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第9話 黒煙/初戦闘

 古城の付近にあるべルチェ村では、守備隊の号令で住民の退避を始めていた。


 村の見張り台に火がかけられた。突然の敵襲に混乱する守備兵たちを嘲笑うように、立ち昇る黒煙を眺める者たちがいる。


 村外れの森に潜む、黒い革鎧で武装した男たち。彼らはゼフェンが率いる王国兵たちだった。


 縄で木に繋がれている彼らの乗馬は、王国側の馬ではなく――国境の向こう側の馬。中立地帯の騎兵が用いる馬だった。


「聞いていたより早く動くことになりましたね、ゼフェン殿」

「方針が変わった。お前たちも覚悟はできているな」

「ずっとこの時を待っていました。俺たちを辺境に追いやった連中を許しはしない。これは当然の報いなんだ」


 彼らの中にレイスの姿はない。ゼフェンは古城の方向に目を向けると、何でもないことのように言った。


「王女を連れ出せ。レイスも見つけ次第確保しろ」

「抵抗された場合はどうします?」


 ゼフェンはその問いかけに答えず、ただ口の端を吊り上げるのみだった。兵士二人はその目に喜色をにじませ、馬に跨って古城に向かう。


「さあ、罪のない連中の怒りを受けるとしようか。ああ、とても気が重くて嫌になる」


 ゼフェンの芝居がかった台詞に、他の兵士たちが笑う――しかし。


 ――古城に向かった兵たちの悲鳴が聞こえてくると、その笑顔は引きつり、目は見開かれる。


「……あれは何だ?」

「も、森の中に敵が……いや、そんなことは……」

「それじゃ、まるで計画が漏れているようじゃないか。そんなことがあるわけがない。なあ、お前たち」


 ゼフェンは兵たちを一人ずつ睥睨していく。その仕草は道化じみていたが、全員が威圧されて動けなくなっている。


「村が燃えたあと、王女は悲しくも異国の民に殺された。そうでなくちゃならない。俺は何か変なことを言ってるか?」


 ゼフェンの言葉に竦みながらも、二人の兵が悲鳴が聞こえた方向に馬を走らせる。それを見送るゼフェンは、佩剣(はいけん)の柄を握る手にあらん限りの力を込め、砕けんばかりに歯軋りをしていた。


「ようやく今日という日が来たんだ……殺してやるぞ、『白耀の王女』」


   ◆◇◆


 村に何が起きているのか。それを調べようとしていた私は、森の中を突っ切って猛然と近づいてくる気配を感じた。


 修行の成果はいくつもあって、そのうちの一つは感覚が鋭敏になったこと。もう一つは、敵と味方の放つ気配を見分けられるようになったこと。


 あんなに殺気を振りまいて向かってくるものなんて、倒さないといけない敵に決まっている。


 木刀を構えて魔力を込める。そして、突進してくる相手を止めるために私が選んだ方法は――道を塞ぐこと。


「――はぁっ!」


 気合いとともに魔力を込めた木刀を振り抜く。数秒の間を置いて周囲の木の幹にまっすぐな線が走り――倒れてきて、即席のバリケードができる。


「うぉぉっ……!?」

「な、なんだっ……!!」


 二頭の馬が(いなな)いて、乗っている人たちが慌てて飛び降りる。


「――ごきげんよう」

「「っ……!?」」


 かける言葉は何でも良かった。ただ、彼らが閉じ込めていた私は健在であると言いたかっただけ――顔が見えない兜を被って、いつもと違う鎧を着ていたって、彼らが牢番の兵士たちだというのは分かっていた。


「村の子供か……悪戯が過ぎっ」


 言い終える前に木刀で突きを入れる――顔を覆う兜のあごの部分に。


 あまりにも隙だらけで、どこにでも攻撃できてしまうように見える。慢心はよくないといっても、相手の動きが読めてしまうのだ。


「き、貴様……がっ……!」


 もう一人が剣を抜いて構えようとしたときに、先を取って小手を打つ。続けて剣を木刀の先で叩いて跳ね上げ、くるくると回転して飛んできたところをキャッチする。


「先生に刃の傷がつかないように、鉄の剣を使うのもいいですね。ちょっと手入れが足りてないみたいですが」

「――うがぁぁぁっ!!」


 子供と見て力で抑えつけようとしてくる――でも、足元がお留守なのでどうにもならない。


「ぬぁぁっ……!!」


 突進をくぐって足元をすくうと、兵士は前のめりに突っ込んでいって正面から木にぶつかる。


「チュー」

「リク、どうだった? ……私は不完全燃焼だけど」


 分かったことは、現世での初戦闘でも全く緊張しなかったということ――そして、学んできたことは全て通用するということ。


 いちおう顔を隠すために布を巻いていたが、正体はばれずに済んだようだ。簡素な囚人服とぼろぼろのサンダルですぐばれると思ったけれど――その時はその時で、記憶をなくしてもらうだけだが。


(模擬戦で戦ったリクの方が全然強いから、もう一回手合わせしたいな)


 そんなことを考えているうちに、さらに第二波がやってくる気配がする――この兵士たちの悲鳴が聞こえてしまったようだ。


(じゃあ、次の目標は……倒されたことにも気づかないでもらうとか)


 村の人たちに被害を出さないためにも、次の兵たちを倒したら首魁を探す――きっと、ゼフェンが近くにいる。そこに行けばレイスさんにも会えるはずだ。


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― 新着の感想 ―
何の事無い奴ら、最初から他国の者の襲撃に見せかけ殺す気満々か。
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