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孤独の糸

作者: 紫乃 煙

彼は、人が嫌いだった。喧騒、無関心、偽りの笑顔。それら全てが彼にとっては耐えがたいものであり、避けたいものだった。それでも、彼は一つの真理を知っていた。孤独は人を蝕むということだ。


日々の生活は単調で、家と職場を行き来するだけの無味乾燥な日々。人と最低限のやり取りをし、必要以上の会話を避ける。それが彼の生き方だった。けれど、時折、夜の静寂に包まれたベッドの上で、心の底から渇望するものがあった。


人との繋がり。


彼は自分の心の奥底にあるこの矛盾に気づいていた。人間関係が嫌いでありながら、孤独を恐れる。まるで針と糸で自らの心を縫い付け、繋がりたいと願っているのに、その糸を引きちぎるような感覚。彼の心は常にそれらの相反する感情に引き裂かれていた。


ある日、彼は一つの奇妙なサイトに出会った。そこは匿名で人々が感情や思いを吐き出し、互いに言葉を交わすことができる場所だった。「顔を知らない相手なら、負担にならない」と彼は思い、気軽にコメントを残し始めた。


最初は短い言葉だけだった。「今日の天気は嫌だ」「仕事が疲れる」「何もかもがどうでもいい」。そんな無意味な言葉の羅列。しかし、次第に彼の言葉に対して反応が返ってくることが増えた。


「わかるよ、その気持ち」「私も同じだ」「孤独って、辛いよね」


その言葉たちが、彼の心に小さな灯火をともした。顔も知らない、名前も知らない相手たち。でも、その相手たちとだけは、自分の本当の感情をさらけ出せる気がした。そして、彼もまた、少しずつ他者に対して応じるようになった。「あなたも同じなんだね」「一緒に耐えよう」…。


日々、彼はそのサイトにログインし、まるで毒を吐くように感情をぶちまける。憎しみ、苛立ち、絶望。そして、ほんのわずかな希望。それに応える人々も同様に、自らの心の痛みを分かち合うように寄り添ってくる。


だが、ある時、彼の言葉に対して誰も返事をしなくなった。まるで、彼がついに誰からも見捨てられたかのように。サイトにアクセスするたび、虚無が彼を包み込む。それでも彼は諦めきれず、毎日画面を見つめ続けた。


そして、ある晩、彼は気づいてしまった。自分がすべてを求めすぎたのだと。人との繋がりを渇望しすぎて、相手をただの感情の捌け口として使ってしまっていたことに。


だが、もう遅かった。


孤独感が、再び彼を取り囲んだ。しかし今度は以前よりも深く、重く。


人を嫌いながらも人に繋がりたい。その矛盾の中で、彼は再び一人になった。

読んでいただきありがとうございます

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