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禿げるかと思った


教員や生徒会メンバー、もちろん第一王子も含めた協議の結果、令嬢方以外への厳重注意となった。


特待生に関しては、そもそも噴水に落ちるほど近づくのは禁止。子供でもわかる。

根拠もなく、相手が悪意を持っていたと衆目の前で発言したのもよくない。

あと、普通に貴族や身分の勉強をやり直しなさいと課題が出された。


取り巻き三人は、根拠のない中傷。あと不敬。

彼らは貴族なので、もちろん当主に報告がいく。こってり絞られるがいい。退学させられないといいね。


ご令嬢方には、今後は特待生に近づく際は生徒会を巻き込むよう助言した。

当主に報告はするが、別に咎める点はない。


なんといっても、噴水の場面は割と目撃者がいた。

特待生が落ちた時は一人で、駆け寄ってきたご令嬢方が助けようとしたことも、謂れのない中傷を受けていたことも、普通に証言がザクザク上がった。

なんなんだろう。本当に暇なんだろうな。


げんなりと後処理をして各家門の当主たちへの手紙を書いて返事をまとめて処分の……と忙しくしていたら、テストが始まった。

本気で世知辛い。


卒業資格はすでに取ったとはいえ、まさか筆頭侯爵家の嫡男が情けない成績を晒すわけにはいかない。

ライオスに励まされ労われながら乗り切って、三位は死守した。危なかった。


「ジル、ミルクティーもらってきた。今は二人だけだ、楽にしろ」


「ありがとう、ライオス……」


唯一の安全地帯でもある生徒会室で、ジルベルはライオスと共に、残っていた後始末を片付けたところだ。

テスト明けだというのに、憂鬱が過ぎる時間だった。やっと終わった。


あたたかいカップを持ち、大好きな色と香りにほっと息をつく。


「そういえば……例の特待生、上着を返したいとクラスに来たと聞いたが」


「ええ。たまたま私は不在で、友人が預かると言ったようなのだけど、どうしても直接と渡さなかったと言っていたよ」


「……ジルが婚約者に夢中なのは、割と知られた話だがな」


「どうだろう。何か、処罰への不満があったのかも。いずれにしても、別にわざわざ時間を取るほどのことでもないかな」


特待生とはいえ平民出身者のために、高位貴族の令息が都合を合わせることはしない。

学園は、身分を盾にした弱者への圧力や加虐を禁じているが、区別は明確にあるべきだ。

何せ、本格的な社交界進出を控えた、小さな社交場なので。


珍しく厳しいね、と周りは言うが、ジルベルにしてみたら当たり前の対応をしている。

これまでは、弁えた言動をする者しかいなかっただけで。


「ジルはなんというか、面倒見がよすぎて厄介者に好かれやすいのかもな」


「ええ……? 私、面倒見いいかな」


「いいんじゃないか。少なくとも、放っておくことはないだろう」


「誰かが投げたら、誰かが拾わなくてはいけないからね」


身体があったまって、なんだか少し眠い。

行儀がよろしくないことは承知で、今だけは、と机に頭を預ける。

深呼吸、深呼吸。落ち着いて、ゆっくり、穏やかに。


「……癒されたい。リルーシェに会いたい」


思わずこぼすと、癖毛をいじっていたライオスが綺麗なお目目を丸くした。

星が輝く夜空は、いつだって美しい。


「珍しいな……ジル、婚約者の話はしても、会いたいとは口にしなかったのに」


「……そうだったかな」


「そうだ。手紙のこととか惚気は話すが、卒業式を楽しみにしているとしか言わなかった。私は、恋しさが溢れてしまうから、あえて会いたいとは言わないんだと思っていた」


恋しさが溢れてしまう。確かに。

今、猛烈に、リルーシェに会いたい。


ぐずぐずとテーブルに懐くジルベルの髪を撫でつつ、ほんのり小さくライオスが笑う。


「なんだか今日は可愛らしいな」


「……ライオスほどじゃないよ」


「私が? 可愛いなどという言葉とは無縁だろう」


「まさか。ライオスは可愛いよ。可愛いし、キリッとしてかっこいいし、すっごく美人。ずっと見てたくなる」


「おまえ……相変わらず、よく恥ずかしげもなくそんなことを……」


だって、本当のことだ。

伝えたい言葉は、顔を見て話せるうちに伝えたい方がいい。

身をもって知ったことだ。今なお思い知ることだ。


白皙のすべらかな頬に、指先だけでそうっと触れる。

あんまり力加減がわからない。ほんの少しの力で傷つけてしまいそうなほど繊細な肌だ。


「ライオス」


「…………なんだ」


目尻がうっすら赤い。可愛い。


「卒業しても、僕と友達でいてくれる?」


大きくまん丸い夜空の星が煌めいて、ちょっと珍しいほど破顔した。


「当然だ。……そうか。ジルは、素では〝僕〟と言うんだな」


「あれ。僕って言った?」


「言った。ジル、俺もおまえとずっと友がいい」


ああ、そうか。今、僕たちは裸の心だけで話している。

ジルベルの孤独を慰めるみたいに、夜空の星の瞳が柔らかく輝く。


「案ずるな。俺たちは確かに、四年を積み重ねてきた」


「……そうだね。ふふ」


初めて会った時から、ライオスはまっすぐだった。

まっすぐな主君の友として、ジルベルはこれからをずっと生きていける。


恋しさと寂しさの隙間に、そっとぬくもりが差し込んだ。




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