2-2. 30kmの恋バナ・マーチ
(*未依沙視点)
5月の爽やかな春風が吹く中、
わたしの心は緊張でいっぱいだった。
南部中の30km遠足は今年から導入されたらしい…。
なぜこのタイミングで…と
生徒みんなが思っていたと思う。
朝の7:30に運動場にわたしたちは集合した。
小学校までは遠足は楽しいものだったのに…
中学になった途端、30km?
これは遠足なの…?
あまりにも未知のことで
本当に完歩できるのか不安で仕方ない。
朝出かける時、お母さんとお父さんの明るい声に、
わたしとの温度差がますます浮き彫りになっていた。
「いってらっしゃい、未依沙。楽しんでおいでね。青春の一ページを刻んできなさい」
満面の笑みで送り出してくれたお母さんに
苦笑いで返すことしかできなかった。
お母さんの言葉のチョイスって、
なんか面白いんだよね。
まるで歌の歌詞にでも出てきそうな
ワードセンスだとたまに感じることもある。
「未依沙なら大丈夫だ。いっておいで」
お父さんはいつもながらの安心感。
2人の温かいエネルギーに包まれて出発したけれど、
30kmの遠足スタート場所へ向かいながら
不安が大きくなっていった。
この遠足は後ろの8組から
出発することになっている。
わたしは3組で、瑠飛が2組、
かげちゃんが1組だから、
ゆっくり歩けば2人に会えるかも?
なんて、呑気なことを考えていた。
いやいや、スタートしたらまずは真面目に歩こう。
30km歩くことに変わりはないんだから。
途中で会えたらラッキーだと思って、
わたしも頑張ろう。
一緒に歩く班の女の子と話しながら、
一歩一歩歩みを進めた。
最初の中継地点には先生がいた。
スタンプを押してもらい、先に進んでいく。
わたしたちは3組だけど、
一番最後に出発した
1組の先頭集団が私たちとほぼ同時に
中継地点に着いていた。
「1組だよね?すっごく早いね。走ってきたの?」
わたしは思わず、
その先頭集団に話しかけた。
「いや、走ってはないけど、早く歩いてきたよ。俺たちが1組って知ってるの?」
目の前の男の子、
馬場くんは嬉しそうに返答した。
「うん、後田くんと一緒にいるところ、見たことあったから、1組だと思って。」
「後田?あぁ、後田の友達なんだね。」
「そう。小学校が一緒で、幼馴染なの。」
「へぇ〜、幼馴染か。仲良いんだな。」
「ところで、上野は何組なの?」
「わたしたちは3組だよ。」
「そっか、3組か。よろしくな!」
馬場くんたちの男子チームはまた急いで歩いていった。
「馬場よかったな。上野と接点できて」
周りの男子たちが馬場くんの頭を
くしゃくしゃと撫でていた。
仲がいいんだな〜と後ろから眺めていたら、
「馬場くん、上野さんに惚れたんじゃない?」
「それ、わたしも思った!」
同じグループの園田さんと川崎さんが
わたしの方を向いて言った。
「ん?なんのこと?」
わたしは2人の会話にイマイチ着いていけなかった。
「上野さんって天然だよね。勝手にモテちゃう」
「上野さんは可愛いから男子が惚れちゃうのわかるな〜」
「ちょっと話しただけだから、そんなことありえないよ」
わたしは本当のことを言った。
「上野さん、そのちょっとの積み重ねでどんどん好きになっていっちゃうんだよ。」
園田さんはすごいな、
そういう経験があるのかな…?
「そうだよ〜。好きになるのは誰もわからないものだし。ところで、上野さんは好きな人とか気になってる人いるの?」
川崎さんからの質問になんと答えよう…
「うーん…中学校生活が始まったばっかりで、あんまりまだよくわからないかも。川崎さんは?クラスにいいなって思う人いた?」
わたしは女子の友達と
こんな恋バナがをするのが夢だった。
とってもワクワクするし、楽しい。
お母さんがニヤニヤしながら
話をしていた理由が分かった気がした。
「わたしは今野君がカッコいいなって思う」
「え?今野?そうなの?どういうところが?」
川崎さんの返答に、
園田さんが驚いているのが側から見て面白かった。
「え?だって、特に横顔がカッコよくない?」
2人は恋バナに花を咲かせていく。
わたしはその会話を聞くのがとても楽しくて、
30km遠足の辛さを忘れることができた。
ふと横を見ると2組の瑠飛が歩いていた。
「よぉ、未依沙。調子どう?」
いつものようにフレンドリーに
話しかけてくれる瑠飛。
中学生になって年頃になっても、
気軽なのがわたしも嬉しい。
「順調だよ。瑠飛は?」
「俺たちも今のところ余裕!さあ、抜かしていくからな〜」
そう言ってスタスタと歩いていってしまった。
園田さんは急にわたしの腕をぐいっと掴んだ。
「ちょっと!上野さん!今の『瑠飛』って読んでいた人ってハーフで有名な人だよね」
「マルセル瑠飛って言って、ベルギーと日本のハーフだよ。わたし、幼馴染なんだよね。家が斜め前で」
「そうなの!あんなイケメン、人生で初めてみた。どうしよう…ドタイプだ…」
園田さんは遠ざかっていく瑠飛に
熱い視線を送っていた。
「園田さんって、王道のイケメンが好きなんだね〜」
川崎さんは固まっている園田さんに
横からツンツンしている。
「ねぇ、わたしたちニックネームで呼び合わない?気になってる人もタイプな人も教えてくれたし、2人ともっと仲良くなりたいな」
わたしは2人の顔を見ながら伝えた。
「分かった。上野さんは人たらしだわ。女子から見ても可愛いもの」
園田さんはなぜか1人納得していた。
「いいよ〜!ニックネームにしよ!なんて呼び合う?」
わたしはうえのっち。
園田さんはそっちゃん。
川崎さんはさっきー。
ニックネームで呼び合うことに
わたしはなんだか浮かれていた。
中学初めの行事で、
2人と一緒になれて良かった。
お昼の休憩地点までやってきて、
わたしたちは敷物の上に腰掛けた。
かなりたくさんの人たちが
同じタイミングでお昼休憩をとっていた。
瑠飛はわたしたちを抜かしていたから
いないだろうな。
かげちゃんはいるかも?
そう思って周りを見渡すと、
少し離れたところにかげちゃんがいた。
敷物に座ってもぐもぐしながら
友達と談笑している。
タイミングを見て話せたらいいなと思いながら、
わたしも口を動かした。




