ずいぶん久しぶりだね。
朝が来た。
木々の隙間から陽光が静かに差し込み、まだ眠気の残る僕の顔を撫でた。だが、今日は何かが違った。体がいつもより軽く感じる。どういうわけか、重荷が消えたような感覚だった。
だが、僕は深く考えなかった。いつものように朝を過ごし、木から降りて、仕掛けた罠のある森へと静かに歩を進める。
驚いたことに、今回は運が良かった。
二匹のウサギが罠にかかっていたのだ。
僕は静かに近づき、逃げられないよう手早く仕留めた。ウサギの肉は、僕にとって滅多にないご馳走だ。普段は一匹、あるいは全く捕れないこともある。だが、今日は二匹もいる。
僕はすぐに、いつもの調理場の周りで枯れ木を集め始めた。石を拾って火を囲う輪を作る。準備が整うと、いつものやり方で小さな焚き火を起こした。木と石を根気強く擦り合わせ、火花が出るのをじっと待つ。
数分後、火が灯った。温かく、穏やかな火だ。
ウサギを捌き、焼き始める。贅沢な調味料なんてない。ただ弱火でじっくりと炙り、食べられる程度に火を通すだけだ。
朝の静寂の中、肉の焼ける香ばしい匂いがゆっくりと辺りに漂った。
一瞬、今日はいい日になりそうだと思った。
食事を終えて焚き火の後始末をした後、僕は再び市場へ向かうことにした。
食べ物を探すためじゃない。ただ、誰かの話を聞きたかったんだ。市場のような場所は、大人の噂話や最新のニュース、あるいは彼らにとっては些細な、だが僕にとっては意味のある不思議な出来事の話で溢れている。
だが今日、僕の目的は聞くだけではなかった。
ある人を探していたんだ。
昨日、僕に初めて優しさを見せてくれた、果物を売っているおばあさんだ。彼女は今日も、質素な店先に座っていた。客は多くないが、その微笑みは昨日と同じように柔らかかった。
焼いたウサギの肉が入った小さな袋を握りしめ、僕はゆっくりと近づいた。
少し声を弾ませながら、控えめに言った。
「おばあさん、一緒に食べない?今朝、ウサギを二匹捕まえたんだ」
僕の口調は、自分の成果を自慢する子供のように無邪気だった。
おばあさんは少しの間僕を見つめ、それからクスクスと笑った。それは馬鹿にするような笑いではなく、軽やかで温かな笑いだった。彼女は手を伸ばし、僕の頭をそっと撫でた。
「いいよ」とおばあさんは心からの笑顔で言った。「あんたの誘いなら、喜んでいただくよ」
そして、僕は生まれて初めて誰かと食事を共にした。
必要だからじゃない。分かち合いたいと思ったからだ。
だが、おばあさんと座って肉を味わっていると、周囲からざわめきが聞こえてきた。
ひそひそ話。噂話。市場の人々が、ある一つの話題で持ち切りになっていた。昨夜、空から降ってきた「奇妙な光」のことだ。
「この目で見たんだ!光が槍のように空から突き刺さったんだよ!」
「まさか、神々の裁きの予兆じゃないだろうね?」
「あれは空から降りてきた守護霊だって言う奴もいるぞ。ヒィッ、恐ろしい……」
「光が森の中に落ちたっていう話もある。今朝、霧が深かったのもそのせいかもしれないな!」
人々は勝手な憶測を付け加え、事実を脚色し、起きたこと以上の大事件に仕立て上げていた。
僕はただ黙って、聞いていた。
あの光を見たのは、僕だけではなかった。だが彼らと違い、僕は恐怖を感じなかった。災厄の兆しとも、呪いとも思わなかった。
僕にとって、あの光はただ静かだった。
そこに在る。まるで僕を見つめているようで、何も言わなかった。
騒がしい噂話の渦中で、僕はただ静かに昨夜の光を思い出していた。
すると突然、誰かの視線を感じた。
振り向くと、おばあさんが僕の顔をじっと見つめていた。その眼差しは、先ほどまでとは違った。疑いや心配ではなく、まだ理解しきれない何かに戸惑う子供を見守る母親のような目だった。
しわがれた手が、再び僕の頭を優しく撫でた。
「彼らの言うことなんて、気にしなくていいよ」とおばあさんは穏やかな声で言った。「きっと見間違いさ。人間ってのは、理解できないことを大げさに話したがるものだからね」
僕は一瞬おばあさんの目を見つめ、それから作り物のような元気さで勢いよく頷いた。
「わかってる」と短く答え、何も考えていないふりをして満面の笑みを浮かべた。
だが心の中では分かっていた。あの日見たものは現実で、僕の見間違いなんかじゃないことを。
夕暮れが近づき、空の色が変わり始めた。太陽がゆっくりと西に沈み、屋根や木の枝にオレンジ色の残光が反射している。
それを見て、僕はすぐに市場を後にした。
足早に小道を抜け、迷いなく鬱蒼とした森の中へと入り込む。曲がり角も、木の根も、普通の人間なら躓くような岩の隙間も、僕はすべて把握していた。
一つ分かっていることがある。暗くなってから森にいるのは賢明ではない。住み慣れているとはいえ、暗闇は予測不能な敵だ。野獣の声、茂みの奥から見つめる視線。夜が光を飲み込むとき、あらゆるものが動き出す。
だから、完全に暗くなる前に木の上に戻らなければならない。
この森で、動きが遅い者に居場所はない。特に、太陽が消えた後は。
いつものように、眠る前に僕は住処である木の上に座った。星の散らばる夜空を見上げ、遠くで瞬く光の中に静寂を求める。夜風が静かに吹き抜け、土と濡れた葉の匂いを運んできた。平和な静けさだった。
だが突如、その静寂が破られた。
何もない夜の空気から、柔らかく、しかしはっきりとした声が響いた。
「いつまでも、影に隠れていてはいけない……」
僕は驚かなかった。恐怖も感じなかった。
逆に、僕は薄く微笑んだ。どういうわけか、その声には聞き覚えがあった。ずっと昔の囁きが、ようやく戻ってきたような感覚。
そして声は続き、長い間耳にしていなかった「名」を口にした。
「赤城 遡透」
僕は一瞬、動きを止めた。静かに息を吐く。
それから静まり返った夜空を見上げ、低い声で呟いた。
「その名前を呼ばれるのは……随分と久しぶりだ」
微笑みは消えなかった。だが、その笑みの裏で、何かが目覚めようとしていた。




