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三日目 ルカの厄介な悪戯

 学園祭も今週末に迫った火曜日。放課後。

 二年D組の教室は混乱の渦の中にあった。


 

 真っ暗な教室。何かが倒れたような派手な物音。そして悲鳴。

 


 「ちょ、市藤、おまっふざけんなよ!」


 男子生徒の怒号を背に教室から飛び出してきたのは小柄な少年。悪戯が成功したとばかりににっこりと笑う彼の名前は市藤しとう晴夏はるか。女の子のような名前をした彼はルカというもうひとつの名前を持つ、天文部の一員である。







* * *



 晴夏のクラス、D組の学園祭の出し物はお化け屋敷だ。舞台発表はない。学園祭の目玉ともなるお化け屋敷は当然人気であり、それなりのクオリティが求められる。よって、毎年お化け屋敷を担当するクラスは舞台発表を捨ててお化け屋敷一本に力を注ぐことになっていた。


 大規模な学園祭がひとつの売りとなっている城凪高校は、明日から学園祭までは通常授業は休みとなり、学園祭の準備期間に当てられている。

 D組の生徒たちは最後の授業が終わると、さっそく教室をお化け屋敷へと改造し始めていた。窓に黒い布を張って太陽の光を遮り、壁も一面真っ黒で覆っていく。そして同じく真っ黒に色を塗ったダンボールやらなんやらで高い壁を作り迷路のように入り組んだ道を作り上げていく。

 軽く談笑しつつも各々自分に割り当てられた作業を真剣に取り組む少年少女。


 順調に黒くなっていく教室。

 しかし、その教室に不穏な影が近づいていた。






 まだ黒い布が貼られていない教室後方のドアの窓から中の様子をうかがう人影。晴夏だ。

 お化け役と恐怖の人形制作係を担っている晴夏は、さきほど制作した試作品である恐怖の人形、まりあちゃんを手に教室にやってきていた。まりあちゃん(試作品)を披露するついでにお化け役の練習という名の悪戯を仕掛けてやろうという魂胆である。

 晴夏は見た目こそ、その可愛らしい名前に似合った小柄で中性的な可愛らしい容姿をしているが、中身はずいぶんと厄介な男なのである。悪戯が好きなのだ。好きが過ぎている。

 いつもは晴夏の厄介な悪戯を、クラスメイトであり部活、天文部の仲間でもあるアイザックこと相崎和大が相手したり防いだり止めたりとクラスメイトたちの前でも、彼らの知らない水面下でも大活躍している。


 だがしかし、今日はアイザックは不在である。運動神経抜群な彼はサッカー部の助っ人に出ている。昨日はバスケ部の練習試合だったというのに忙しい。引っ張りだこだ。明日からは学園祭の準備に参加すると言っていたが、残念。アイザックのいない今日は晴夏の天下というわけだ。鬼の居ぬ間に洗濯、とばかりに晴夏はわくわくしながらまりあちゃんを抱きしめた。強く抱きしめられたまりあちゃんの顔が歪んでより恐ろしい顔になる。



 


 晴夏は笑みを深くすると、ポケットから黒い布と真っ黒の大きなゴミ袋を取り出すと、黒い布を外からドアの窓に貼り付け、ゴミ袋を頭からかぶった。目のところだけ小さな穴が開けられている。そして反対側のポケットからは小さな懐中電灯を取り出すと、教室のドアに手をかけた。


 音を立てないようにゆっくりとドアを開ける。半分ほど開けると、ドア付近にある電気のスイッチを押した。


 瞬間、窓という窓を全て黒い布で覆い尽くした教室は真っ暗になった。







 急に真っ暗になった教室に、作業中のクラスメイトたちが騒ぎ出す。

 誰だ電気消したやつ!やだ、ペンがどっかいった!踏むなそれ俺の手だ!痛いすべった!

 手元足元が見えず、文字通り踏んだり蹴ったりの教室に、不意に明かりが灯った。


 はっとクラスメイトたちが目をやるとそこには、狂気的な笑みを浮かべた血みどろの人形が。

 懐中電灯の明かりによって浮かび上がったまりあちゃんである。


 不自然に飛び出した血走った眼球、青白い肌、血がこびりついたボサボサの金髪。恐ろしいまでの笑顔のまりあちゃんは不気味な声を上げると動き出した。近くにいるクラスメイトを追い掛け回す。

 追い掛けられた男子生徒Aがうしろにいた女子生徒に突撃し、突撃された女子生徒Aが足元のガムテープに躓いて豪快にこけると床に座っていた男子生徒Bを教室の端まで突き飛ばし、突き飛ばされた男子生徒Bは壁に激突すると天井から吊り下げていたマネキンの生首が落ちてくる。近くにいた男子生徒Cの頭に生首が当たり、驚いた彼が後ろに飛び跳ねると迷路の壁を支えていた女子生徒Bに激突し、壁が崩れていく。ドミノ倒しのように次々と壁が倒れ、クラスメイトたちは何が何だかわからないまま壁の下敷きである。そして時折目に映る怪しい光と、恐怖のまりあちゃん。

 一瞬にして真っ暗な教室は阿鼻叫喚の地獄絵図となった。


 悲鳴が響き渡る教室。晴夏はまりあちゃんを持って不気味な声を上げながら教室中をゆっくりまわっていた。黒いゴミ袋の下で笑顔が止まらない。時折懐中電灯を消した、と思ったらまたぱっとつける。神出鬼没のまりあちゃんである。





 教卓付近までやってきた晴夏だったが、被っているゴミ袋が何かに引っかかった。外そうと動くがそのまま何か丸いものを踏んづけてしまった。躓きそうになっておもわず前へジャンプするとゴミ袋が引っ張られてビリッとやぶれてしまった。うわあと声を上げて床に手を付いた晴夏、そしてまりあちゃん。その拍子に懐中電灯が晴夏の方を向いてしまった。




 「ちょ、市藤、おまっふざけんなよ!」


 晴夏の顔を目撃した男子生徒が叫んだ。

 そこからの行動は速い。



 「くっそ!市藤の仕業だ!捕まえろ!」



 彼の叫びに教室中が一斉に動き出す。

 アイザックが防ぎきれなかった晴夏の悪戯に日々迷惑を被っている彼らの動きは素早い。だんだんと暗闇に目も慣れてきた彼らはクラス一丸となって晴夏を捕まえようと動き出した。












 

 「うおっ、なんだ一体」


 「柳先生!市藤がまたタチの悪い悪戯仕掛けやがったんですよちくしょう」


 「またあいつか。……お前ら廊下は走るなよ、って言っても無駄だな」


 「すんませーん」


 







 奇しくも晴夏の厄介な悪戯によって、クラスの団結力が強まった火曜日の放課後。




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