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危険日


 五話です。



「ねえ、そういえばわたし、今日危険日だった」

「それならそれでいいんじゃない? 結婚しよう」


 現在。


 日本の法は変わり、男子も16歳で結婚できるようになった。


 俺の誕生日は四月二日で、日向は同月七日なので、今から七ヶ月もすれば結婚できる。



「それもそうだね。結婚しよう」


 ちなみに。


 いま父母お義父さんお義母さんは出払っていていない。


 四人とも朝早くから働いているのだ。


 だからこそ、朝からあんなことができたわけで。


 あんなことがどんなことかは誰にも言わない。


 いや、むしろ自慢したいんだけど、それは置いといて。


 あの記憶は俺だけのものだ。


==============================


 後片付け(処理とも言う―――畳が真っ赤になったのはどうしようか迷った挙句裏返しておいた。多分大丈夫じゃね?)をしたあと、日向に服を着させる。


 そのあと自分も服を着て、とりあえずお茶を入れる。


 日向の家は緑茶、うちは烏龍茶だ。


 俺は緑茶の方が好きなので、日向の家に入り浸ってる。


 まあ、そんな理由抜きにして、日向と一緒にいるためにここに居るわけだが。


 そしてお茶を飲んで一息ついた頃だ。


 家に電話がかかる。


 Prrrrr―――Prrrr―――Prrガチャ


「もしもし」

『もしもし? 勇士くんだね? よく聞いて欲しい。君のお父さんはね、死んでしまったんだぎゃあァァァァァァァァっァあぁ!』


 ガチャン――ツー、ツー、ツー。


 父さんが、死んだ?


==============================


 あの後、立て続けに電話があって、母さん、そしてお義父さんお義母さんも死んだことを伝えられた。


 涙が視界を歪める。


 と。


 ふいに。


 頭が日向の胸にうずまる。


 日向に抱き寄せられたのだ。


「男の子でも泣いていいんだよ。わたしがいるからね。勇士には、わたしがいる」


 久しぶりに、声を上げて泣いた。


==============================


「ありがとう。だいぶ落ち着いた」


 日向が優しく俺の頭を撫で続けてくれたおかげで涙は収まった。


 そうだ、俺には日向がいる。


「日向も、辛かったら泣いていいよ」

「うん。そうする。胸貸して」


 どうぞどうぞ、と胸を叩く。


 日向が泣いているところも久しぶりに見た。


 可愛い、とは思ったものの、二度と見たくなかった。


 もう二度と日向に悲しい涙は流させない。


 そう、心に決めた。


==============================


 再度落ち着きを取り戻し、居間でくつろぐ。


 今にD.F.S.人が襲ってくるかもしれない、と考えると不思議な感覚だ。


 と。


 ドゴォン


 音からして多分俺ん家の玄関が破壊された音が聞こえた。


「いくぞ日向」

「うん、行こう!」


 日向の手を引いて、日向の家側の玄関から外へ。


「うわー、見事に全部壊れてるね」

「本当だな」


 家を出て右側。


 右側は完全に更地になっていた。


 瓦礫しか残っていない。


 どう見ても生存者はいないだろう。


 しかし対照的に左側は無傷。


 まるで端っこから順番に丁寧に潰して回っているかのようだ。


 というか、まるでもなにも、その通りだし。


「右と左、どっちがいいと思う?」

「右がいいと思うな」


 走りだしてから日向に聞く。


「なんで右?」

「勇士の……が、右曲がりだったから……」

「そんなことを往来で言うんじゃありません」

「でも、何もないし」

「それもそうか。俺しかいないからいいよな、別に」


 しばらく走った頃だ。


 D.F.S.人に追いつかれた。


「待ちなさい、君たち」


 どうやら、彼は日本語を話せるらしい。


「誰が待つか!」

「まあ、待つ訳ありませんよね」


 瞬間。


 俺の心臓のあたりを雷の槍が貫いた。


 その一瞬だけ日向と繋いだ手を感電を防止するために離し、また繋ぎ直して走り続ける。


「あの、普通の人間じゃなくても今の攻撃を喰らえば死ぬと思うんですけど」

「というかお前、能力者か!?」

「ええ。D.F.S.人も全員超能力者ですよ」

「はぁ!? 聞いてないぞ!?」

「そりゃあ聞いてないでしょうね。言ってませんし、今日初お目見えですし」

「なんでD.F.S.人が超能力を使えるのよ?」

「いや、ね。うちの国民の中にも日本人がいるんですよ。彼らはもちろん超能力者ですね? だから私たちは彼らを研究して我ら国民の三人の日本人が持ち込んだ、Ⅲ群『サンダー』Ⅳ群『瞬間移動テレポート』『隠蔽ステルス』の能力を全て自由に使えるわけですよ。

 D.F.S.人は全員この三つの超能力を持つ能力者ですよ。…………さてさて、一体三つしかレパートリーがない代わりに一人一人が三種類超能力を持ってる人間か、私たちの知らない能力を持つ人間か、どっちが強いんでしょうね」

「知るか! でも多分俺たちのほうが強い!」

「そうですか。でもそれはやってみないとわかりませんよねぇ。…………サンダー!」


 そいつが右手のひらから放つ雷は真っ直ぐに日向に伸びて――――


「ッ危ない!」


 地面に脚を突き刺しながら日向に飛びつき、日向の後頭部を保護してから押し倒す。


 カッ!


 危ない。


 雷は頭上を通り過ぎていった。


「おやおや。外しましたか……サンダー!」


 ぐッ。


 一瞬ぴりっとしたあと、雷が抜けていった。


「さすがに今ので死んだんじゃないですか?」


 ヒョイっと、右手を上げる。


「アース。知ってる?」

「なんですか、それは」

「そうか、空中での生活が長いから知らないか」

「ええ、聞いたこともありません」

「アースってのはな、電流を地面に流すことで人に流れる電流を受け流す仕組みのことだ」


 多分。


 これで大まかには合ってる。


 ほかにも使い方はあるが、まあ今はこれで通じるんじゃね?


「そうですか。まあ、私には関係のないことですけど……ねッ!」


 脇腹を蹴られ、一瞬息が詰まる。


 雷光をまとった蹴りに、俺はなすすべもなく吹き飛ばされる。


 そして。


日向ひゅうがァァァァァァァァァァ!」


 雷光をまとった脚が、日向の顔面を踏みつぶした。


 完全に溶けきって、あとには何も残らなかった。


「守るって、守るって決めたのに……チクッッッッッショォォォォォォォォォォォォオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」


 腹のそこから絶叫。


 声がかれるんじゃないかと思うほど叫んでから、顔を上げる。


 目の前には、何の因果か瓦礫に埋もれた拳銃があった。


 俺は拳銃の扱い方なんてわからない。


 ただ、これだけはわかる。


 これでD.F.S.人を撃てば必ず死ぬだろう。


 拳銃をD.F.S.人に見えないようにしながら、立ち上がる。


 おや、まだ立ち上がりますか。


 D.F.S.人が何かを口にしたのはわかったが、意味を理解できない。


 なんて言ったのだろう。


 そのままD.F.S.人はこちらに近づいてくる。


 まだだ。


 まだ。


 今撃ってもよけられる。


 5メートルを切った。


「うおぉぉぉぉぉおおおおお!」


 叫びながら。


 固く握りしめた右拳を引き絞りながら走る。


 左手は腰に添えている。


「あなたは、超能力を使わないところを見るに、戦闘系の能力者ではないようですね」


 あいもかわらず聞きなれた日本語の意味がよくわからない。


 射程範囲、入った!


 右拳を思いっきり叩きつけ――――――


「だから言ったでしょう。『転移テレポート』能力も持っていると」


 ――――ようとしたところ、右拳を左手で掴まれた。


 その右拳を支点に走った勢いを殺さずに地面をける。


 腕がブチブチ言い感覚がなくなるが今はそれどころではない。


 そして半回転。


 さすがに自分の腕を捨てるとは思わなかったのか、


 D.F.S.人の顔が驚愕に歪む。


 いや、歪んでるのは驚愕だけではないな。


 D.F.S.人は頭から血を吹いて倒れた。


 拳銃で脳を打ち抜いた。即死だろう。だから顔が歪んだのだ。


 いつ撃ったのか。


 自分でも無我夢中だったのでよくわからないが、多分腕がちぎれた頃くらいだ。左手に隠し持っていた拳銃で撃った。


 そうだ腕。


 拾って肩にくっつける。


「やっぱり治るんだよなー」


 肩の傷口はふさがり、腕も元通りに動くようになった。


 しかし、心の喪失感が拭えない。


 いくらD.F.S.人を殺したところで、日向は帰ってこない。


「日向……日向ァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアア!!!!!」


 あの笑顔。


 俺はあの笑顔どころか、命すら守れなかった。


 日向はもう、どこにもいない。


==============================


 俺は不死身だ。


 不死身であるがゆえに、この世界を憎む。


 俺は孤独だ。


 孤独であるがゆえに、俺から家族を、恋人を、ご近所さんを、同じ町内の人を奪った世界を憎む。


 世界に誰もいないが故の最強なんかいらない。


 ちょうど左手に持ったままだった拳銃の銃口を覗き込んだ。



 ズガァン!


 バカみたいに晴れた青空の下、銃声だけが轟いた。




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