【番外】ヒロイン志望者 2
ライオスと監理官複数人とテーブルを囲み、協議を重ねる。
主犯の特待生の方針を決めない限り、他の子息たちのそれも決められない。
「子息から、面白い証言が取れたよ」
ほくほくした顔の監理官が口を開いた。
曰く、取り巻きのうち一人が嫌がらせの犯人。なんと。
さすがに予想しておらず、間抜けな声が出そうになった。
噴水の時に突き落として隠れたのも、階段から落として真っ先に駆け寄ったのも、他の嫌がらせ諸々もだ。
ちょっと頭が痛くなってきた。
「いの一番に騒ぎ立てて、被害者を守ろうとする。まあ見事な化けっぷりだよね」
監理官は、けらけら笑う。
「ロリィネ侯爵令息かあ……」
「おや、よくわかったね」
「まあ……今考えると、ですが。あまりに熱量があったので」
もっと早くわかっていれば、こんな七面倒臭い事態にはなっていない。
今回は自分の力不足にも原因があるな、とジルベルは肩を落とした。
令息たちは常日頃、特待生に侍りながら互いを蹴落とすため試行錯誤していたらしい。勉強をしなよ。
ライバルに対する嫌がらせは他の二人もしていたが、特待生へのそれをしていたのは、ロリィネ侯爵令息だけ。
ただし、『卒業パーティーで犯人を告発したら、勇気が認められて貴族との結婚もできるかもしれない』などと悪気なく唆したのは、特待生なわけで。どっちも自業自得だ。
特待生は本気で嫌がらせを受けて殺されかけたと信じているし、折り悪くケヴィディ侯爵令嬢が近くにいたこともある。
近くにはいなくとも、ロリィネ侯爵令息が彼女に似た人を見たと言えば、おのずと犯人を連想する。
「証拠もないのに……なぜ罷り通ると思ったのでしょうね」
不思議そうに首をひねる監理官に、ジルベルはただ微笑を返した。
「特待生に酌量の余地は?」
「特にありません」
監理官の言葉に即答すると、なぜかびっくりした顔をされた。
昨日までは同じ学び舎にいたのだから、手心を加えると思われていたのだろうか。それならば心外だ。
「総合すれば、この国の常識を知っていて、特待生として平民より優遇された教養を与えられた上で、思い込みで準王族を貶めた」
「まあ、簡潔に言えばそうだな」
「他にも色々言っていましたが、それこそ証拠がない。私の認識した事実は、先ほど述べた通りです」
痴情のもつれに準王族たる侯爵令嬢や他の令嬢を巻き込むなど、それこそ正気の沙汰じゃない。
ふと、ずっと黙っていたライオスがこちらを見た。
美しい夜空の星が煌めく瞳。ジルベルが毎回見惚れる、綺麗なもの。
「ジル、彼女の言っていた『前世の記憶』とは、どういったものだ? 簡単に」
「生まれる以前に異世界で別人として生きた記憶です。以前の人格で、特待生は恋愛対象を選んで幸せな結末になるまでを模擬体験する遊戯をしており、今世は遊戯の世界に生まれ変わったと仮定して生きてきた。という感じです」
「なるほど。ちなみに、恋愛対象とは本人が選べるのか」
「そうですが、彼女が語った内容と現実は相違しています。殿下も私も友人たちも、彼女の傍には行かなかったし、ケヴィディ侯爵令嬢や私の婚約者も悪役になどなっていない」
「恋愛対象、悪役……だいたい理解した。遊戯の中の主人公だと、彼女は思っているわけか」
「どうでしょう。そろそろ、現実を認めると思いますが。元々疑問はあったようなので」
違和感に気づいても、足を止めなかったのは彼女自身。
ほんの少し止まって考えれば、答えには簡単にたどり着けた。
ジルベルだって、何度も何度も、本当に何度も忠告したわけだし。
現実が、ゲームのようにスムーズにいくわけがない。
決まりきった結末を目指すのは、果たして楽しいのだろうか。ジルベルには、よくわからない。
「つまり、ジルも『転生者』? だとしたら、彼女の言は少なくとも事実ではあるのか」
問いかける友の声が、普段よりわずかに硬い。
そんなに緊張しなくとも、ジルベルはどこにも行かないのに。
「証明はできません」
微笑んで言えば、じっと、こちらを観察する綺麗な目。
ふふ。こんな時だけれど、やっぱり綺麗で美しくて、まっすぐ向けられると嬉しくなる。
「私には、彼女が語った遊戯の記憶がない。彼女の言葉を理解はできても、そもそも仮初の物語の内容を知りません。なので、妄執に囚われた可能性がある、というのが客観的な事実かと」
「……なるほど」
転生者ではある。うっすら、だけど。彼女が話した内容は、普通に頷きながら聞けるし理解もできる。
ただ、ジルベルはジルベルとして生きた記憶しかないし、既視感なんて曖昧なものは証拠の裏づけになり得ない。
特待生が本当のことを語っているのかどうか、真実を知るのは本人のみ。
憶測で語らない監理たちは、事実以外を口に出すことはないだろう。
「そうだね……じゃあ、あとはまとめておこう」
監理官たちの言葉を有難く受け取り、ジルベルとライオスは会議室を辞した。




