不死身の少年
新シリーズですがもう完結してます。
俺は不死身だ。
不死身であるがゆえに、この世界を憎む。
俺は孤独だ。
孤独であるがゆえに、俺から家族を、恋人を、ご近所さんを、同じ町内の人を奪った世界を憎む。
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俺は、不死身だった。
こう宣言すると決まってみんなは俺のことを頭の痛い子として扱う。
だから、中三になったときぐらいから宣言することはなくなった。
頭がイタイ人認定されるのは嫌だ。
でも、俺は本当に不死身だ。
小学校五年生の頃、俺は近所の交差点の横断歩道を渡ろうとしていた時に、ダンプカーに撥ねられた。
とんでもない衝撃が俺の体を走り抜けて、しかし予期した痛みは訪れなかった。
血も流れなかった。
最初は運が良かったのかと思った。
しかし、俺をはねたダンプカーはその衝撃で電柱を巻き込み、家の塀をぶち壊しその家に突っ込み、そこに俺も巻き込まれたというのに、無傷。
血も流れないし、痛みもない。
三十分後救急隊員に救出された俺は、驚かれた。
無傷だったから。
病院に搬送され、医師の診断を受けたときにも驚かれた。
脳波以上もなし、出血も骨折も脱臼も捻挫も打撲すらもない全くの無傷だったから。
地方のニュース番組や新聞にも不死身の少年として取り上げられた。
ダンプカーの運転手は死んだ。
一度だけ奇跡の生還をしただけなら、まだ運が良かっただけ、で済まされたかもしれない。
しかし、また事件は起きた。
一人で九州の祖父祖母の家に飛行機で向かっている途中、飛行機が墜落したのだ。
操縦士が心筋梗塞で死んでしまい、さらに運が悪いことに、そこで機関銃や拳銃を持った人間に飛行機ジャックが起きた。
ジャック犯は、このまま頭の悪い国会議事堂に突っ込むと宣言。
逆らったら乗客を端っこから順に一人ずつ殺すと操縦室に向かって言い放った。
しかし、操縦士が急死した操縦室では、経験の浅い―――いや、今回が初フライトだった副操縦士はこのことに早急な対応をできなかった。
それにイラついたジャック犯は、機関銃を発砲した。
一番端っこの席に座っていた俺に向かって。
ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ
凄まじい衝撃の渦が俺を襲って、そして弾丸が俺に突き刺さり、空薬莢が滝のように排出された。
いくら日本人といえど鉄砲で打たれたらもちろん死ぬ。
さすがに死んだと思った。
もう痛みすら感じないのかと思った。
しかしいつまでたっても予想していた死が訪れることはなかった。
死ぬっていうのは、永遠の眠りのようなものだと思っていた俺だったが、もしかしたら、それが間違っていたのかと思った。
人間は死んでも意識が残るのかもしれない、と目を開けた。
すると、二人目に銃口を向けるテロリストが見えた。
俺のことは完全に意識の外に追いやられているようだ。
そりゃ、死んだ人間には意識を向けないわな。
でも。
いきなりジャックされて機関銃向けられて、あまつさえ全身を打ち抜かれた俺は、腹が立っていた。
ジャック犯に、死ぬほど腹が立っていた。
初めて人を殺したいと思った。
ここでジャック犯を殺しても、別に俺の罪にはならないだろう。充分正当防衛の範囲内だ。
だって、俺は死ぬようなことをされたんだぜ? とここまで思考してようやく自分が生きていることに気がついた。
血は――――出ているけど、傷口はない。
ノーダメージ。
足に力をいれる。
すると、全く差し支えなく立ち上がることができた。
俺にちょうど背を向ける形で二人目に背を向けていたテロリストに音もなく近づいて、後ろから首を絞めた。
ギリギリギリ
しかし、素人の技だ。
それに、俺はまだ中学二年生だし、格闘技系の部活に所属しているわけでもなければ、体格が大きいというわけでもない。
つまり非力だ。
簡単に外されてしまった。
そいつは俺に覆面をした顔を向けると、腰を抜かした。
「……ヒッ!? 幽霊?」
「誰が幽霊か、クソが。俺は生きてるだろ?」
「……ででででででも、俺はちゃんと首元を狙ってう、ううう撃った! どどどどどんな人間でも、あれだけ撃ったらししし死ッ死ぬはず!」
「あれ? そういえばそうだな。なんで俺生きてるの?」
「ししししシし知るかッッ!!!」
思いっきり腰を抜かしたテロリスト(その一)と騒いでいると、テロリストの仲間たちが集まってきた。
「おい、何をしている!」
警告もなにもなく発砲してくるテロリスト。
ズダダダッダダダッダダダダダダダダ!
バンッ! バンッ!
それら放たれたほぼ全ての弾丸が俺に突き刺さり、血が流れる。
しかし血は吹き出はしない。
ちょっと流れ、直ぐに傷口はふさがる。
なんだ?
「ああ、どうやら本当に俺は不死身らしい」
テロリストは全部俺が撃退した。
しかし、俺を待っていたのは賞賛の言葉ではない。
化け物に対する侮蔑だ。
俺は気味悪がられた。
しかしそれは飛行機が降りるまでのことだ、と思い、居心地の悪さは我慢することにした。
だが。
俺は―――否、俺たちは失念していた。
操縦士が急死していたこと。
そして俺たちは知らなかった。
運悪く操縦室のドアを突き破った弾丸が副操縦士の頭を吹き飛ばしていたことを。
その日。
九州行きの飛行機(機体名は伏せておくこととする)は、山陰地方に墜落、生存者一名、ほか乗員乗客含む死者三百一名。
唯一の生存者である俺、木嶋勇士は、例によって、無傷だった。
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まあ、それは置いておくとして。
俺が不死身であることは今のこの状況では全く関係がない。
そう、この状況――――――
「ね、わたしに何か隠し事してない?」
――――――激昂する幼馴染(♀)に、迫られる状況において。
「だからなんも隠してないって!」
「嘘! じゃあなんでテストがこんな点数なの!?」
「げっ! いつのまに!?」
「大変だったんだから! 庭を三mくらい掘るの!」
「え? マジで掘り返したの?」
昨日、中学校で行われた期末テストが帰ってきた。
ほとんどの教科は九十点台後半だったが、数学だけは十二点と、散々だった。
だから、庭に埋めることにした。
俺は、数学だけがどうしても苦手だ。
通知表は常に1。
ほかは全部満点。オール5。
大体、なんで1+1=2になるんだよ!
エジソンも言ってただろ!
一つの粘土と一つの粘土を合わせても一つなのに――――って。
そうだその通り!
まあ、流石に小学生程度の計算はできるわけだけども。
四則計算はマスターしたんだぜ?
でも。
「なんだよ√って。なんだよ∽って!」
「……はあ、なんであんたはほかの教科と数学だけこんなに差があるのかしら……?」
どうも、俺の脳は数学を考えることには向いていないらしい。
「それによ、もうこの世界も終わるんだ」
「戦争で、でしょ?」
戦争。
我が国日本は、戦争に一切関わらないことを宣言しているため不参加だが、今、世界中は第七次世界大戦の真っ最中だ。
原因は中国人革命家が起こしたクーデター。
第六次世界大戦後、共和国という体制を保つことができなくなった中国――中華帝国――が苦肉の策として迎え入れた皇帝により、独裁政治が開始。
その皇帝に、現在中国領、元インドが反乱を起こしたのだ。
その反乱は、わずか半日で中国の軍隊が沈めた。
しかし、革命はこれだけでは終わらない。
元インドは、北アメリカ合衆国連邦――元のカナダ、アメリカ、メキシコ――と手を組んでおり、第五次世界大戦後より仲の悪かった中国とアメリカに、完全なる亀裂が入った。
という表向きの理由が有り、アメリカは中国に宣戦布告。
そして第七次世界大戦開戦――――――というわけである。
現在世界に残る国は十二。
まず、第二次世界大戦後より領土が変化していない国、
日本
スイス
第三次世界大戦後以降、領土の拡大をしていき、今に残る国。
中華帝国(もとの中国を中心に日本を除くアジア州全部)
アフリカ武力主義連邦(アフリカ大陸全土、及びオーストラリア周辺諸国)
北アメリカ合衆国連邦(もとのアメリカ、カナダ、メキシコ)
南アメリカ大陸連合国(南アメリカ大陸、メキシコ周辺国:ドミニカなど)
太平洋軍事力同盟(ハワイを中心に太平洋に点在する島々の連合)
ソビエト武力主義連合(ロシア、北欧)
E.U.(北欧、イギリス、スイスを除く、ドイツ中心のヨーロッパ諸国の軍事同盟)
大英グレートブリテン王国(イギリスを中心に、ヨーロッパのイギリス側の領地を削り取った国)
南極全海統一帝国(南極に移り住んだ人間たちが突っ繰り上げた国。ほぼ全ての海に支配地を持つ)
D.F.S.(ドイツ語で遊撃艦隊を意味するDas Fliegen von Schwadronの略称。しかし実態は飛行艦に約五億人を収容して世界中を飛行する国。武力装備もあり敵に回した国にはほぼ勝ち目がない)
現在は中国とアメリカが小競り合いを繰り広げているだけだが、そのうち日本とスイスを除く全ての国が戦争に参加するだろう。
二十四世紀。
ついに人類は宇宙に進出することは叶わなかった。
世界中の資源の減少に伴い広まった武力主義という思想。
世界中の大国が自国の領土を増やし、数限りある資源を奪取するために、弱小国を食い物にしていった。
そして第六次世界大戦後に残る国は十二まで減ったというわけだ。
日本が戦争に一切参加しないと表明しているのに他国から狙われない理由。
それは、他国を軽く二世紀程引き離した兵器を所有しているからである。
ただし、日本が持っているのは兵器ではなく、人間。
人体改造することで、超能力者を作り出したのだ。
現在の日本人は皆大なれ小なれ何かしらの超能力を持っている。
その戦力たるや、一人で一つの国を圧倒できるというのだから、わけがわからない。
しかも、過去最低の能力者でも、その能力が手の触れたところ全てを凍らせる能力。
最低が、である。
しかし、この能力は手のひらが触れた部分しか凍らせることができないの。これが最低能力たる所以である。
ちなみに、あくまで余談だが、さっきから俺にお小言を並べ続ける、見た目だけは可愛らしい、生まれた頃からの幼なじみ糸野日向の能力は発火、手から最大で三十メートルほどの炎を伸ばすことができる能力。
焼かれた経験は――――――
「ねえ? 聞いてるの? また焼くよ?」
うん、しょっちゅう。
俺が世にも珍しい不死身能力者であることが日向にバレて以来、俺が悪いことをしたら焼かれる。
「不死身だからって一々焼くな! 俺だってな、お前ぐらいその気になれば倒せるんだぞ!」
という虚勢をぐっと飲み込んで、正座から土下座へ移行。
「すいませんでした」
現在、日本の人口は二億人。
それら全員が、皆何がしかの超能力者である。
しかし。弾丸を腹に喰らえばもちろん死ぬし、車にぶつかられたら死ぬ。
いくら超能力者といえど、その体は――日本には存在しない――一般人となんら変わらない。
だから。
俺は、不死身能力者であると同時に、世間からは無能力者の烙印を押されている。
……いつか、世界最強と認められる。
いつか、その夢は叶う。
必ず、叶う。
今から二話以降更新していきますね




