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もっと格好よく言えるはずだったんだ


焦がれ続けた、懐かしい、でも見たことがないほど美しい女性。

まっすぐに腰まで伸びたミルクティー色の髪。蜂蜜みたいに艶やかな琥珀の瞳。


「ジル!」


知らない女性みたいに、でも確かに恋しくて仕方なかった婚約者が、ジルベルを見て笑っている。

ジルベルが贈った淡い黄金のドレスと、グリーンサファイアのピアスを揺らして、まっすぐジルベルを見ている。


招くように伸ばされた手に従うまま、細い小さな身体を、そうっと大事に、包むように抱きしめる。

感情を乗せて扱ってはいけない。ジルベル。優しく、柔らかく、大切に大切に。


「……っ、リルーシェ、ルシェ、ルシェ」


大きな身体の成人した男が、小柄な美しい女性に縋っている。

傍から見たら、どれだけ滑稽だろう。でも、なぜ止められるだろうか。


「会いたかった。ずっと、ルシェ、会いたかった……!」


会って抱きしめて、名前を呼んで、ここにいると確かめたかった。

たくさん話したいことがあるのに、なぜだろう。言葉がうまく形にならない。


「まあ。ジル、泣いているの? わたくしは約束を守ったでしょう?」


「ああ。そうだね。ルシェ、ありがとう」


「ふふ。どういたしまして。遅れてごめんなさい、不安だったでしょう」


「いい。無事なら、もう、他は何もいい」


喜劇だか悲劇だかの茶番など、もうとっくに忘れた。

ミルクティー色を見つけた瞬間から、ジルベルの心はただ一人を欲していたから。


身体を離して、急いで涙を拭いて、ジルベルはその場に片膝をついた。右手を胸に当てて、左手を背に隠して。

格好悪くてごめん。でも、これが精一杯なんだ。


「リルーシェ・ルドラー伯爵令嬢。あなたのこれからの人生を共に歩む幸福を、私に与えてください。あなただけに伝えたい言葉が、溢れてやまないのです。どうか、この手を取っていただけますか?」


震える手に、一瞬の間もなく手袋越しのぬくもりが与えられた。

胸が苦しくて、どうやって息をしているかも、もうジルベルにはわからない。


柔らかく潤むリルーシェの琥珀だけを、ただ一心に見つめた。


「ジルベル・アデット小侯爵。これまでの人生も、わたくしとあなたは共に歩んでまいりましたよ。これから先も、共にまいりましょう。わたくしの心も、たくさん聞いてくださいませ」


瞬間、どおっと会場中の空気が揺れるほどの歓声が、周囲から巻き起こった。

歓喜の嵐が明るく吹き荒れ、一組の未来を祝福する。


親交を深めていた者はもちろん、話に聞くだけだった者たちも、罪人を連行する騎士たちでさえ喜びに笑みこぼれる。

ヒロイン志望者が呆然と『なんで今、悪役令嬢が……?』と呟く声は、口々に叫ばれる祝いの言葉にかき消されて、拾われることはなかった。


優しい嵐の中心で、小さな手を握ったまま、泣けて泣けて立ち上がれないジルベルの頭を、柔らかくあたたかな身体が抱きしめた。


すり、と髪に頬ずりする最愛の人から、優しく懐かしい香りがした。領地の幼い思い出が蘇る。


────あれは、やっぱり恋だったよ。ルシェ。


静かな部屋に満ちていたのは、静謐な幸福。

燃え上がるような色ではなかったから、気づけなかったけれど。確かにそこにあった。


「ジル、あなたはわたくしの初恋ですわ。あなたの元に帰りたかったの」


そう。そうだ。大事なことを言っていない。


なんとか立ち上がり、リルーシェの小さな額にそうっと慎重に自分の額をくっつけた。

近くの琥珀には、信頼と恋が確かに揺れている。


堪えても溢れる雫を彼女の頬に落としながら、ジルベルは幸福に微笑んだ。


「おかえり。ルシェ」


「ジル、ただいま帰りましたわ」











本編(第一章)はいったん完結となります。

お粗末様でございましたm(*_ _)m

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