続、とある"会計責任者"の嘆き(または愚痴)
短編(今回は、空白改行込みで三千字以内)を書いてみました。
今回は本編"春と夏の狭間"最終盤(章の最後)の裏側で起きた"小さな出来事"を執筆してみました。
手短な上に、駄文雑文の類とは思いますが、読んで頂けましたならば幸いに存じます。
(なお余談ですが、今回の総執筆時間は推定4時間くらいでした……)
六月某日
私こと"増束はかり(仮名)"は、またしても帝の呼び出しを受け、宮中に参内した。
前に来た時は、あのバカ娘……東雲いづるがしでかした物的損害に関する物であった。
あの後、事務方として"ヤマト国有鉄道"の九州地区支社と意見交換を兼ねて損害確認と補償に関する打ち合わせを行ったが、実にお腹(主に胃)が痛くなる物であった。
幸いながら、物的損害は客車一両の屋根の一部損壊だった事から、こちらは損害賠償を行うだけでよかった。
これで修理まで手伝えとか言われようものなら、その日の内に佐世保に赴き、あのバカ娘に怒鳴り散らす事だっただろう。
それから暫く、何事もなく平穏であったが、この日再び帝の口からバカ娘の名前が出てくることになるとは。
嫌な予感はしてなかったわけではない。だが、こういう時の私の勘はよく当たる。
出来れば当たって欲しくない勘ではあったが……
『帝。臣、増束はかり、お召しにより参上仕りました。
本日もご機嫌麗しゅうございます。』
こう、いつもの拝謁をするのであるが、今日の帝は何やら少し雰囲気が違っていた。
この後語られた話にバカ娘の名前が出ては来るのであるが、同時に厄介な問題まで聞くことになる……
「うむ、此度も参内、大儀である。さて、さっそくなのだが……」
「…………」
「……聞いて聞いて、はかり〜。少々面倒な事が烏帽子で起きたみたいなのよ〜。」
「帝っ!? またしてもいきなり砕けないでください! 今日も人払いしてあるとはいえ……って、面倒な事?
もしや、また東雲の奴が何かしでかしたのですか?!」
「う〜ん。確かにいづるちゃんも関わっている事なんだけど、烏帽子の学び舎に善からぬ妖が現れて、守衛団が交戦したみたいなのよね。」
「守衛団が交戦!? それは、何時の事ですか?」
「うーんとね、確か一昨日くらいかな?
こっちに来ていた"烏帽子学院"の生徒会長から報告があったのよ。」
「生徒会長? ああ、あの小娘でしたか。確か……"武田"という。」
「そう、武田ちゃんね。彼女から聞かされたのよ。まあ、彼女も会長代理に任命していた副会長から報告を受けたんだけど、その話の中で"護国の鬼姫"って言葉が出てきたから、いづるちゃんも関わっていると思ったの。」
「何と……。して、奴は如何に関与したのですか?」
「え〜っとね、守衛団や一部民間人の加勢でも止められなかった妖を……あ、結構大きな妖だったって聞いたわね。
その妖をいづるちゃんがボッコボコにした挙げ句、空の彼方に打ち上げたんですって。」
……その話を聞いて。いや、聞かされた訳だが、この時の帝の我が事みたいな喋り方は、絶対に他人には聞かれたくないものだ。
ほぼ、確実に権威とか威厳が崩壊する。
だが、その話を聞いて気になるのは、なぜ烏帽子に斯様な妖が現れたのか?という事だ。
あの地は、帝が自身の土地とした際に、特に退穢の術を施していたはずなのだが……
いや、それをもってしても、全く妖が出ないという訳ではなかったという話を聞く。
しかし、帝の話。そして報告した武田という小娘の話をみるに、何か引き金になった事があったという事か?
もし、そうだとすると、考えられるのはやはり……
『しっかし〜、いづるちゃんが関わるほどとなると、妖の狙いは"みーちゃん"なんでしょうね。
あの娘、何かと狙われている節があるみたいだし。』
……私が言うよりも早く、帝の言葉として答えが出てしまった。
確かに"みーちゃん"、つまりあの"御媛"が狙われたと見るべきなのだろう。
そして、あのバカ娘が横槍を入れて刺客と言える妖を撃退したというのが、真相と言ったところか。
しかし、私がこう考えている時、帝は更に『そういえば、報告の中で一部民間人に関しても報告があったのだけど、もろもろちゃん……あ、今は近島ちゃんね。
その娘さんや、アメリカからの留学生も参戦したらしいのよね。』という言葉に、私は思わず驚く。
"もろもろ"ちゃん。つまり"諸岡"家の娘、バカ娘の学友だった"諸岡かずさ"の事だろう。そのかずさ嬢の娘が加勢した。
そこまでは分かるが、アメリカからの留学生も加勢したというのは実にまずいのではないか?
以前、政府の方から話は聞いていたが、留学生として来た娘も"超常力"を持っているらしい。
その人物が加勢したとなれば、我が国としてアメリカに借りができてしまった事になってしまう。
かつての敵国に変な借りができたとあっては、後々問題にもなりかねないのだが。
そう考え、この事を言上しようと口を開き掛けた時、帝の口から更にややこしい話が出てきてしまったのは、この時だった……
『あとね〜、正体不明なんだけど、軽装の武者姿の人物もいたらしいわ。
以前から度々目撃はされていたらしいのだけど、今回の件で少なくても敵じゃない事が分かったのは幸いなのかも?』
……正体不明!? 軽装武者姿の人物!? な、何なんだ、それは?
烏帽子学院の守衛団は、そのような輩の助けまで借りねばならぬ程弱体化しているのか?
ってか、本当に何者なの?それ。
そのように頭の中がいっぱいいっぱいになりつつあった私の脳量が、一気に過積載状態になってしまう話を、帝が口に出したのはこの時だった……
『あ~、そうだ。最後なんだけどはかり〜、いづるちゃんが大きな妖を懲らしめた時に"烏帽子岳山頂公園"付近がボコボコになったらしいから、そこの修復と再整備に掛かる修繕費を"主計督"権限で出しておいてね。』
そう語りながらニッコリ笑顔で頼んでくる帝を見て、私の頭は真っ白になっていた。
そこから先の事は全く覚えていないが、あとから聞いた部下達の発言などから、何かしらの指示を私が出した事は確かなようだ。
……おのれ、あのバカ娘。客車一両ならばともかく、よりにもよって帝の土地で何やってるんだ?!
いくら妖を滅するためとは言え、やり過ぎにも程があるだろう!
そういえば、一昨日くらい前に妙な力の迸りを西の方角から感じたが、やはり貴様の仕業だったかぁ〜!!
い、いかん、あれやこれや考えていたら胃、胃の調子が……
とりあえず、胃薬を飲んだらサッサと寝よう。そして忘れよう。できれば永遠に!!
増束はかり。帝直属の部下にして、主計督という重職に身を置く人物は、今日も今日とて、東雲いづるというバカ娘に"遠隔"で翻弄されるのであった。
そして、今日も彼女は愚痴る(または叫ぶ)……
ー ま た お 前 の 仕 業 か 東 雲 ぇ !! ー
……と。
ー おわり(つづく?) ー