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地雷しか踏まない系ヒロイン


ついに、ジルベルが待ちに待った卒業式の日。

本当なら侯爵家で婚約者と再会する予定が、帰路で橋の不都合があったようで、遅れると連絡があった。


ドレスも装飾品も靴も、全部用意してリルーシェの生家に届けてある。もちろん手紙も。

数日前からそわそわして、父にもライオスにもクラスメイトたちにも笑われながら、ジルベルはあらゆる準備を整えた。


────やっと。やっと、やっと、リルーシェに会える!


文字じゃなく、言葉じゃなく、姿が見えるというのは、なんて素晴らしいことだろう。


「……まだかな」


もう何度目かの台詞を呟くと、隣にいたライオスと婚約者のケヴィディ侯爵令嬢が笑う。


厳かな式を終えて、少しの準備時間を置いて、これから卒業記念パーティーが始まるところだ。

パーティーには間に合わせます、と馬車の中で書いたのであろう力強い文字を思い出す。


大丈夫、大丈夫だよ。とにかく安全に帰ってきてくれれば、それが一番いい。


「ジル、少し落ち着け。今日まで大変だったな」


グラスを差し出しながら、しみじみとライオスがこぼした言葉に、深く深く頷く。


噴水事件の後も、特待生は度々似たような騒ぎを起こした。

退学や停学にならないギリギリを攻めてくるからタチが悪い。できれば、卒業までに片付けたかった。


標的は、たいていケヴィディ侯爵令嬢や友人たち。

王子がまったく靡いていないにも関わらず、なぜか婚約者というだけで悪役令嬢? 扱いされていた。可哀想に。


靡いていないどころか、ライオスは視界にすら入れていない。

騒ぎを収束させるのはいつもジルベルで、補佐としてライオスの友人二人が一緒に頑張ってくれた。

もちろん、ライオスを遠ざけたのはわざとだ。思惑通りにさせて堪るか。


「ケヴィディ侯爵令嬢も、お疲れ様でした」


「まあ、ふふ。あなたほどではありませんでしたわ、小侯爵。よろしければ、カレンデュラとお呼びになって」


ちらとライオスを伺えば、苦笑気味に口を挟む。


「カレン。ジルはね、最初に呼ぶ女性の名前はもう決めているのだよ」


「まあ! まあまあ! わたくしときたら、気が利かず申し訳ありませんわ!」


一気にテンションが上がった。困る。


「ええ、そうですわね。その方がよろしいわ。ふふ、きっと喜ばれますわ」


「……ただの、我儘なのですが」


「素敵な我儘ではありませんか。女性として、婚約者にそこまで想われるというのは、夢のようなことですわ。わたくしほどの幸せ者ですわね」


さらっと惚気けて話題を流してくれた侯爵令嬢に、ジルベルは苦笑しながら有難く乗る。


いつからか、ジルベルの婚約者が隣国の王立研究所に留学する才女というのは広まっていて、ついでにジルベルが手紙のやり取りで彼女に恋をしたことまで知られていた。


どこに行っても、最近は『いよいよですね』『よかったですね』『私たちも嬉しいです』と、微笑ましいと言わんばかりに全力で応援されている。


件の特待生だけが、『浮気してるかもしれませんよ』『信じすぎてもしんどいですよ』『ちょっとよそ見するくらいが魅力的ですよ』とか、失礼なアドバイスをしてきた。

もちろん全力でスルーした。ありがた迷惑にも程がある。


やっとだな、と考え続けていたせいで、ジルベルは卒業式をあんまり覚えていない。

生徒会の仕事も完全に引き継いだので仕事もなく、ひたすらリルーシェのことを考えていた。


「みなさま! ご歓談中、失礼します!」


突然、パーティーも始まっていないのに取り巻きを引き連れて、舞台上に主役のように登場した件の特待生。

おい、おまえ在校生だろうが。卒業パーティーの参加資格は、卒業式に縁のある者だけだぞ。


「あたしは、この場で、告発させていただきます!」


はらん、と作り物めいた涙を散らしながら、腹から出した声量で叫ぶ。

会場は静かというか、ポカーンという空気だ。


────そうだったー……。


ジルベルは、こっそり頭を抱えた。

乙女ゲームや恋愛漫画などの異世界ジャンルの場合、最高潮は卒業パーティーに訪れるんだった。

リルーシェのことしか考えていなかったから、既視感までもスルーしていた。


「あたしは昨日、ケヴィディ侯爵令嬢に階段から突き落とされました! 殺されかけたんです!」


しーん。ざわっともしない。静寂。

そりゃそう。平民が、準王族たる侯爵令嬢を告発するとしたら、こんな場であってはいけない。

というか、パーティーの場での告発って何だ。TPOを知らんのか。


しかも、殺人未遂。

もちろんこの国では身分を問わず、正当防衛などの理由なく人を殺めるのは重罪である。

たとえ貴族と平民であっても、罰に差異はあれど、罪として問われる。


さすがにこれは、と踏み出しかけたジルベルの腕を、ライオスが掴んだ。

目で合図された友人二人が、ケヴィディ侯爵令嬢を騎士の近くまで移動させ、護衛をつける。


「……ライオス?」


腰を引き寄せて耳元で問いかけると、グラスで口元を隠したライオスが小さく笑う。




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