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幽閉された王女ですが、生きのびるために努力していたら強くなりすぎてました ~レベリング好きゲーマーの異世界転生~  作者: とーわ/朱月十話
三章

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第33話 魔導師の策/渇望

 公邸の会議室から出て、私はフィリス様に連れられて彼女の部屋に向かった。


「アシュリナ様は、あらかじめ先程のような提案をするつもりでいたのか?」


 扉を閉めて二人だけになって、フィリス様はすぐに聞いてきた。怒ってはいないみたいだけど、表情は硬い。


「戦争になるかもしれないというのは分かっていましたけど、今回の場合は敵方……ヴァンデル伯の強引さに流されてはいけないと思いまして。すみません、出過ぎたことを言って」

「い、いや……アシュリナ様は、『黒髪の魔導師』の力をいつでも借りられるのだな」


(……あ、そっちのほう?)


 シリアスな方向に捉えていたので、ちょっと肩透かしをされた気分になる。もちろん真面目な話ではあるんだけど、フィリス様の『黒髪の魔導師』に対する感情は、同一人物の私からすると落ち着かないものがあった。


「あの人は流浪の人みたいなものですが、その……何というか、困った人を放っておけないところがあるというか。ですから、私じゃなくても縁があれば助けると思います」


 それは私のことではなく、先生に対する印象だ。お人好しと言うと怒られそうなので、義侠心のある人と言うか――それはそれで嫌そうにする顔が思い浮かぶ。


「助けるといっても、敵国の一軍に対して先制攻撃を仕掛けるというのは……かの人物なら可能なのかもしれないが、甘えすぎているようにも思う……」

「先制攻撃って言っても、一人で大軍を正面から相手したりはしませんよ。ちゃんと策を使いますから」

「……アシュリナ様も、『黒髪の魔導師』が使う策というのが頭にあるということか?」


(ちょちょっ……フィリス様がすごく鋭い。彼女が才媛なのは分かっているんだけど……)


 迂闊なことを言ったら、フィリス様に訝しまれてしまう――話の流れに合わせるしかない。


「いえ、あの人ならそういうことを考えるかもしれないな、というくらいで……でも、実際に戦地を見てみないと、何とも言えないと思います」

「そうだな……戦場の地図や斥候の得た情報など、提供できればいいのだが」

「あ……それは私にも見せておいてもらえると助かります。私はその、黒髪の方への伝達役なので」

「……では、アシュリナ様に頼むとしよう」


(っ……フィリス様の目が輝いてる)


 『黒髪の魔導師』がフィリス様にとって憧憬の対象になってしまっている。でも私はやっぱり正体は明かせない――『黒髪の魔導師』として動いている分だけ、私の存在が目立ちすぎずに済んでいるのだから。


「だ、だが。もし可能であれば、かの人物が来るときには私も……」

「す、すみません……『黒髪』さんは実はシャイなところがあるので、また機会を改めて挨拶するように……いえ、した方が良いですと伝えておきます」

「やはり、アシュリナ様は友人ということでいいのか……そこまで『黒髪の魔導師』を理解しているとは」


 こんなことを言ったら、変身した姿でフィリス様と話すのは避けられなくなってしまう――そうなってもなんとか乗り切れるだろうか。


「……それにしても、アシュリナ様の変装は存外に似合っているな」

「はぇ? あっ、そ、そうだったら良かったです」


 白い髪を隠すために帽子を被り、眼鏡を用意してもらった。布で口元を覆うまですると怪しくなってしまうので、軽めの変装に留まっている。


「私も同じ細工師の作った眼鏡を使っているが、アシュリナ様には私よりよく似合う」

「あはは……そんなふうに褒められたら、ずっと着けていたくなっちゃいますよ。単純ですから」

「……単純なものか。私の方が年上なのに、アシュリナ様を見ていると自分が子供だということがよくわかる」

「そんなことないですよ。フィリス様は軍人の人たちを前にしても、物怖じせずに意見を言っていらっしゃいましたし……素敵だなって思いました」

「っ……」


 フィリス様が胸を押さえている――もしかして動悸か、それとも息切れか。


「……私はこれから慣れていければいいが、アシュリナ様は、その……そう無邪気に人を褒めるのは控えた方が良い」

「えっ……でも、本当に格好いいと思ったので。私もフィリス様みたいになりたいと……ああっ、フィリス様っ!?」


 立ち(くら)みを起こしてしまったのか、ふらりと倒れそうになるフィリス様を支える。一生懸命鍛えておいてよかった――自分より背丈のあるフィリス様を、片腕で抱きとめられている。


「……同性でこれでは、先が思いやられる。エリックなどひとたまりもない」

「エリック様がいかがなさいましたか?」

「何でもない……このまま下ろしてくれると有り難い」


 私はお姫様抱っこでフィリス様を運んでいき、ベッドに寝かせた。そこで一体何をしているのだろう、と今さらに可笑しくなって、きっと同じ気持ちだろうフィリス様と笑い合った。


   ◆◇◆


 グラスベルとフォルラントの国境は、ベルチェ村方面の他に、そこから山岳地帯を隔てて北西に位置する平野部がある。


 かつて都市同盟とフォルラントの軍が睨みあった場所に、国境を見張る砦が二つ作られている。一方にはグラスベル軍が、もう一方にはヴァンデル伯軍が駐屯していた。


 ヴァンデル伯ジャルドはその砦の内側に陣営を敷いていた。大将であるジャルドの幕舎に、側近の男が入ってくる。


「閣下、魔法兵部隊の配置が完了しました」

「リュエン、お前が言った通りなら明日には風向きが変わるはずだな」

「……はい。『鏡』はそう示しています」


 ジャルドの義子であるリュエンは異例の若さで側近となったが、その理由は彼の扱う神器にあった。


 国王は貴族に対する褒賞として、使い手のいなくなった神器を与えることがある。リュエンの言う『鏡』はその一つであり、ジャルドや他の人間が扱えなかったものが、リュエンにだけは反応して能力を発動させた。


「まずは火刑でグラスベルの砦を落とし、それを開戦の狼煙とする。やはり怖気づいたのか、グラスベル軍は国境から離れた位置に陣営を敷いているのみだ。それが愚策となぜ気づかぬのか」


 ジャルドは笑う――リュエンは命令を遂行するべく、幕舎を出て行こうとする。


 そこでリュエンは、駆け寄ってきた伝令の耳打ちを受ける。そして、ジャルドにその旨を伝えるべく幕舎に戻った。


「閣下に申し上げます。我が軍の陣営の後方に、騎兵の一団が現れました」

「っ……中央が聞きつけたか。小賢しい……漁夫の利でも得ようというのか」

「王族のお一人が率いる部隊とのことです。ヴァンデル伯の武勇がいかなるものか見定めると……」

「ならば存分に見せてやろう。グラスベルを手に入れた暁には、領地分割の交渉には応じなくもない」


 ジャルドの言葉は、神器を代価として求めていることを暗に示していた。


 彼が自分に適合する神器を手にすれば何が起こるか――それを想像したリュエンは拳を強く握りしめる。


「明日で全ては終わる。リュエン、お前が功を立てたなら正式に息子として周囲に認めさせてもいい。優秀な人間には相応の地位が必要だ……はははははっ……!」

「……失礼します、閣下」


 すでに勝利を確信し、哄笑するジャルドを残してリュエンは幕舎を出る。


 明日になれば、リュエンは命令を遂行する以外にはない。風向きが変われば炎はグラスベルの砦だけではなく、周囲に広がる平野を焼き、戦が始まる。


 首につけられた鉄の輪に触れ、リュエンはそれがもたらす恐怖を思い返す。逃れる術はなく、ジャルドの命令に従う以外の選択はない――それでも、願わずにはいられなかった。


(誰でもいい……どうか時間を止めてくれ。多くの人が死んでいく前に)

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アース・スターノベル様から1月15日に書籍版第1巻が発売になります。
イラストを担当していただくのは「りっくす」先生です!
i1082262/
現在コミカライズ企画も進行中となります!
書籍版も何卒チェックをよろしくお願いいたします!
― 新着の感想 ―
いつも楽しく読ませていただいております。    エピソード34にて、「まずは火刑」とのセリフが有りますが、これは「火計」の誤字でしょうか?    初感想がこんなんで失礼しました。  どうしても気になっ…
>立ち眩を起こしてしまったのか、ふらりと倒れそうになるフィリス様を支える。 中身が精神的に男なのと、家族が美形だらけだったせいで自分の容姿に頓着していないって所かな 理由付けとして良いと思う 問題は彼…
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