冬の約束
クリスマスということで。
クリスマスイブの夜、男の子は、本物のサンタクロースに出会った──
*
早く寝なさいと言われていたのに、男の子は不安で寝付けなかった。
そして、二階の男の子の部屋で、サンタクロースと出会った。
「おや……まだ起きてたのかい……?」
「あ! ……うん。サンタさん……、あのね……」
窓の外でソリに乗ったサンタクロースは、ヒゲをなぞりながら男の子を見る。
男の子は不安げにサンタクロースに言う。
「っ……僕ね、プレゼント、おもちゃのロボットってお願いしたんだけどね、その……」
もじもじと、言いにくそうにサンタクロースを見る。
サンタクロースは、知っているよ。と言わんばかりに笑った。
「ラジコンカー──ラジコンカーが欲しいんだろ? 大丈夫だよ。ほら、プレゼントだ──」
サンタクロースは大きな袋から、四角いプレゼントの箱を取り出して、男の子に渡した。
「これって……」
「ああ、君が欲しがってたラジコンカーさ。大切にするんだぞ?」
「うん! ありがとうサンタさん! ……でも、どうして?」
ロボットをお願いしてたのに……と男の子はサンタクロースに訊く。
サンタクロースは、ふぉっふぉっふぉっ、と笑うと答えた。
「私は“今”欲しがっている物をプレゼントするのが仕事だからね」
「そっか! あ、サンタさんにプレゼントあるんだ! ちょっと待ってて──」
男の子はラジコンカーをベッドに置くと、部屋の中を探し始める。
だがそのプレゼントは、買い物に行ったときに、車の中から持ってくるのを忘れてしまっていた。
「……サンタさん、ごめんなさい……。忘れちゃった……」
と男の子はサンタクロースに申し訳なさそうに言う。
「ふぉっふぉっふぉっ、いいさ。私はプレゼントをあげるのが仕事で、貰うのが仕事じゃないからね」
とサンタクロースはヒゲをなぞる。
それでも男の子はプレゼントを渡したくて、サンタクロースに言った。
「ら、来年……! 来年渡すから、また来てくれる……?!」
「来年かい……? ……来年は、駄目だな……」
「じゃあ再来年は?」
「再来年もちょっとなぁ──」
とサンタクロースは渋る。
なぜサンタクロースが首を縦に振らないのかというと、本来は会ってはいけないことになっているのに、会ってしまったからだ。
そして、なおかつまた会う約束をしようとしている。
「サンタさん……」
「…………わかった──十年。十年後なら、大丈夫だよ。それまで待ってられるかい──?」
男の子が引く様子もなかったので、サンタクロースは渋々提案した。
さすがに男の子も頷かないだろうとサンタクロースは思っていたが、男の子はぱあっと笑顔になって頷いた。
「うん! 待ってるね!」
「……ぇ、あぁ……」
サンタクロースは曖昧に頷いて、男の子が忘れていることを願いながら窓から離れた──。
*
あれから、十年。
男の子は成長し、高校生になった──。
「明日はクリスマスだな!」
「この時期になると、お前テンション高くなるよな──」
と放課後の帰り道、三弥はテンションが高くなっている中津に言った。
「サンタさんにやっと会えるんだ! 楽しみに決まってるだろ?」
と中津は笑顔で言う。
「あの時に、十年後って言われたんだ──それが今日! やっとサンタさんにプレゼント渡せるんだ……!」
「幻なんじゃねえの? 小さかったんだろ?」
と三弥は中津に言う。
でも中津は、そんなことはない! と強く否定した。
「幻なんかじゃねえ! だって、次の日起きたら枕元にプレゼントがあって、それはおもちゃのロボットだったんだぞ。でも、俺はもうサンタさんからラジコンカーもらってたんだ。てことは、それは親が夜中にこっそり入ってきて置いたってことだろ?」
「……そう、だな──」
言われてみれば……と三弥は唸る。
「だから、サンタさんはいるんだよ。幻なんかじゃねぇ」
「はいはい……」
と呆れたように三弥は頷く。それから思い付いたように、中津に言った。
「それよりゲーセン行かね?」
「それよりってなんだよ! 行くけど」
「行くんじゃん──」
二人は笑って、ゲームセンターに向かって歩き始めた──。
*
「よし……、準備はいいか──?」
サンタクロースはソリに大きな袋を乗せて、トナカイを撫でる。
トナカイは返事をするように、サンタクロースに頭をすり寄せた。
「そうかそうか……。じゃ、行こう──」
サンタクロースはソリに乗り、手綱を軽く引っ張る。
トナカイは軽快な足取りで走り出した。
「……覚えているだろうか──」
あの男の子は……。とサンタクロースは覚えていてほしいような、ほしくないような、少し複雑な気持ちになりながら手綱を握りなおした──
*
夜、中津は自室であの日渡せなかったプレゼントと、今日ゲームセンターで取った腕時計を近くに置いて、窓の外にサンタクロースが現れるのを待っていた。
「まだかな──」
時計に目をやると、そろそろ二十五日になる数分前だった。
「……忘れてるとか、ないよな? ……ないないないない! だって俺忘れてないし? 約束したし? あ、でもサンタさんってよくよく考えたらおじいさんだよな……。いや、でもサンタさんに限ってそれは──」
と一人ベッドに座って悶々としていると、外からシャンシャンシャンシャン……と鈴の音が聞こえた気がした。
「来た──?!」
ベッドから素早く降りて、中津は窓を開けた。
冬の寒い風が、中津の上半身を包む。
「さっぶ──あ」
ブルッと体を震わせて前を見ると、サンタクロースがこちらに向かって来ていた。
「……っ、サンタさーん!」
思わず手を振って、中津は窓から体を乗り出す。
サンタクロースはそれを見て、一瞬目を見張ってから笑った。
「危ないから、やめなさーい」
少し距離があるので、サンタクロースは中津に聞こえるように声を張る。
それが聞こえたのか、中津は手を振るのをやめて大人しくなった。
窓の前に止まって、サンタクロースはかつて男の子だった中津を見て、忘れてなかったんだな……と思う。
「久しぶり、サンタさん! ちょっと待ってて! あの日みたいにならないように、ちゃんと準備したんだ──」
と中津はあの日渡せなかったプレゼントと、腕時計を持ってきてサンタクロースに渡した。
「……いいのかい?」
「もちろん! てかマジで十年とか、長かった~」
と中津は苦笑いして言う。
「っ……あぁ、長かったよ。でも、ありがとう。今、とてつもなく嬉しいよ……」
サンタクロースは、さっきの複雑な気持ちが、覚えていてくれて良かったという思いに変わって笑った。
「ふぉっふぉっふぉっ……、泣きそうだ……」
「やだなぁ、ティッシュいる?」
「いや、我慢できる……。気を使わせて悪いね──」
とサンタクロースは目頭を押さえてから中津を見た。
「……子どもは、大きくなるにつれて私を信じなくなる。そして、私も子どもたちとは本来会ってはいけないことになっている。だからあの日は十年と言って、キミが忘れてくれることを願った……」
中津は黙って、サンタクロースの話に耳を傾けている。
「でも、ダメだな……。こんなことをされたら、忘れてくれなんて願えない──」
とサンタクロースは苦笑いして、貰ったプレゼントを優しく撫でる。
「……何言ってんのサンタさん。そんなこと願われても、俺忘れるつもりなんてさらさらないから。てか、サンタさんはいるぜ! って言いふらすし」
と中津はにかっと笑う。
「……そうか。でも、もう会うことはないんだ──もう少し、早く会って言えばよかったかね?」
サンタクロースは苦笑いで中津に問う。
「ん〜……。いや、ちょうどいいと思う。小さかったら泣いてたかもしんないし、今の方が物わかりいいしさ、大人の事情とか──受け入れられるっていうの?」
と中津は笑って答えた。
サンタクロースは、そうか。と微笑むと、
「じゃあ、そろそろ行くよ。風邪引くから、窓はしっかり閉めるんだよ──」
と言って、思い出したように袋からプレゼントを取り出して渡した。
「良いクリスマスを──」
「もちろん。サンタさんもね!」
「ああ、もちろんだ──」
サンタクロースは手を振ってから手綱を引っ張り、窓から離れていった。
そして中津は、プレゼントの中身を見て、ぷはっと笑った。
「赤のマフラーって……派手じゃね?」
遠くなるサンタクロースを見送りながら、まぁ、いっか──。と中津は呟く。
そう呟いた言葉には、優しい響きがこもっていた──
*
「……おや、これは──」
プレゼントを配り終えてから、サンタクロースは中津から貰ったプレゼントを開けた。
そこには、小さい頃の中津がサンタクロースに宛てた手紙と、茶色い手袋が入っていた。
「…………」
貰った腕時計と手袋をさっそく装着して、ふぉっふぉっふぉっ、と笑う。
それから手紙に目を通し、サンタクロースは目頭を押さえてから、小さく笑うのだった──
サンタクロースは居ます。
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