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好物はミルクティーと蜂蜜

よろしくお願いします!


アデット侯爵家の嫡男ジルベルには、幼少の頃からの婚約者がいる。

リルーシェという名で、ミルクティー色のさらりとした髪と琥珀の瞳の可愛くて美しい子だ。


淡い金髪の緩い癖毛に新緑の瞳のジルベルは、飛び抜けて美形というわけでも平均以下でもない、至って普通のそこそこ整った顔立ちだ。

至って手順通りに家格を吟味し、至って穏やかに政略的な婚約を結び、至って和やかに仲を深めてきた。


十二歳の学園入学を機に、優秀なリルーシェは隣国の王立研究所への留学を決め、卒業のタイミングで帰国し婚姻することがまとまり、ジルベルは至って普通に送り出した。


十七歳までの五年間は、文通のみの交流となるが、特に抵抗もなかった。


のだ、けれど。


「変だよねえ」


ふふ、と思わず笑みがこぼれる。


元々おしゃべりな二人ではなかったから、一緒にいてもそれぞれ本を開いていたり違う作業をしていたり、会話らしい会話はそれほど記憶にない。


だというのに、学園に入学して三ヶ月、ジルベルはどうにも片側が軽すぎるような、半側が足りていないような心地が抜けなかった。


これも手紙に書いてみよう。そう決めることで少しの落ち着きを取り戻し、そんな自分にまた笑えてしまう。

この三ヶ月、互いに交わした手紙は三通。往復に日数がかかることを思えば、決して少なくない。


たった三ヶ月で、婚約してから今までの総会話の文字数を上回ったかもしれない。

自分でも知らなかったが、ジルベルは手紙というものを楽しめるたちのようで、毎回枚数を重ねてしまう。


そして、それはどうやらリルーシェも同じようだった。

普段の無口な彼女の中には、こんなにもたくさんの言葉が溢れていたのだと、手紙を開くたびに新しい発見がある。


名門侯爵家の嫡男と、由緒正しい伯爵家の次女。

家格や利害関係や派閥を考慮した上での、最も穏便かつ適切な相手。財政や家門の傾向を鑑みて、最も適当な縁談。


たったそれだけで結ばれた縁だったが、いつの間にかジルベルにとって彼女の存在は、身体の一部といえるほど重要になっていたらしい。


────大事にしよう。一生、一緒に笑ってもらおう。


そのためには、アデット侯爵領をさらに盛り立てるべく留学している婚約者が安心して帰って来られる場所を、ちゃんと作り上げて待っていなければ。


婚姻前の女性が留学なんて、とか、婚約者を差し置いて、なんて声がなくはない。

でも、ジルベルの言動全部で、それらは抑え込める。

耐えて待っているわけでも、悔しがりながら見送ったのでもない。


ジルベルは、学びたいと言った彼女を心底応援しているし、無口な割に行動的な彼女が好ましい。

リルーシェが帰って来るまでに、彼女の場所を守って、ジルベルも力を付けよう。


願わくば、頼りがいのある婚約者になりたい。

異国で困った彼女が、助けてと言える一番の味方に。

帰国した彼女が、できれば好きになってくれるように。


よし、と意気込んで、ジルベルは身支度を整えた。




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