけで勉強が進むわけでもないから。
池のほとりでの勉強は以外とはかどった。空気はきれいだしなにより実践も行いやすい。
そこで彼女に出会った。
彼女はそこで木の横に座り歌を歌っていた。綺麗な声だった。
「だあれ?」
突然振り向いて彼女はそう言った。僕はびっくりした。
彼女は僕より年上に見えたが余りに無邪気だった。
「僕は……この学校のものです。それよりあなたは学校の生徒なんですか?みたことありませんが」
ここは龍の谷があるために厳重管理されていて一般人は立ち入り禁止だった。そこにいる彼女を不審人物と思ってもおかしくないだろう。
各国から集められた学校だから年齢もバラバラだ。だけど雰囲気が違うのだ。あまりにも。
うまくいえないけれど、生徒ではない。
「私を知らないの?そっか他の国からの生徒か。ふふ。私はね、許可されてるんだよ。ここへの出入りを」
慌てるわけでもなく、ただ愉快そうに微笑む彼女は不審人物でもないと思い直し「すみません」とだけ答えた。
そうすると彼女は僕の方に立って近づいてきて話し始めた。
「あなたここの生徒なんだよね。さっき言ってたもんね。どう?ここは。ううん。この国は。私は他の国に行けないから知りたいんだ」
裕福な家の子供か。それが分かって僕は本を開きながら座った。
「いい国ですよ。僕がいた元の国より。他の国は知らないし元の国でも働いて寝るだけの生活だったからほとんど知りませんが」
彼女の問いに答えた後教科書を読み始めた。
もう関わりませんよという意思表示だった。
だけど彼女は身を乗り出して僕の読んでいる本を読み始めた。
「ふうん。こんなところやってるのね。分かるの?」
少し笑いながら話す彼女にむっとしながら「まあ少しは。分かるんですか?」と言ってみた。
「分かるよ。それぐらいなら」
この言葉で僕はカッとなった。それぐらい?僕はここ数週間この問題に悩まされているのだ。
使う方式は分かるんだけどなかなかうまく行かない。もどかしくて苦しんでる問題だったのだから。
「じゃあ答えてください」
意地悪を言いたくなった。これは先生も難しいから来月中にできればいいと仰った問題だ。そう簡単に出来る分けない。
「んー?よく問題見せてね。これはね、あ、紙とペン貸してくれる?」
そう言って彼女はノートにさらさらと答えを書き出した。
書かれていく答えを見ながら何故こんな問題で苦しめられてるんだろうと思うぐらいに衝撃を受けた。
「え……。これで?これで出来るんですか?」
答えを見たら出来ないはずがない。でも余りにも簡単に答を書いてる彼女を見たらそう言ってしまった。
「できるよ?実践してみたら?そうすればわかるじゃん」
無邪気に笑った。僕はカードを取り出し答えにかざして数式を読み込む。
そしてカードを実行させた。
そして実行結果は問題なし。こんなに簡単に動くなんて。おどろくよりほかはなかった。
「じゃあこの問題は?」
とりつかれたように彼女に問題を解いてもらってみた。
全部実行できた。余りにも簡単そうに解く彼女に思わず僕は言ってしまった。
「これからもここで僕に勉強を教えてもらってもいい?」
彼女は少し悩みながら「まあいっか。いいよ。これぐらいなら教えてあげるよ。いつでもいいよ?」
「毎日!毎日でも!」僕は叫ぶように懇願した。
「勉強好きなんだ。いいよ。私が教えられることなら。教えてあげる」
「ありがとう。本当にいいの?」
「もう!良いって言ってるだからいいの。暇だしね」
彼女は僕の頭を優しく撫でながら言った。僕は子供扱いされてちょっと不満だったけど、こうやって頭を撫でられるのは初めてだったので嬉しくもあり恥ずかしくもあった。
「ありがとうございます」
僕がそういうと彼女は立ち上がり「また明日もここでね!」と言って去っていった。
余りにも突然すぎて夢のことかと思ったけど彼女が書き残したノートの文字を見て夢じゃないと嬉しく思った。
「名前聞くの忘れたな……」
僕はそう呟いて彼女が解いてくれた問題をまた解き始めた。