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美人がはにかむと可愛い=正義


特待生の編入から一ヶ月。

今のところ、大きな問題もなく穏やかな日々が続いている。


領地経営コースの課題をすべて終え、後継教育と生徒会以外の時間を、鍛錬や自主学習に当てられるようになってかなり余裕ができた。


昨日、新しく届いた婚約者からの手紙を胸元に入れ、ジルベルは落ち着いた場所を探して校内を歩き回っていた。

寮は二人部屋で、今ルームメイトは文官試験の追い込み中なのだ。できるだけ邪魔をしたくない。


「ジル」


階段の上から呼び止められ、振り仰ぐように見れば、他の人を前にした時よりずいぶん柔らかい表情の主君が。

慌てて降りようとするのを留め、ゆったりとした歩幅で踊り場まで戻る。


「何かありましたか?」


「いや、そういうわけでは。……最近、なかなか話せないから」


可愛らしいことを言う。ジルベルは思わず微笑んだ。


この四年で、白皙の美少年はすっかり美青年へと成長を遂げていた。

漆黒の髪を首に沿うように清潔に整え、眉あたりで前髪がさらさら揺れている。

その奥には、怜悧的な鋭く強い光を称える闇夜の星の目。


思わずほうっと感嘆の息が漏れそうなほどに、麗しく素晴らしい美貌だ。さすが王子。

身長もずいぶん伸びたし、筋肉も程よくついた理想的な立ち姿が凛々しい。


ジルベルはといえば、今や学園でも一番か二番目の長身になってしまい、動けばその分つく筋肉が少々いかめしい。

ふわふわ揺れる癖毛や、柔和そうな顔立ちと話し方でどうにかなっているが、初対面の相手にはもれなく身構えられてしまう。


本人的にはのんびりまったり生きているつもりなのだが、現実とは世知辛い。


ジルベルが正面に立てば、すっぽりと隠されてしまうライオスを促しつつ、階段を降りきる。


「そういえば、どこへ向かっていた? 用事があったのだろう」


「いえ。手紙を読みたくて、程よい場所を探していただけです」


「ジルにとっては最重要事項だな」


茶化すでもなく頷いたライオスは、もうすっかりジルベルと婚約者の知己のようだ。

彼女のことを何も知らなかったジルベルも、この四年の文通でずいぶん婚約者のことを知った。リルーシェも同じだといい。


「知っているか? 南棟の西側に旧校舎が……」


「殿下」


珍しくライオスの言葉を遮ったジルベルが、次の瞬間には進路に立ち塞がった。


「きゃあ!」


女性の悲鳴と、ドンッという衝撃音。

正直ライオスは、ちっとも身動ぎしなかったジルベルより、巨体にぶつかったであろう女性を心配してしまった。


向かい合うように立つジルベルは左手でライオスの腰を支え、反対の利き手を上着の内ポケットに差し入れたまま振り返る。


「ご令嬢。お怪我は?」


「えっ、ごれいじょう!? あ、いえ、ケガはありませんっ!」


「特待生の子だね。校内を走るのはやめなさい、危ないよ」


「ごめんなさい……」


声に聞き覚えがあると思ったが、なるほど。平民出身の特待生だったようだ。

ものすごく小さな子供に言うような注意の文句に、恥ずかしそうな謝罪が返った。


「あたし、ほんとそそっかしくて……ごめんなさいっ! あの、あなたたちは、おケガありませんか?」


走るのはそそっかしいのではなく、マナー知らずだ。

珍しく剣呑な雰囲気を纏うジルベルの手前、ライオスは賢明にも口には出さなかったけれど。


「ないが、こちらは尊き方だ。御身に何かあれば、きみ一人の咎では済まない。自省し、是正してくれ」


「じせいしぜせい……わかりました!」


本当だろうか。

少々訝しげにしながら、ジルベルはライオスを隠したまま特待生を下がらせた。


やっと内ポケットから手を出したジルベルが、身体を離してまじまじと全身を眺める。


「うん。怪我はありませんね」


「大丈夫だ。それより、どうした? ジルがそんなに厳しく言うなんて珍しいな」


「うーん……」


変わらず周囲を警戒しながら、腰を支えたままのジルベルが足を進める。

ライオスも大人しく歩幅を合わせた。


「ライオス。今のようにぶつかられることは、これまでもありましたか?」


いつだって宝物を扱うように大切に名を呼ぶジルベルの声音を、ライオスはとても気に入っている。

二人だけの気安い場でしかできない呼び方だが、特別感があってそれもいい。


「ないな。あっても、ジルのように友人たちが盾になってくれる」


「ならいいのだけど……私は、あの特待生にぶつかられるの、三回目なのです」


「……三回目。ひと月でか」


「ええ。ちょっと引っかかっています。ただの偶然にしては」


「頻度が高すぎるな」


「はい。たいてい私は誰かと一緒にいるので、今のように盾になる以上のことはありませんが」


だから、紳士らしく手を差し伸べることも、目線を合わせて話すこともしなかったのか。

普段の彼とのギャップに、ライオスは納得した心地で頷いた。




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