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第40話 忠誠と謙遜

 三人での話を終えて、気づけば夕方になっている。私はレイスさんと話したいことがあったので、夕食の前に探しに行くことにした。


(レイスさんは別の客室を使ってるんだよな。というかこの公邸、部屋が多い……来客が多くても対応できるようにってことかな)


 公邸の二階一番奥にある部屋――ここをレイスさんが使っているはずだが、今は在室中だろうか。


 軽くノックをしてみる。しばらくして内側から扉が開いて、見慣れた仮面をつけたレイスさんが出てきてくれた。


「レイスさん、お話させてもらってもいいですか?」

「フィリス様たちとのお時間もありますし、私のほうは日を改めても……」

「いえ、できれば今がいいです。すみません、学院に行くことを勝手に決めてしまって」


 そう言うと、レイスさんは私を部屋に入れてくれる。テーブルの上には閉じられた革の本がある――おそらく記録をつけているのだろう。


「こちらに来てからの覚え書きを作っています。アシュリナ様の護衛というには、私は力が及んでいないと思いますし……何かお役に立てるとしたら、こういった方面かと思いまして」

「私も戦えますから、持ちつ持たれつ……って言うんでしょうか。どちらが守るっていうわけでもなくて、お互いに頼りにするというか……私としては、そういう形が理想です」

「……貴女は本当に優しい。私はヴァンデル伯との戦いに加わることもできず、ただ黒髪の剣士が勝ってくれるようにと、安全な場所で祈るだけだったのに」

「フォルラントと戦うことに気が進まないのは仕方ないです。私はグラスべルを……フィリス様たちを守るためなら、戦うのも止むなしっていう気持ちですけど」


 気をつけて話さないと、『私がヴァンデル伯軍と戦った』という意味合いのことを言ってしまいかねないので、慎重にならないといけない。


「ゼフェンがヴァンデルに通じていると分かったときに、私は暗部のもう一つの務めを果たすべきだったのでしょう。しかし私は、ゼフェンを倒すどころか、貴女がいなければ殺されているところでした」

「……レイスさんは、もっと強くなりたいってことですか?」

「……はい。暗部となるための訓練をしているときは、何も考えずにただ日々を過ごしていました。しかし今は違う……私は、アシュリナ様のお役に立ちたい。貴女がいない間にそう強く思いました」


 彼がそこまで思ってくれているとは思っていなかった――レイスさんは自由になれたのだから、私が王国に戻るという我儘にまで付き合う必要はない、そう勝手に予防線を張っていた。


 でも、それは私の独り相撲だった。レイスさんがここにいるのは『仕方がない』という理由じゃなく――彼自身の意志で、いてくれている。


「さっき『こういった方面』と言ったのは……その、文官の方面で、私を助けようとしてくれたってことですか?」

「……肯定させないでください、そのようなことを」

「ち、違います、それは全然悪いことじゃなくて……凄く嬉しいは嬉しいんですけど、レイスさんは謙遜しすぎです。『黒髪の方』だって、レイスさんと一度手合わせしたいって言っていましたし」


 実際は言っていなくて思っただけだが、『化身解放』したときの私は血気盛んなところがあって、強い人と手合わせをしたいという感情がある。


「彼が、僕なんかと……?」

「なんか、じゃないですよ。そうやって自分の価値を小さく扱うのは駄目です」

「っ……も、申し訳ありません。ただ、僕自身は本当に自分のことを……」

「あなたは素晴らしい人です。強くて、思いやりがあって、自分のことより他人のことを考えられる。私はフィリス様みたいにかっこいい女の人になりたいですが、それと同じくらい、レイスさんのようにもなりたいんです」


 勢いに任せて言ってしまってから、顔が熱くなってくる――フィリス様みたいに、というのは早く成長したいと言っているみたいなもので。


「……僕はアシュリナ様に、そこまで言っていただけることはしていません」

「してますよ? してるからこうやって恥ずかしい思いをして言ってるんです。私がこうして生きているのはあなたのおかげなんです。一生かけてこの恩を返すつもりなんです」


 なかなか分かってもらえないので、また余計なことを言ってしまう――エリック様もそうだけど、私に対して他の人が引け目を感じてしまうのなら、その都度言葉にして伝えなければ仕方がない。


「レイスさんは強いですし、その強さに私も頼るつもりですから。今後ともお願いします」

「かしこまりました。アシュリナ様がセレンテイルの学院に行かれるとおっしゃったときは、僕はこちらに残って情報収集をするべきかとも考えましたが……お許しいただけるなら、同行させていただきます」

「こちらからもお願いします。そうすると、レイスさんも素性を隠さないといけないですね」

「いえ、私は気配を消すことができますので、基本的には潜伏しています。しかしそれでは護衛がついていると周知できませんので、アシュリナ様がおっしゃる方法で正体を隠し、表の護衛を務められるということで……よろしいですか?」

「はい。グラスベルにとっては実質上の敵地ですから、念には念を入れないといけません。最終的には敵地と呼べる場所でなくすのが目的ですが」


 フォルラントは火薬庫のようなもので、ヴァンデル伯によるグラスベル侵攻が失敗してもまた他の戦争が起こるのではないか――ロディマス王子と対面してみて、そう予感せずにいられなかった。


「ヴァンデル伯軍を撃退しただけにとどまらず、他方面での戦争の可能性を絶とうというのですね……」

「難しいことだとは思いますけど、もう始めてしまいましたから。でも、気をつけないとただ状況をかき回してしまうだけかもしれないですし……味方を増やさないといけないですね」

「そういった意味でも、学院に赴かれるのは良い考えです。各国の貴族が通う学院ですから、都市同盟以外の国に繋がりを持つことができるかもしれません」

「初めからそれが目的で近づくっていうのも違いますから、まずは穏便に過ごさないとですね」


 そもそも私は護衛なので、他国の生徒との接点を持つのは不自然になるので、積極的には動けない。


 行ってみないと分からないことだらけだ――ゲームでは『学園都市セレンテイル』出身のキャラが出てきたりするが、実際にどんな学院生活を送っているかは断片的にしか描かれていなかった。


「……先程の、その、手合わせの件ですが。待っていてもいいのでしょうか」

「はい、レイスさんも乗り気だと伝えておきます。それと……できれば、私ともお手合わせしてください」

「ええ、私でよろしければ……暗部の武術は特徴的ですが、そういった敵を相手にした際の訓練になるかと思います」


 レイスさんと約束をしたところで、夕食の時間を告げるベルが聞こえてきた――油断すると一人で食事をしようとするレイスさんだが、今日は一緒に来てもらえるようだった。


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