エピローグ//払暁
ビルの上から見下ろす景色は実に騒がしい様相を呈している。瓦礫を撤去する作業車がひっきりなしに現場を出入りし、物々しい装備を身につけた関係者が慎重にどこを崩すか、どこから片付けるかを話し合っている。ここは廃病院跡地────払暁の征伐団が壊滅し、暴食によって粉々に破壊された戦場跡であった。
────あれから。ボロボロの体を引き摺って、生き残った魔法少女たちは逃走した。激戦によって傷ついた体を癒せる場所に移したかったのもあるが、なにより、グリッターシャインの過剰威力砲撃によって結界が壊れ、嵐が去った後のような壊れ方をした廃病院が世間に晒されてしまったことが主な理由である。
「逃げるったって、瓦礫の下の死体なんかは、」
「フン、多少は可愛いアンタに可愛くない事実を教えてアゲル。契望者はね、死んだら跡形も残らない。わかるかしら、そういうふうになってるのよ」
「正しくは契約不履行によるペナルティ、らしいけどようわからんわ。まぁ帰って自分の相棒に聞きぃや」
去っていく一時の戦友を見送ってから、変身を解除した安久津ヒジリは一度だけ、瓦礫の山を振り返った。そこには破壊の痕跡だけが残り、人の紡いだ生活の名残や想いなどは何も残されていない。結局強い望みを持とうが、自らを生かすことを忘れてしまった者は、他者を害する災難に立ち向かうことすら出来ないのか────意思だけではどうにもならないこともあるのだと、ヒジリは端末を握り込む。
(でも、努力や生存欲求のトリガーになるのは、やっぱり前を向く意思……なのかもな)
あのとき、仲間の背に光を感じたあの感性が生んだ意思こそが、自死へと誘う無意識の声を退けることが出来た要因であったとヒジリは振り返る。死に憧れ、安らかなそれを希求し、痛みや苦しみよって現実の死を知り────生への渇望を得た。こうして生まれた小さな自我が己を生かしたのだと、彼女は考えた。その点だけが、払暁の征伐団に属する多くの契望者と自分との違いであったのだと。
「いつまでボーっとしてるの?帰りましょ」
「ミューたんお腹ペコかもですぅ~」
「……うん、行こうか」
仲間の声が、ヒジリの意識を現実に引き戻す。朝の冷たい空気に頬を染めながら、彼女は瓦礫へ背を向けた────。
そして今。ビルの上から眼下を見やり、ヒジリは隣の相棒へ声をかけた。
「なあ、カスパル。お前って死駆罰孔なの?」
「いきなりだニャ。まあ概ねそうである、としか回答できニャいが」
落下防止の鉄柵へ体を預けながら、ヒジリはチラとカスパルへ目を配る。するとカスパルもヒジリを見ていたようで、二人の視線が重なり、しばし目が合った。
「契約機構は実際のところ、アクセス出来る者の望みを、一定強度であれば無差別に叶えるニャ。契望者然り、死駆罰孔然り、肉体という枷から放たれた意識は、そういった『理』に直に触れる……そのとき、肉体の保護なく自我を保っている者が、己の望みを機構へ入力出来る」
「神社で百億円欲しいって願っても叶わないのは、肉体の枷があるからなのか」
「死んでまで叶える望みじゃニャーわ」
「そりゃそうだ。で?お前らってなんで死駆罰孔なのに契望者に味方すんの」
「それは────」
カスパルは少しいい淀んだ後、ほんの少しだけ、照れ臭そうに口にした。
「────人間は、無意識にこう思ってるから。『誰かを好きになりたい、応援したい、守りたい』って」
「本当に?」
「知らん、知らんニャ!でもまぁ、そういう考え方もあるからこそ、根は同じ無意識でも契約遵守技士は『博愛』から生まれてくる……のかもニャ」
「ほぉーん、へぇーっ」
「なんだニャ、ウザいニャ」
「べっつにィ?なんとなくさァー?」
「あーウザ、はっきり言えニャ」
ヒジリは視線を空に向け、風を浴びながら僅かに笑った。
「人間って、それでいいんだって思ったんだ。それだけだよ」
・TS魔法少女グリッターシャイン! 一章 了




