二話//新生5
「他の死駆罰孔を取り込み食らう、仮称『暴食』の情報はマジカリの報告機能で周知したニャ。そう遠くないうちに要討伐危険指定……賞金首として、マジカリの討伐ミッションリストに載ると思うニャン」
廃工場内、アキラの拠点の奥まった場所にあるスペースでは、上半身だけを起こしベッドから報告を聞くアキラと、その近くで椅子の背もたれを抱えるように座るヒジリの姿がある。ヒジリの端末を肉球で器用に操作しながら話すカスパルは、同じく部屋の中央にあるテーブル上で端末を覗き込むヴェルクに視線を振った。
「ム……要討伐危険指定の死駆罰孔については、情報を持ち帰っただけでも報酬が出る。また……能面の死駆罰孔についても、どうやら討伐扱いになる、らしい」
「骨折り損のくたびれ儲け……にはならなかったようだミャン、ポイントは事前の取り決め通り五万を支払い、報告報酬と討伐報酬は折半にしようとヴェルクと決めたニャ」
「ム……アキラは納得がいかんようだが、今回、契望者は二人とも危険な戦いに参加し、貢献した。敵を追い払ったのはヒジリだが……アキラもまた、よく戦ったと、思う」
「でも、最初に危険なく依頼を遂行するって約束した手前、途中で気絶してたのはちょっとね~、申し訳なくって」
ベッドの上で身を縮めるアキラに、ヒジリは呆れ半分不思議さ半分で声をあげた。
「一歩間違えたら死ぬような目に遭っておいて、変に謙遜するのは良くないと思うけどな。アキラさんは立派だったよ、俺なんて助けてもらわなきゃジリ貧で負けてたよ」
「いやいや、あんなド派手な魔法ブチかましといて謙遜する方がおかしいから。最後のなんて、余波で炙られるかと思うくらいの規模だったし」
「本当にニャ。結界割られかけて大変だったニャ」
「ムム、攻撃に沿わせて結界を伸ばし、破壊を防いだ……ニャ」
「本当にすいませんでした、加減がわかんなくて……」
猫二匹にため息を吐かれ、ヒジリは素直に頭を下げる。カスパルは伸びをして尻尾を大きく揺らすと、再び端末へ向き直った。
「まあいいニャ、結局あの規模の攻撃でも倒し切れなかったことを鑑みると、危険な相手に全力をぶつけたのは間違いでもなかったように思うミャ。取り込んだ相手を身代わりにする能力……生け贄とでも呼ぶべきそれは、どうも任意の傷につき一個のストックを消費するのではないかとミャーは睨んでるニャ」
「ム……根拠は」
「ヒジリの雷霆斬は暴食を両断した……にも関わらず、相手は即座に能面を取り込めた、後肢一本をアキラに斬り落とされていたのにニャ」
「ムゥ…………蛇、か?」
「恐らくは。頭部を斬って死んだと思っていたけど、蛇は生きていた。そういう能力だったのかも、回復、もしくは弱点移動、何でもいいけど、とにかく生きていたそれを使って傷を肩代わりさせ、山羊頭に両断の傷をさらに肩代わりさせて、奴は能面に跳びこれを取り込んだ」
「なるほどね~、じゃあ逃げたのは、ストックが少なくなったからかしら。とすると、消耗した敵相手ですら戦いを避ける……慎重、あるいは臆病な性格なのかも?」
「だとすると厄介だニャア、しぶとくて賢い、クソみたいな害獣だミャン」
カスパルの言葉を最後に、部屋の中を沈黙が満たす。厄介な怪物の出現に、それぞれが思考を巡らせていた。そんななか、ヒジリはふと顔を上げた。先ほどから微かに何か音が聞こえるのである。耳を澄ませて音の源を探ると、そこには壁掛け時計がカチカチと針を動かしているのが見えた。時刻は十七時の半ばを過ぎ、気づけば夕日が差し込んできている。ヒジリは椅子の背もたれに顎を乗せ、大きく息を吐いた。
「あー、腹減った。考えれば、起きてから何も食べてないんですけど」
「あら……そういえば私もお昼食べてない。どうしましょ、ウチ冷蔵庫はあるけど中身が……」
「ム……酒酒つまみ酒つまみスイーツ酒化粧品」
「ヴェルク!お黙りッ!」
「まぁ……契望者は元成人が多いしニャ」
「アキラさん料理しないタイプ?俺もだわ」
「ウーッ、誤解しないでほしいんだけど、纏め買いをしてるだけなのよ。買い物の度にヴェルクに頼って容姿を誤魔化すのはほら、申し訳ないっていうか、ね?」
「ム……正月には一升瓶をよ「ヴェルク!!」ム……」
「てか子どもの体なのに化粧必要なの?」
「女の子にはいつだって必要よ、無頓着ねえ」
「や、俺は元が男だから」
「えっ……ああ、そうなの!?だから一人称が俺なのね、見た目ロリ過ぎて気づかなかった!」
「ロ…………!?」
真面目な話が終われば、空腹で注意散漫な人間など緩い会話しかしなくなるものである。弛緩した空気が漂い、ヒジリはようやく肩の力が抜けた気がしてほっと息を吐いた。
「んじゃあ、俺何か買ってくるよ。アキラさん何食べたい?そういやカスパルとヴェルクって何食べんの?猫缶?」
「大丈夫、私も外行くわ。戦闘ならともかくご飯食べるだけならヘーキだから」
「ミャーたちは何でも食べられるニャ。まぁでも猫缶は嫌いじゃないのニャ」
「ム……右に同じく」
「ふーん。じゃあまず飯屋かぁ、アキラさんこの辺って何あんの、普段どこで食べてます?」
「えー、普段はチェーンのカレー屋かな?たまにラーメン屋も行くけど、美味しいぶん高いのよね……」
「カレーいいっスね、行きましょ!技士二人……二匹は帰りに猫缶買うからそれでいい?」
「構わんニャ」
「同じく」
「腹減ってるだろうに待たせて悪いな」
会話をしながら全員が連れだって廃工場を出る。西日の差す風景は、紙一重の危険など感じさせないほど、平穏であった。