アドバイザー募集
告知は、いつも通りに出た。
いつも通りに見えるのが、たちが悪い。
広場の掲示板。
上から順に並ぶお知らせのひとつとして、淡々と貼られる。
『プレイヤーアドバイザー募集(試験運用)』
FRO――Forest Route Online。
戦闘が強調されてから、街は忙しくなった。
忙しいのはプレイヤーだけじゃない。
運営も忙しい。
ただ、その忙しさは、派手じゃない。
同じ揉めが、場所を変えて戻ってくる。
火を消しても、火種が残る。
だから今回は、入口を塞ぐ。
そんな気配が、文章の端に滲んでいた。
『対象:プレイヤー同士の摩擦が起きやすい導線・地点
それから初心者が引っかかりやすい手順・場所
(例:初回の街まわり、装備更新、パーティ募集、採取・狩場の混雑など)
目的:同系統の問題を分類し、案内と“逃げ道”を標準化する
備考:攻略側の意見だけでなく、初めて来た人の「分かんない」「詰んだ」を拾える形で整理する』
読み終わる前に、広場のチャットが動き出す。
「運営、外に投げたな」
「今さら?」
「プレイヤーにやらせるとか草」
前線の言葉は、いつも強い。
強い言葉は、拡散が早い。
だが、別の層もいる。
「これ、やっとじゃない?」
「初心者の詰まり、ずっと放置だったし」
「“詰んだ”って言っていいんだ。そこだけでも偉い」
「逃げ道って書いてある。そこまでやるなら助かる」
まったり組の言葉は、静かだ。
静かな言葉は、まとめて拾わないと消える。
モリは広場の端で、告知文をもう一度読んだ。
“拾える形で整理する”。
“分類して束ねる”。
フォームで意見を投げるだけなら、いつものことだ。
だが、これは少し違う。
運営が、強い声だけで決めるのをやめようとしている。
少なくとも、文章の上では。
モリは前に出ない。
けれど、入口を塞ぐという発想が、ここに残っているのは分かる。
このゲームは、工夫した人の分だけ遊び方が増える。
だから本当は、遊び方の違いで殴り合うのは、もったいない。
モリは掲示板を閉じた。
森へ戻る。
街の石畳が途切れると、足音が変わる。
乾いた音が、柔らかい土の音になる。
視界の端に、緑が増える。
木の影が、歩くたびに揺れる。
街のチャットは背中に残る。
残るが、森の匂いに負けて薄くなる。
湿った苔。
折れた枝の甘い匂い。
遠くの川の冷たい気配。
モリは道を急がない。
迷わない速さで歩く。
分岐で一度だけ立ち止まり、目印を確認する。
石。
倒木。
少し白い幹。
それだけで十分だ。
拠点に着く。
丸太の家。
扉の前の焚き火跡。
脇の干し台には、昨日の魚がまだ残っている。
指で触れると、表が少し硬い。
裏返す。
それで乾き方が揃う。
物置の蓋を開け、足りない道具を一つだけ出す。
麻ひも。
斧。
火打ち石。
全部を出さない。
出すと散らかる。
散らかると探す。
探すと手順が途切れる。
水を汲む。
薪を割る。
火を起こす。
湯を沸かす。
やることが終われば、終わりでいい。
湯が沸くまでの間、モリは小さく息を吐いた。
街は、走る。
森は、止まる。
止まることで、また次が見える。
告知は出た。
入口を塞ぐ手段も、用意された。
あとは、誰がそれを使うか。
モリは焚き火の前で座った。
週に一度だけ、口を出す。
その前に、もう少しだけ様子を見る。




