1-2. 泥だらけのヒーロー (小学4年生)
(*景虎視点)
学校の帰り道。
田んぼに入っている女子3人が、遠目に見える。
「あ、上野もいるじゃん」
田んぼに入ったらどろどろになるのに……。
大丈夫かな。
あ、田んぼから出てきた。
やっぱり、靴に泥がいっぱいついてる。くく。
上野って意外とお転婆なんだな。
って、あれ? 上野が視界から消えた!
何も考えずに、僕はとっさに走り出していた。
溝に落ちたんだ。
「上野、大丈夫?」
「景虎君……大丈夫じゃない……」
瞳に涙が溜まっている。
溝のコンクリートにこすれて、
足から血が出てる……。
「大丈夫、立てる?」
「痛くて立てないよ……うえーん」
「大丈夫だよ。ちょっと待って」
上野の脇に手を入れて、僕はぐっと力を入れた。
溝から持ち上げて、座らせる。
「ありがとう」
泥まみれの女の子二人がこちらに駆けてきた。
「未依沙ちゃん、大丈夫? わたしたち、大人を呼んでくるね」
一緒にいた女の子二人は、
そのまま助けを呼びに行ってしまった。
「かなり痛そうだね……歩ける?」
「うーん、わかんない」
目からどんどん涙があふれてくる。
上野を助けてあげたい。
そうだ、僕がおんぶすればいいんだ。
「上野、立てる?」
僕はまた上野を持ち上げて立たせた。
自分のランドセルを前にかけて、しゃがみ込む。
「僕、おんぶするよ。乗って?」
「え? いいの……?」
「怪我して歩けないでしょ? さあ、乗って」
「ありがとう」
涙をこらえながら、僕の背中に体重をあずけてくる。
ふっと力を入れて、上野を持ち上げた。
意外と重いかも…
瑠飛の家の斜め前って言ってたよな。
そこまでなら運べるはずだ。
「いいトレーニングだ」
(*未依沙視点)
わたしと同じくらいの大きさなのに。
わたしをおんぶして、絶対大変だよね、重いよね。
景虎くんって、本当に優しいな……。
走って助けに来てくれた時、 まるで王子様みたいだった。
(*景虎視点)
「お家はここだよね」
『上野』という表札をすぐに見つけることができた。
ベルを鳴らすと、上野のお母さんが出てきた。
「あら! どうしたの?」
「上野が溝に落ちてしまって怪我をしたんです。診てもらえますか?」
「景虎くんだよね? 瑠飛と一緒にバレーしてるよね。 未依沙をここまで運んでくれてありがとう。大変だったよね。 あらら……景虎君の服に泥と血がついちゃってる。ごめんね」
上野とお母さんは、目元がそっくりだと思った。
上野の美形はお母さん譲りなのかと、一人で納得した。
「僕は全然大丈夫です」
上野をお母さんに引き渡し、僕はそのまま家に帰った。
(*未依沙視点)
「おい、未依沙〜。昨日、溝に落ちたんだって? 景虎が未依沙の家まで運んだって聞いたぞ。 ほんとドジだな」
朝一番に、さっそく瑠飛にいじられた。
でも、わたしがドジなのは
本当のことだから言い返せない……。
「本当に痛かったの……。 でも、景虎くんがたまたま後ろにいて、走って助けに来てくれた」
おんぶして運んでくれたことを思い出し、
少し恥ずかしい気持ちになった。
瑠飛はなんだか固まって、
不思議な表情をしてる。
どうしたのかな……?
「かげに助けてもらってよかったな。アイツ、ほんといいやつだな」
そう言って瑠飛は景虎くんに後ろから飛びついた。
「痛いな〜、なんだよ」
と言いながらも、
優しく瑠飛に笑顔を見せている景虎くん。
それを見た時、一瞬、胸がドキッとした。
なんだかわたしは心があたたかくなって、
嬉しい気持ちになった。




