エピローグ
エピローグ
白く、美しい花が広く咲き誇る花畑。
風が吹く度に白い花びらが舞いあがる。
そしてはらはらと雪のように降ってくる花びらの中、純白のワンピースを身に纏った一人の女性が静かに佇み、空を見上げていた。
優しく、慈愛に満ちた美貌、空と同じ鮮やかなスカイブルーの長髪、エメラルドの如く美しい緑色の瞳、歳は20~25までといったところだろう。
純白の花びらが降る花畑に立つ彼女の姿は幻想的なまでに美しく、儚げであった。
空をジッと見つめていると、ふと彼女は何かに気づいたかのように目を少し見開いた。
「……アリオンですか?」
「…あぁ」
美女の透き通った優しい問いかけに応えたのは、落ち着いた、甘い響きを持つ男の声だった。
振り返ると、そこには黒い外套を着込んだ青年が立っていた。
肩まである美しい銀髪、吸い込まれそうなアクアブルーの瞳、剣のように鋭い目つき、隅々まで綺麗に整った顔立ち。
それは、鑑賞用に造られたかのような美貌を持つ美青年であった。
「もう発ったのか?」
「はい、ついさっき」
美女はこくんと頷た。
「……しつこいようだが――――――」
「わかっています、私達がやっている事を…」
銀髪の美青年―――アリオンの言葉を、美女はやんわりと、しかし重い口調で応えた。
「でも…本当にこれでよかったのでしょうか?」
アリオンに問いかける彼女の顔は哀しみと罪悪感に満ちていた。
「彼女には彼女の人生があります、それなのに私達の都合で彼女を……」
「奴らに対抗できるのは彼女だけだ、仕方がない」
「でも―――――っ!」
「ウルド」
「っ!」
悲哀を刻んで振り返った彼女の言葉を遮ったのは、氷のような冷たさを宿したアリオンの声だった。
「もう甘い事を口にするのはやめろ、あの〝力〟の存在を知り、ほんの一部だが手に入れてしまったあの男はもう手に負えない程の権力を手に入れてしまった……もう俺達には彼女に頼る以外に道は無い」
「………」
アリオンの言葉に儚げな美女――――ウルドは返す言葉も無く、目を伏せて俯いてしまった。
心の底から落ち込んでしまったウルドを横目で見て、アリオンはふぅっと溜め息は吐いた。
「案ずるな、俺もできる限りの力になる…」
銀髪の青年がそうぶっきらぼうに言い放つと同時に、彼の背後の空間に深い暗黒が生まれた。
それは生きてるかのように蠢き、大きく広がっている。
アリオンはウルドに背を向け、その闇の中に躊躇無く入っていく。
「彼女に何もかも押しつけるつもりは無い…だからそんな顔をするな……また会おう」
そう言い残した青年の姿は完全に暗黒に溶けていった。
そして、アリオンを呑み込んだ闇は跡形もなく消え去った。
「…………」
黙ってそれを見届けたウルドは再び空を見上げた。
「……もう…避けられないのでしょうか……」
そよ風に髪を靡かせ、ウルドはそっと、誰かに問いかけるかのように、哀しげに呟いた。
――――――――To Be Continued――――――――