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二日目 アイザックの助っ人生活

 天文部員のアイザックこと相崎あいざき和大かずひろは横浜に来ていた。

 運動神経抜群の和大は普段天文部が暇なこともあり、様々な運動部の助っ人として駆り出されることが多い。長身の和大はバスケ部やバレー部に呼ばれることが多く、今日もバスケ部の練習試合の助っ人として一緒に相手校のある横浜までやって来ていたのである。


 先ほど試合はおわり、和大の活躍もあり城凪高校バスケ部が勝利した。予定より早く試合が片付いたため時間に余裕がある。現在、バスケ部員たちは仲の良い相手校とじゃれているところだった。

 和大は一人、ベンチでドリンクを飲みつつ彼らの様子をのんびりと見つめていた。



 


 「わりーな、相崎。学園祭の準備とかあったのに助っ人頼んじゃってよ」


 ふいに肩に重さがかかる。バスケ部の友人、長谷川伸二が和大にのしかかっていた。


 「いや、準備ばっかも疲れるし。それにまだ一週間…はないけどまあ時間はあるから俺一人抜けても全然問題ないよ」


 準備の方は問題ない。それよりもクラスメイトであり天文部の仲間でもあるルカのことが若干気がかりではあるが。悪戯好きの彼が学園祭準備で忙しいクラスにまたタチの悪い悪戯を仕掛けていないことを祈る。和大はルカの悪戯抑止係だった。クラスメイトに見えるところでも見えないところでも日々、ヤツの悪戯と戦っているのである。




 「そう言ってもらえると助かる。俺たちバスケ部はお前一人いるだけで百人力だかんな」


 「それは盛りすぎ」


 「いや、マジマジ」


 長谷川は笑いながら和大の肩に体重をかける。和大はオーバーに重がってみせた。



 「ちょ、重いって重い。百人力の相崎様が怪我したらどうすんだよー」


 「もう試合終わったから当分大丈夫だよ」

  

 「ひっでえ」


 笑い合う二人に少し離れたところにいたチームメイト二、三人が指をさしてなにやら笑っている。

 この二人、和大と長谷川は同じクラスであり普段教室でも一緒にいることの多い仲良しで、ホモ疑惑が立ったことがある。実際はただの友達なのだが、一部の女子からは熱い視線を向けられていることは彼ら自身も気づいている。それらを踏まえて、彼らの友人たち、特にバスケ部の友人たちは折に触れ彼らをイジってくるのである。



 「あーあ、またお前がくっついてくるからあいつらが調子乗るだろもう」


 みんな(一部の女子除く)本気ではないことはわかっているから和大も長谷川も何ら気にしていないが形だけ嫌がってみせる。


 「相崎がさっさと彼女作ればいいんだろー?お前背高いしスポーツ万能だしモテるだろ」


 「えー」


 実際に和大はモテモテではないが、モテないわけではない。バレンタインにはそれなりにチョコレートをもらう。


 「好きな子とかいないわけ?うちのクラス結構可愛い子多いじゃん」


 急に恋バナが展開され始め和大は面倒くさくなってきた。今は恋よりスポーツのお年頃なのである。だがしかし、長谷川の方はそうではないようで。


 

 「あいつは?吉川。結構可愛いじゃん。ちょっとドジっぽいけどそこがいいっていうヤツ結構多いだろ」


 「あー……」


 「え、なになに。いい感じ?」


 いや、そうじゃなくて。和大は吉川なるクラスメイトの顔を思い浮かべた。彼女は確か、天文部のヨシュアが随分前に片思いしていた女子だ。おそらく。いや、絶対。相談されたからよく知っている。しかし、彼女は同じく天文部のロミオにぞっこんだった。ヨシュアの哀しい思い出だ。


 「え、ちげーの?じゃああの子は?隣のクラスの春野さん。可愛いじゃん」


 「………」


 春野さんといえば、またもやヨシュアの元片思い相手だ。最近の。そしてまたも残念ながら彼女もロミオが好きなようだった。ヨシュアの哀しい思い出だ。

 


 「じゃあ……」


 「もういいもういい」


 「え、なんで、いいの?まあいいけど」


 続けようとする長谷川に和大は思わずストップをかけた。またヨシュアの哀しい思い出が蘇ってきたらもう、悲しすぎる。報われなさすぎだ。




 「……まあ、ちょっと悪かったな。うんあれだろ?瀬野の哀しい話だろ?」


 「知ってたのかよ!」


 舌を出して見せる長谷川に和大はため息をついた。だからもう、コイツはタチが悪いんだ。



 「瀬野、いい奴なのにな。なーんか報われねえんだよな」


 「そう。なぜか尽くロミ…、八城に持ってかれんだよアイツ」


 ヨシュアが好きになった人はみんなロミオのことが好き。そう恋愛に重きを置いてないらしいヨシュアでもこう続くと不憫だ。辛い。相談される和大も辛い。和大はいつの頃からか、気付いたらヨシュアの恋愛相談役になっていた。ヨシュアは和大以外に相談している様子はなかったというのに。和大は彼の恋心を見抜いていた長谷川の瞳を見つめた。長谷川はこういうことに極めて鋭かった。よくも悪くも。


 「そんでもって、八城もいい奴なんだよなあ……。だからなんかもうどうしようもねえっていう」


 「人生うまく行かねえもんですねえ」


 「あ、でもさ、知ってるか?A組の西崎さん。あの子瀬野のこと好き、らしいぜ」


 「え、マジで?あの西崎さん?清楚なお嬢様って感じの西崎さん?」


 「そうそうその西崎さん」


 「へえ、見る目あるねえ、西崎さん」


 和大は話したことはないが、西崎さんといったら美人である。お嬢様風の美人だ。ロミオじゃなくあえてヨシュアを選ぶなんて、中々見る目あるなあ、と関心しつつヨシュアがちょっと羨ましかったり。今は恋愛する気はないといえども。



 つらすぎる恋愛相談から解放されるためにも、ぜひとも西崎さんにはヨシュアを射止めてもらいたい。

 強く、そう思った横浜の体育館の午後。





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