やっと気づいたけれど。
熟考の末、ジルベルは王子──ライオスの申し出を受けることにした。
ただし、専攻学科も違うし、互いに嫡子としての教育もあるため、常に行動を共にするわけではない。
代わりに、ライオスが所属する生徒会に書記として名を連ねることになった。
ライオスは冷静沈着で模範的な王子と評判で、今のところ後継問題も特にない。
第二王子は兄を支えると公言しているし、妹姫は他国の王族と婚約している。
父も『殿下のよき友、忠実な臣下でありなさい』と言っただけで、特に反対する理由もないとのこと。
リルーシェにもさっそく手紙を書いて、今朝、配達人に託したところだ。
「へえ。婚約者は、留学中なのか」
昼食後、たまたま顔を合わせたライオスに誘われ、ジルベルたちは学園の庭園を歩いていた。
ライオスの〝友人〟二人は幼少からの付き合いのようで、護衛のように少し離れて付いている。
「はい。それはもう生き生きとした手紙が届きますよ。楽しそうで何よりです」
「なんというか……知ってはいたが、ジルベルは少し変わっているな。いい意味で。女性が家督を継げる法に変わり、社会進出も昔より進んではいるが、やはり家に入るのがまだ主流だろう」
「そうですね。特に、年上の世代には、まだ傾向が強く残っています。もちろん、私たちにも」
昔は、男子にしか王位も家督も継げず、女性が家の外で働くことは、貴族として恥とされていた。
数代前に法が改正され、少しずつ職業婦人も増えてはいるが、女性は嫁ぎ子を産むもの、という価値観は根強い。
「貴族は血をつながなければいけません。でも、子は女性にしか産めないから、お願いしてお嫁さんになってもらうのです。我が家は、たまたま長子が私だったので」
「いいな、それ。私も婚約者をそのように見てみよう。痛い思いもせず親になれるのは、女性がいてこそだからな」
「本当に。私の婚約者も、本当は働きたいかもしれません。でも、貴族ですから、私のお嫁さんに来てくれるのです。領地のために学ぶと留学までして。感謝しています」
「それを尊重して快く送り出せるのも、私はすごいと思うが。だって、寂しいだろう。遠いと不安にもなる」
あ。
ぱちりとピースが嵌まるような感覚に、思わずジルベルは足を止めた。
気づいて振り返った白皙の美少年が、首を傾げる。
綺麗な綺麗な漆黒の髪が陽を反射する。
「…………そうかもしれません」
片側が軽いような、半側が欠けたような、あの感覚は。
「私は、寂しいのかもしれません」
「そうだな」
「うん、はい。足りない気がしていたのです。ずっと、半分が」
そうかと笑う姿が、光を発しすぎてうまく見えない。
ジルベルより頭一つ分小柄で、胴は二回りほど華奢で、けれどこれぞと思う威厳のある人。
この人を主君と呼ぶのだと、納得した心地がした。
「私は思っていたより、彼女のことが必要なようです」
ミルクティー色の髪に触れてみたい。蜂蜜みたいな琥珀に会いたい。
素晴らしい主君を得たと、今すぐに声にして伝えたい。
それができないから、ジルベルは確かに今、寂しいと思った。




