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真実の愛を見つけたと 婚約破棄を宣言されたので、全力で実況してみた

作者: 西の宮

「ローレンス・クライアン この場で、君との婚約を破棄する。

俺は、真実の愛を見つけたんだ!」



 婚約者の第4王子・ルーファス様の声が、王宮の広間に響く。



『始まりました、王子様の告白!

先陣を切るのはわたくしの婚約者、ルーファス様。

婚約者を振りましたが、わき目は振りません!』



 ルーファス様の全力に、私も全力で実況をスタート!

呆気にとられたような王子や、突然の展開に戸惑う(とまど)貴族達も多々見えます。

実況しがいのある夜になりそうね。



『あら、真実の愛を見つけたと叫びましたが、それだけなのでしょうか?

ルーファス様が固まったまま、動きませんね!』


 

王子が動いてくれないと 同じように困惑してる貴族達の実況するしかないけど、需要はあるのかしら?

少しくらいなら、あるのかな。

 


「ろ……ローレンス? お前、気でもふれたのか?

いや、今は お前のことなどどうでもいい。

俺の真実の愛は、リリス子爵令嬢だと宣言する!」




『ルーファス王子の真実の愛は、リリス嬢だと宣言! 

 身分を超えた愛、これは熱い立ち上がりですね』


『王子と2人のお茶会でも、心ここにあらずだなと思ってはいましたが

リリス嬢に心移りしていたのを、去年の秋まで見抜けなかった婚約者は

そう、わたくしです!』




 その調子 その調子!

話が進まないと、実況出来ないからね。

全力で 告白を続けてください。



「ローレンス嬢が、おかしくなられた!?」


「無理もあるまい、王族との婚約が無くなったのだぞ」


「いきなり婚約破棄を宣言されるなんて

ルーファス様も、何を考えておられるのかしら」



 

 貴族達から、困惑と哀れみの声が向けられてますが

 この実況は、やめません!




「……ほ、本当に。

この場で告白しても、よろしいのですか?」

「もちろんだとも!

さぁ、リリス嬢 君の正直な気持ちを言ってくれ。

この場の全員が、歴史の証人となるだろう!」




『リリス嬢の言葉に、ルーファス王子も、ご自身の熱い想いを言葉に乗せます。

陛下や王妃、貴族達も、これには目が離せません!

解説にもう1人欲しいけれど、残念ながら今夜は、婚約破棄されたばかりのわたくしだけです』



 

 なんなんだコイツは?といった邪魔そうな顔で、ジロリとこちらを睨むルーファス様。

婚約破棄されたから手ぶらだし、こんな舞台を、実況しない方がもったい無いもの。

それにしても、庇護欲をそそるリリス嬢の容姿は、本当に可愛いわね。



「では、恐れながら申し上げます……

私が愛してるのは、騎士団長 ヴィリアム様!

5年前に、初めてお見かけした日から、私はヴィリアム様一筋なんです!」




『振られたああああああああああああああああああああ!

王子の告白、失敗ですっっっ! 会場にざわめきが走ります。

ヴィリアム様も予想外の告白に驚きの表情を隠せません』


『おっと、王子は口を開けたまま呆然と立ちつくしていますね。

銅像にでも、なったのでしょうか?』




 動かぬ銅像と化した王子は、放っておきましょう。

えっ? 声のトーンを落とせって?

1部の貴族達から、非難の声がありましたが、無視で




『リリス嬢から告白を受けたヴィリアム様は、どう答えるのでしょう。

彼女の愛は、無事に実るのか!』



 

 ヴィリアム様への告白という、大舞台なので

せっかくなら、騎士団長の嫡男ハード様や、次男のムーラン様

海を隔てたユアン国に婿入りした、3男のカルロス様達にも見てもらいたかったな。

  


「真実の愛、か。

ルーファス王子やリリス嬢が、本心を明かすのなら、私もこの場で告白しよう。

私が愛する方は、クラレント侯爵家のナローザ夫人だと!」




『リリス嬢を振った上に、ふた股かああああああああああああ!?

彼女も落ち込みを、隠しきれていません。

ヴィリアム騎士団長の本命は、ナローザ夫人でした。

騎士団長の愛が、ナローザ夫人の心を、自慢の剣で貫けるのか注目ですね!』




 ヴィリアム様が、ナローザ様の事を想っていたのは暗黙の了解みたいでしたね。

社交界の時に向ける、騎士団長の熱い視線は、わたくしじゃなくても気付きます。



「ヴィ、ヴィリアム様? 私にはファンク伯という夫が……

わかりました。騎士団長のお気持ちに応えるため、私も正直に言いますわ。

私が本当に愛してるのは、シャイクス侯爵家のマッケロン様です!」




『セーフ、セーフです! 

ふた股ではなかったようですね。

残念ながら、ナローザ夫人からはお断りされてしまいました』


『この広間には、片思いの方々しか居ないのでしょうか? 

ヴィリアム様も、ファンク侯爵も、崩れ落ちそうな顔ですね。

しっかりしてください!』




――ところで、わたくしの全力の実況に、もう誰も触れませんけど

みなさま、慣れるのが早すぎません?

王族からも止められないし、これは、全力で実況しろってことですね!



「ナローザ夫人、貴方のお気持ちは嬉しいが、応えられない。

私が本当に愛してるのは、マルクス伯爵家のエリザベス夫人だからだ!」




『空振りが止まりません!! 

またしてもお断りされました、本日の告白者はここまで全員、見事に惨敗!

全然、告白が実りませ……おや、貴族達(ギャラリー)が賑やかですね?』




 そこからは(せき)を切ったように、愛を告白する貴族達が続きます。

 ワンディ家やルクレツィア家、カステリオ家やモンテルロ家、etc



 次から次へと飛び出してくる、数々の告白を

 全力で実況している中で、ついに――



「私が本当にお慕い申し上げてるのは、夫ではなくカイニス陛下です!!」




『出たあああああああああああああああああ! 

のびるのびる、これは陛下の心に入るのか!?

特大の1発です、カイニス陛下への告白が飛び出しました!

陛下に告白なんて、下手すればお家取り潰しの可能性もありえますよ』


『うわっ、寒っ! セラフィナ王妃様の視線で、広間が一気に静まり返ります。

体感で、室温が5℃ほど下がりましたが、陛下はどうお答えになるのか!?』

 



 王妃の前で、陛下への告白という、貴族達には予想外の展開。

セラフィナ王妃、その沈黙 とても怖いです……

 


「臣民に慕われるのは嬉しいが、余が愛するのは、王妃セラフィナ!!!



……と、ベルファーヌ夫人だ」

 



『浮気だああああああああああああああああ!

みなさまお聞きでしょうか? 国を揺るがす特大スキャンダルですよ、ええ。

この国1番の愛妻家と名高い、王妃ひと筋と言われていた陛下にも

真実の愛があったようです』


『おっと、「浮気は男の甲斐性(かいしょう)だ」とおっしゃってますが、最低ですね!

側室がないこの国では、王妃以外を選べませんが

それはそれとして、妻を泣かせる発言。これは酷い失点です!』




 カイニス陛下の発言に、再び騒めきを取り戻す広間の貴族達

 彼等の告白は、止まらない。



「……というわけで、僕が愛しているのは、ローレンス侯爵令嬢なんです!」



『速報、緊急速報です! ただ今、わたくしへの告白が入りました! 

学友の弟、ホルクス様から告白を受けました。

王子から婚約破棄された、今がチャンスだと思ったのでしょうか?』


 

 

「ごめんなさい。

わたくしも、ずっとお慕いしてる方が居るけれど……ホルクス様ではないの」



 彼のことは、友人の弟としか見てなかったし、異性として意識したこともなかったの。

だって、わたくしは――




「私だって、あなたとの婚約は嫌だったわ。

でも、仕方ないじゃない。あの縁談は、お父さまが持って来たんだから!」


「お前……やっぱり、あの男のことが好きだったのか。 

先日の舞踏会でも、これ見よがしに、あいつ好みのドレスを選んでたもんな」


「何が愛してるのは君だけだ、よ。

口先だけの愛なんて、わたし欲しくないわ!」




 今や、王宮の広間とは思えない。貴族同士の喧嘩が、いたる所で起きていた。

婚約者同士の言い争いや、妻を罵る(ののし)夫達、泣き崩れるご婦人方と、様々。




『王宮の広間とは思えない光景ですね!』


『これは困りましたね。

修羅場が多すぎて、これでは実況がおいつきません。

ええ 1人で実況は無理ですね。 

次回は、有識者を呼ぶことにしましょう』




 実況したかった方々も終わったし、そろそろ退席の頃合いかしら。

陛下に告白した方や、ベルファーヌ夫人が無事に済めばいいけれど。


 ところで みんな、まだわたくしの実況を聞いてる?

王妃の沈黙の中でも、実況を続けたのに

無視されるのは寂しいわね……




『ローレンス王子の婚約破棄や、カイニス陛下の告白の実況も終えたので

そろそろ、退場したいと思います』


『以上、王宮の広間からでした!』




 喧嘩を続ける、陛下や貴族達に

 軽くドレスの裾を上げ、頭を下げながら混沌と化した広間から退場っと――

 


――――――――――――――――――――――――――――――――――

 


 広間を出て、待ち合わせの小部屋に入ると


「あの、本当に……これでよろしかったのですか?」


 先に、広間から抜け出していたリリス嬢が

 少し残念そうな声で尋ねてきた。




「ええ、協力してくれて本当にありがとう。

あの方の心が、わたくしから離れていたことは気付いていたし

最高の実況にもなったわ」


(彼女も振られたばかりで、傷心なはずなのに

わたくしを気遣うこの配慮。

リリス嬢を、もっと広間で実況すれば良かった!)

 



「それと……これ 返しておきますね、真実薬(ヴァールハイト)

広間の食事に振りかけておいたけど

まさか、陛下達からも、告白が飛び出るとは思いませんでした」


 リリス嬢から、真実薬(ヴァールハイト)を受け取りつつ礼を返す。



「陛下達も不用心よね、王族も参加する夜会が、あんな無防備だなんて。

リリスに振りまいてもらったこれが毒なら、今頃あの広間は、惨劇よ?」


「わたくしがユアン国に留学してた時に見つけた、本来は尋問用の薬なんだけど

何かに使えないかと、手元にひと瓶 残しておいたの。

王子から婚約破棄されちゃったし、わたくしも次の相手を見つけないとね」


 

 貴族の世界は政略婚が多いけど、この国は、あまりにもソレが多すぎる。

王子との婚約も、王家からの打診で結ばれたもので

わたくしが本当に愛していたのは、ヴィリアム様の3男・カルロス様。



 ルーファス様との婚約が結ばれる少し前、ユアン国の王族に見初められ

婿入りのためカルロス様が、この国を去った日は、本当に悲しかった。

あの夜、ベッドの上で涙が溢れたのはわたくしの秘密。


 

 お父さまやお母さまは、ルーファス様との婚約を喜んだが

わたくしの心は、ずっとあの方にしか向いていないのに

実の両親でさえ、娘の気持ちに気付かない。


 ううん、気付いていても

王族との婚約という目の前にぶら下げられたエサに、夢中だっただけかしら?

 


「それよりリリス。

あなたも、これでよかったの?

せっかく王子様と結ばれるチャンスだったのに」

 

(さて、王子の告白を断った彼女から

 どんなコメントが飛び出すのでしょうか!)



 こくり と、首をかしげながら見つめ返してくるリリス嬢

 


(これは可愛い、王子が胸を打たれたのも納得だけど

この胸のもやもや感。

なんだか、すごく負けた気がしますね……!)




「貴族に産まれたからって、みんなが王族になりたいわけじゃないんですよ。

お茶会に参加するだけで疲れるのに、王族との結婚なんて毎日クタクタになっちゃいます」


「それに、ルーファス様のような細身の方は、好みじゃないんです。

ヴィリアム様に1度、手を貸していただいたことがあるんですが

あの時の頼もしさといったら……うん、ルーファス様には無理ですね!」



 からりと笑う、リリスの声が小部屋に響く。 



『後悔している様子は、全くありません。

王子の告白を断わったリリス嬢が、本日の主役で間違いないですね!』

『あっ……』


「……もしかして、ずっと実況をされてたのですか?

この部屋で合流してからも? 

ローレンス様の実況なら、全部聞きたかったのに!」




 バッ と慌てて口元を抑えるが、もう遅かった。

ぷくりと頬をふくらませながら、怒ってみせるリリスに

ごめんなさいと謝っておく。


 最後に心の実況まで漏れるなんて、わたくしには向いてなかったみたい。

 楽しかったから、これで良かったのかも……

 

 なんてね。

真実の愛や、婚約破棄の実況が出来る有識者って 誰なんでしょうね?

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― 新着の感想 ―
断罪される本人よりは迷惑被った生徒の誰かか、臣籍降下した王弟とかが実況するのが適任かもしれない。 ○年前にも王族がやらかして系の小話を挟みつつ、王子のコンプレックスとか真実の愛( )がいつから始まった…
婚約破棄騒動、その手でくるとは思いませんでした…A^∇^; また実況するなら解説者見つけなきゃね(笑) お疲れ様でした。
有識者………… 〇Tuberとか居るのかな? それとも古〇さんみたいなしゃべりのレジェンドとかが居るのかな?? ところでローレンスって、男性名じゃないのでしょうか?
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