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二話//新生



 某市某所。正方形のタイルが敷かれた歩道を歩きながら、トートバッグを肩に掛けた少女が、鞄の口から顔を覗かせた猫に話し掛けている。内緒話をするように声を低めたその様は子供が猫と人語で意志疎通が出来ているかのように振る舞うごっこ遊びの様相を呈しており、それを見る者の大半は無関心であるものの、すれ違う大人の内の一部は微笑ましく見守るか、呆れたような顔をするかの二択であった。そのことに羞恥心を刺激されながらも、少女────安久津(あくつ)ヒジリは必要に駆られて鞄の中の相棒、契約遵守技士(リンカーエンジニア)のカスパルと会話を続けるのであった。


 「それで、俺の魔法を使えるようにするためにショック療法を試すって話だけど、具体的には何をするんだ?」


 疑問を口にしながら、ヒジリは鞄を軽く揺すった。


「魔法が使えなきゃ金を稼ぐ手段も無いのに、マジカリで鞄買って、これからすることに他の魔法少女……契望者(マジケーター)だっけ?を巻き込むって言うしさあ」

「何事にも初期投資は必要だニャ。就活だってスーツや履歴書、証明写真なんかでお金を使うミャン?それに、資格の勉強でも教材を買うために金を払うのが当たり前、文句を言うニャ」

「文句って訳じゃなく単純な疑問だよ。それに、何をするのか聞かされずに金だけ使うんじゃあ不安にもなるだろ?」


肩を竦めながら、ヒジリはポケットから携帯端末を取り出す。


 「マジカリの残高は残り八万六千ポイント、ここから協力してくれる契望者への謝礼に五万だろ?残り三万六千、いろいろ厳しくないか?」

「契望者それぞれに与えられる拠点……お前の場合はあのゲームセンター跡地を生活拠点に改装するには全然ポイントが足らんニャ」

「マジカリのポイントで拠点の改装が出来るのはスゲーけど、何をするにも金金、金だなぁ、世知辛い」

「結果を得るには行動とリソースが必要、単純な真理だニャン。支払った分の対価をきっちり得られるようにしてやるから、このカスパルを信じるが良い」

「信じてるから素直に従ってるんだろ。それでも不透明な先行きに不安を感じるのは当たり前じゃないか、そろそろ何をするか話してくれてもいいんじゃないか」

「アォン、一理ある」


 路地を曲がり、ビルの間を抜け、いつしか周囲が住宅すら疎らになり始めた頃、カスパルはようやく重い口を開いた。


 「魔法は契望者の死に際、より正確に言えば死後に契約機構(リンカーシステム)へ語った『望み』あるいは『後悔』に結びついているというのは教えたミャン。お前は死に際して死駆罰孔(アポトーシス)に感情を半端に食われ、その分の記憶が欠損しているから魔法を発現出来ないというのも、事前に教えた通りニャ」

「ああ。だからショック療法のような手段で記憶を呼び戻す必要がある……んだよな?」

「ウム」


 やがて二人は道路ではなく、コンクリートで固められた敷地に足を踏み入れる。そこは塀に囲まれた広い敷地に用途不明の金属や何らかの部品が積まれ、やや奥まったところに鉄扉を閉ざした建物が鎮座する、所謂(いわゆる)廃工場と呼ばれる場所であった。


 「廃工場……。契望者の拠点って、人が寄りつかなさそうな場所に人避けの魔法が掛けてある建物なんだよな?それってつまり」

「ここもそうだニャ。MSNS、Lyntterで募集掛けたら飛びついてきた金欠かつ頭の軽い契望者が居る拠点だニャン」

「言い過ぎだろ」

「実際そういう後腐れなく金銭で関係を終えられる相手を呼べるように計らったニャ。場合によっては弱い契望者をカモにして上納金を巻き上げるような奴もいるからニャー」

「魔法少女闇属性すぎんか」

「人間そういうもんだニャ、光があれば闇もある、『望み』と『後悔』がお前たちの源泉である以上は」

「ふぅん……」


 気のない返事をしながら、ヒジリは錆びの浮いた鉄扉の前に立って、緩く握った拳でそれをノックした。ゴンゴンと音が響くと、ややあって甘ったるい高音ではぁいと返事が来ると共に、扉がゆっくりと横開きにスライドした。


 「時間ぴったり!貴方たちが見学希望の初心者契望者ちゃんね、さぁさぁ中にどうぞ!」

「はい、失礼します」

「やだ、失礼だなんて固い固い!崩した口調で結構 よ、私貴方の上司でも何でもないんだし」

「じゃあ、そうさせてもらうね」

「んん、まだ固いけどまぁヨシ!」


 工場の中から現れたのは、およそこの場に似つかわしくない美少女であった。デニムシャツとオリーブ色のショートパンツにスニーカー、活動的な雰囲気のショートヘアはキャラメルのようなブラウンであり、色素の薄い榛色の目は笑みの形に細められている。彼女の姿を見てヒジリは今更ながら自分が女児然とした格好でいることを意識し、なんとなくスカートの裾を払うようにして触れながら彼女の後へと続くのであった。



 「それじゃあまずは自己紹介!私、柏原(かしわばら)アキラといいます、契望者歴は二年とちょっと!よろしくね」

「安久津ヒジリです、よろしくお願いします、柏原さん」

「アキラでいいよぉ、そっちの技士ちゃんは?」

「連絡させてもらったカスパルだニャ、今日はこの新人の職場見学をお願いしに来た次第だニャン」

「オケオケ、ヒジリちゃんにカスパルちゃんね!ささ、座って、お茶淹れてくるね~」


 廃工場内部は外観から想像もつかない程に改装がなされている。レンガの敷かれた床に無数の観葉植物が並び、高い位置にある窓からは以外なくらい太陽光が差して、室内は非常に明るく照らされていた。緑のカーテンで遮られた小道にアキラが消えていくのを見送りながら、ヒジリは拓けた場所にある白いテーブルに掛け、彼の膝の上に飛び乗ったかと思えばテーブルへ悠々と移ったカスパルへ小声で話しかけた。


 「なあおい、職場見学って」

「文字通りニャ、死駆罰孔を倒す所を見せてもらうミャー」

「ショック療法ってそういうこと?自分の死因を間近で直視して、強い衝撃で記憶を取り戻そう的な」

「それに加えて、実際に戦闘の流れを見ておおよそのやるべきことや死駆罰孔の脅威度を感覚的に覚えてもらうニャ。後、魔法って物がどういう物かもよく見ておくニャン」

「なるほど、職場見学だな」


 納得した様子のヒジリにカスパルは得意気な顔で髭を揺らした。この猫は自信に見合う能力があるのだと、ヒジリは感心しながら、椅子へ深く座り直す。そこへアキラが銀盆に乗ったティーセットと共に現れ、その後に続くように毛足の長い白猫が姿を見せる。どうやらアキラの契約遵守技士のようであった。


 「お茶が入りましたよ~っと、そうだ、ヴェルク貴方自己紹介したら?」

「ム……ヴェルク、アキラの技士だ、よろしく」

「簡潔ねぇ。寡黙だけど悪い猫じゃないから、どうか許してあげてね」

「いやいやとんでもない、お気になさらず」

「もう、だから固いってば!貴方体育会系?こっちも報酬を貰うのだから、私たちって対等なの。敬語無しでいきましょう」

「それは……わかった、そうする」

「グッドよ~」


 話しながら手慣れた様子で二人分のティーカップへ中身を注ぐと、アキラは技士たちの前へ陶器の深皿へ入った水を出し、盆を置いて椅子に座る。そしてティーカップを持ち上げ香りを嗅ぐと、音も無く一口中身を飲んで笑った。


 「苦い!私、ストレートはダメだわ」

「ええ……砂糖は?」

「内装にポイントを使いすぎて、全然お金無いの!お砂糖切らしてるわ!」


 今までの泰然自若とした態度はどこへやら、あっけらかんと笑うアキラに、ヒジリは事前にカスパルから聞いていた人物像を思い出し、半笑いになりそうなのを堪える。どうやらこの取引きはヒジリが思っているよりもイーブンなもののようであった。


 「ム……アキラは、万事この調子だ。不手際があるだろうが、よろしく頼む」

「ちょっとヴェルク、私だってお客様を守るくらいは出来るわよ!」

「ム……君は、即断即決が過ぎる。用心することだ」

「はいはい分かってる分かってる!それじゃあヒジリちゃんカスパルちゃん、具体的な話に入りましょうか」


 ヒジリが出されたお茶に口をつける間、目の前では不器用な父親と娘のような会話がなされている。ヒジリはお茶の香りを楽しみながら、特別苦いわけでもないそれを啜りつつカスパルに目配せをし、カップを置いた。


 「発案者のカスパルから聞いているかも知れないけど、改めて俺から伝えておくね。まず、俺は魔法が使えない。その解決のためにどうやら死駆罰孔へ接近する必要があるってことで、今回その護衛を頼むべくここへ来た……ってのは、もう聞いてる?」

「ええ、事前に聞いてるわ。大丈夫、これでも二年やってきてるから、人一人守りながら戦うなんて朝飯前よ~、危険なく依頼を遂行するって約束するわ」

「それはありがたい、何分初めてのことだらけだから、経験者の助力があるのは本当に助かるよ」

「お姉さんに任せなさい!」


 アキラは自信ありげに胸を張ると、次いで端末を取り出し、その場の全員に見えるようテーブルへ置いた。


 「これを見て!直近の事件をWindCatに入力したら引っ掛かったんだけど、山林で遺体が発見された件、どうやら死駆罰孔の仕業らしいの」

「ム……急斜面での滑落事故、しかし遺体に汚れが薄く、死因は全身打撲からのショック死」

「フムン、一見して分かる矛盾、しかし志望推定時刻や近隣での監視カメラ映像、着衣の指紋の数などから、他殺の線は薄い……典型的なこっち案件(・・・・・)だニャ」

「へぇー……本当だ、WindCatに『確率98%』って出てる」


 端末を覗き込む全員の顔を見ながら、アキラはピンと指を立てる。


「まずはコレの調査に行くわ、そこで死駆罰孔の痕跡を辿って、遭遇した場合はこれを撃破、遭遇出来なかった場合は一週間を見て調査を継続しましょう」

「一週間、ってのは何かある数字なの?」

「地域に狩場を固定しない相手の場合、あまり遠くまで追っても決局遭遇出来ないことの方が多いからね。なら、仮のリミットを定めてその範囲を過ぎたらターゲットを変える方が効率的よ~」

「そうなんだ、勉強になるよ」

「そーお?エヘヘ」

「ム……教えた内容を、そのまま横流し」

「うっさいわよヴェルク!」


 グリグリとヴェルクの頭を撫でながら、アキラは端末を仕舞って立ち上がる。そしてヒジリとカスパルを見下ろすと、笑いながら口を開いた。


「やることは単純よ、すぐに実行に移しましょう!」



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