うちのお嫁さんは最高です
よし、と拳を握る。ジルベルの気合いに気づいたライオスが、怪訝そうに首を傾げた。
「閨教育を受け直しましょう」
「は?」
「お行儀のいい閨教育じゃありませんよ。性技に長けた者から学ぶんです。子を得る以外にも、夫婦の仲を深めて共に楽しめるように」
「……は?」
同じ言葉を返されてしまった。でも、ジルベルは押した。こういうのは押すに限る。
「実は、うちも受けたんです」
「は!?」
「夫婦仲はいいに越したことはありません。子がいてもいなくても、協力し合うことで新しい発見もあります」
「は……」
「妻から、妃殿下を説得してもらいましょう。同じ教科書ではありますが、別々に教師を割り当てますので、ご安心ください」
「……」
「それと、もう一つ」
もはや黙り込んでしまったライオスに、ジルベルはやんわり微笑んだ。
大丈夫、大丈夫。あなたはいつも頑張っている。あなたも、妃殿下も。大丈夫なんだよ。
「三日ほど、休暇をあけます。夫婦水入らず、ゆっくりなさってください。しっかりと話し合う時間を」
事後報告だろうが何だろうが、押し通すだけの実績は積んできた。苦労多き友を支えるためだ。
「即位から今日まで、立ち止まる暇はなかったでしょう。陛下も妃殿下も、今一度お互いの顔を見合うのも、いいかもしれませんよ」
「…………なるほど」
心から、心から、ジルベルは願っている。妻との絆と、友の心の安寧。
国の平和と────両手たくさんの大切なものを、抱え守れるだけの力を。
張り切った妻も参加した妃殿下の閨教育と、陛下の閨教育(ジルベルの参加は拒否された)を終えて、二人は仲よく王家保有の離宮へと旅立った。
移動を含めたった五日だが、確保するのはそこそこ大変だった。いや、本当に。陛下の偉大さを感じた。
お陰で、ジルベルは王宮に泊まり込みになったわけだが、リルーシェも賛成してくれたし後悔はしてない。
陛下はいつになく麗しいご尊顔を緩めていらしたし、お礼を言ってもらえたので疲れも吹っ飛んだ。
学園時代の同級生でもあった妃殿下には背中を思いっきり叩かれたが、照れながら嬉しそうでもあったのでよしとする。
彼女はいつも一心不乱すぎるのだ。少々力を抜いてもいい。
この間にこなした仕事のせいで副監理官まで押しつけ……いや、任せてもらえることになった。
しかしだ、あまりのリルーシェ不足に狂いそうになったので、任命前に二日の休暇をもぎ取った。
「はあ……ルシェの匂いだ」
大男が小柄な女性の胸に顔を埋めているのは、傍からは襲いかかっているように見えるかもしれないが、そんなの知らない。
とにかくリルーシェを堪能したくて、四六時中付きまとった。
「若様がまたリルーシェ様にくっついてる」
「母親のドレスにまとわりつく子供じゃないんだから」
「若様ったら、大きな図体してもう……」
屋敷中で使用人たちに笑われたが、リルーシェを眺めているだけで幸せだ。
彼女が許してくれる限り、やめるつもりはない。ないったらない。絶対だ。
「ジル、一緒に市に行きましょう」
「馬を出してくださる? ジル」
「まあジル、ありがとう」
ストーカーされている妻が、おかしそうにしながらもあれこれ世話を焼いてくれるから、さらに幸せでたまらない。
綺麗で可愛くて優しくて柔らかい、最高の奥さん。ジルベルは確実に世界一の幸せ者だ。
離れている期間があったからか、どれだけ一緒にいても飽きる気がしない。
むしろ、一緒にいればいるほど好きになってしまって、どうしようと思うくらいだ。
「リルーシェ。きみは子供が欲しい?」
ふと、そんなことを聞いてみた。ジルベルは、義務だとか何とか以前に、愛する人との子供が欲しいと思う。
でも、痛い思いも大変な思いも、代わってやることはできないのだ。それだけが心苦しい。
きょとん、と瞬いた琥珀が、ふわっと和らぐ。
ああ、この瞬間がとても好きだ。何度でも見蕩れてしまう。
「ええ。とても」
簡潔で、だからこそ本心なのだと伝わる、あたたかな声音だった。義務じゃなくて、ただ会いたいと願っている。
うん、ならばジルベルは、やっぱりたくさん頑張らなければいけない。
両手いっぱい、妻や友だけじゃない、たくさんを守れるように。
ひだまりのようなリルーシェの隣で、ジルベルは幸福に溺れる心地だった。




