2-3. シャインマスカットの魔法
(*未依沙視点)
出発前にお手洗いに行こうと移動したら、
かげちゃんたちのグループも
同じことを考えているみたいだった。
中学になって部活姿は毎日見ているけれど、
あまりかげちゃんと話すことはなくなった。
気軽に声をかけたいけれど、
なんとなく緊張してしまう。
かげちゃんは背中を向けているから、
わたしに気づきそうもないし、
やっぱりわたしから声をかけるしかないか…!
わたしは一度深呼吸してから声を出した。
「かげちゃん、やほ」
わたしの声にふわっと振り向いた時、
かげちゃんの髪が太陽の光に当たり、
キラっと輝いたみたいだった。
まるでスローモーションのように
見えたのはなんでだろう。
「おう、未依沙」
最初は首だけ向けて、
その後に体をわたしに向けてくれた。
何気ないことだけど、
わたしに向いてくれたことが、
なぜかとても嬉しく感じた。
「大丈夫、疲れてない?」
第一声に気遣う言葉が出てくるのも、
さすがかげちゃんだと思った。
「うん。まだ大丈夫。」
「かげちゃんは?どんな感じ?」
「俺もまだ行けるかな。あ、そうだ!」
リュックを下ろして取り出したタッパの中には
シャインマスカットが入っていた。
「未依沙、好きだよね?これ。食べる?」
「うん、好き!ありがとう」
かげちゃんがわたしの好物を覚えていてくれたことが嬉しくて、
ついはにかんでしまう。
「好きなもの食べるとエネルギーチャージできるでしょ?手に持てるだけ取っていいよ」
かげちゃんの何気ない優しさや言葉に
胸が温かくなる。
かげちゃんって同い年なのに、
時々お兄ちゃんみたいに感じるんだよね。
「ありがとう」
わたしはかげちゃんに笑顔を向けてお礼を言うと、
あと3粒だけいただいた。
かげちゃんのグループは先に行ってしまった。
わたしがシャインマスカットを頬張っていると、
「あれ?まだもぐもぐしてるの?やっぱり、うえのっちは可愛いな〜。」
「さっきの人、友達?」
そっちゃんとさっきーお手洗いから帰ってきた。
「幼馴染からシャインマスカットもらった」
わたしはピースをしてみせた。
「幼馴染ってイケメンの瑠飛君ではないよね?先に歩いてたし」
そっちゃんは瑠飛が気になって
仕方がないらしい。
「かげちゃんっていう、もう1人の幼馴染なの。1組の人だよ」
「うえのっちは幼馴染がいっぱいいるんだね。」
「その2人だけだよ。家が近くて、いつも一緒に遊んでたんだ」
「え〜そうなの!ぜひ瑠飛くんの話を聞かせて!」
そっちゃんの声から
ワクワクが伝わってきた。
「いやいや、その前に、うえのっち、少し顔赤くない?」
ニヤっとしながら
わたしの顔を覗き込むさっきー。
幼馴染と言えることに特別感を感じた。
ただの友達じゃない。
ただの友達だったら、
わたしの好きなものを知らないだろうし、
下の名前で呼ぶこともないだろうし、
中学生になってもこんなに気軽に話すことも
できないと思うから。
顔が赤くない?と言われた一言で
意識してしまった。
あれ?わたし、赤くなってた?
なんでだろう。
かげちゃんのことは小さい頃から知ってるのに、
さっきの一言で胸がちょっと落ち着かなくなる。
もらったシャインマスカットの最後の一粒を、
照れているのを誤魔化すように
パクっと口に入れた。
なんだか甘味が増した気がした。
残りも歩ききろう。
わたしはエネルギーがみなぎるのを感じた。




