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六話//ヘブン4



 臆病な者が戦いの場から逃げ出さないとき、それは往々にして彼の者が安全圏にいると確信しているときか、もしくは、絶対的に相手よりも優位にあると考えているときである。例えば、強力な防御手段を有している場合、例えば────


 「何、この風……変な流れが────あ、マズッ」


 ────甚大な規模の破壊を及ぼす、攻撃手段がある場合。ゴウゴウと音をたてて流入した空気が圧力を伴う不可視の砲弾として放たれ、それは着弾を待たず破裂(・・)した。爆圧によって瓦礫がめくれあがり、一定の硬度を持つ物体が人体を貫く弾丸と化して吹き荒れる。それはまさしくつい先刻に起きた破壊の再現。即ち、廃病院を倒壊させた不意打ちに用いられた必殺の一撃である。只人はおろか契望者すら葬る大破壊の空気砲は、死体すら吹き飛ばして戦場を更地に変えた。そうして障害物が消え、巨体の怪物に有利なフィールドが出来上がったあたり、暴食はどうやらこの段取りを最初から考えていたらしかった。つまり、この化け物は有象無象を始末した後、最初の爆撃を生き延びた敵をつり出してある程度戦い、二度目の爆撃で地形諸共、敵を消し去りながら……それでも生き残ったしぶとい敵を、有利な場所で駆逐しようとしているのだ。醜悪極まりない、他の知的生命体を嬲ることばかり考えている獣畜生にしては狡猾な思考である。否、むしろそのような畜生であるからこそ考え出せた作戦なのかも知れなかった。


 「UrrrrAa……」


 静かに喉を鳴らしながら、暴食は戦場を見渡した。遠くに瓦礫が積み上がり、円形闘技場(コロッセオ)じみた風景に様変わりしたこの場所で、立っているのは怪物ひとりなのか。果たして────


 「やってらんないわよ、もーッ!!」

「はーホンマ最悪やわ、腐れライオンが」


 ────そこに、人影がある。寄り集まって、魔法で展開された盾の裏に固まる魔法少女たちの姿が、確かにそこにあった。バチバチと音の鳴る電撃の網と、その後ろに渦巻く水渦の盾が怪物の意を拒んでいる。防御魔法を展開した二人が悪態を吐くなか、その更に後ろで負傷者を庇うようにして数名がしゃがみこんでいた。ハクシュウ、ゴシックドレスの契望者、そして気絶から回復したアキラとミント、震えながら頭を抱えているトビオと……折れそうな体を下衣がショートパンツの水兵服(セーラー)に包んだ女が、夕焼け色の目を光らせながら、親友の頭を抱えつつ暴食を睨んでいた。


 「ううっ、ほ、ホントに見逃してくれるんだよな……この場を切り抜けられたら……!」

「許すとか許さないとか、アタシに聞かれてもねー。ま、エリりんに口利きくらいはしたげる。それから先は貴方の態度次第カナー?」

「ひいぃぃッ」

「……都合のいいこと言ってるクズはさておき、本当にアレ、どうにか出来るわけ?」

「起きたらすぐでっかいライオン!ミントビックリなんですけど!」

「どうにかするのはアタシじゃなくて貴方たちかな。散々見せられた(・・・・・)予知夢によると、鍵は七人の契望者、カモ?」

「七人?契望者はもっといますよぉ?はわわっ、ちょっと胡散臭いかもぉ」

「仕方ない仕方ない、能動的に魔法を使うの久しぶりだし、過剰睡眠させられてた頃は魔法で頭パーにされてたし?」

「ミント悪くないモン、悪いのは葉芝のおばさん!」

「悪いお子ちゃまだなーっ、まぁでも許しちゃう」

「ノリ軽いわねー」

「人間、未来(まえ)を見て進むべきだと思うのアタシって」

「……あっあっ、か、会話に入れない…………鬱だ、戦って死のう。いややっぱ殺そう」


 白手袋に包まれた指で制帽を深く被りながら、桃源ユウリは笑う。魔法少女アステルゲイザー、未来を見据える千里眼が目を覚ましたのは、暴食の大破壊攻撃から数分前のことであった。自身の魔法からこの可能性(・・・)を知っていた彼女は、他者を回復させられるアキラを揺り起こし、次々とその場の契望者たちを回収すると、危険を感知し防御を張ったトーガの契望者と、少し遅れて同じく行動を起こした和風の契望者の後ろへと移動した。結果的に、この場で瓦礫から出て行動していた者は誰一人欠けることなく生き残ったのである。


 「起きてるときに使えるのは、ほんの一瞬寝落ちすることでちょこっと未来の可能性を知る魔法だけ。『瞬光星(スターマイン)億年光(ラグビジョン)』は、当たりやすい占いみたいなものね!」

「不安だわ」

「不安ですぅ」

「アタシも不安!もうなんか息切れしてきたし、動悸がスゴいし!頭痛もしてきたカモ!」

「……なんや後ろが騒がしいわ」

「フン、可愛いアタシに万事お任せよ!アンタらは勝手になさい!」

「アホの相手は疲れるわ。ウチは好きにやらせてもらいますよって」

「逃げるの!?」

「んなわけないやろ!!むしろあんたが引っ込んどれや!!」


 すっかり騒がしくなった敵の陣営を()めつけながら、暴食は思考する。敵の数は多く、ストックを減らされた強力な攻撃手段もある。しかし、一方で敵は傷ついた同類を庇っている。そのような敵は広い範囲を巻き込む攻撃を続けていればいずれ共倒れになるのではないか。そして己にはその手段がある、と。棘の散弾、そしてこの体を飛行させる『風を操る能力』も。羽根で飛ぶのではなく羽根自体に付随する能力によって飛ぶこの力は、攻撃にも転用できる。この面制圧が可能な空気の砲弾を続けて放てば、敵は消耗しやがては死ぬだろう。ならば、逃げずにここで殲滅するが良いか────。


 「おっと、風の流れよ!フフン、このアタシの『小夜鳴報(ナイトラジオ)擦過電流(バズアンペア)』は、些細な変化も肌感に電流として感じ取るわ!」

「ただの静電気とちゃうか」

「うるさーい!避けるなり防ぐなりすることねっ!」


 僅かな空気の振動を感じ取り警告を発するトーガの契望者に、周囲の契望者たちも連動して魔法を行使する。本来ならば必要な量の空気を少しずつ集め、その大半を吸気し終えたところで一気に収奪を加速するはずの動きを初動で見切ってしまったからか、暴食は風を集めることを止め、その大半をただの暴風として解き放った。風は高速で吹き荒れ、自在な形質で以って柔らかい圧力をそれぞれに被せてくる。風圧による行動の制限……その中で、暴食の死駆罰孔だけが自在に動き、攻撃をしかけてくる。巨体による移動はそれ自体が質量と速度の乗算による威力を生み、高速で振り下ろされる前肢はさながら破城槌の激突である。全身を凶器と化した突撃に標的とされたのは、当然ながら逃げようの無い状況にある後方に纏まっていた者たちであった。気絶した者と傷ついた者を庇うため、その場で立ち塞がったのはハクシュウとアキラである。


 「合わせて!」

「あい、まむ!」


 巨大な鋏を開き、片刃を地面に突き立て自立させると、レイジーフィーバーとグロウブルームは腰を捻り半回転、回し蹴りを同時に鋏の下部へ叩き込む!


 「「灼火繚乱(ブルームプロフュスリー)火華山彼岸葬(ヴルカノアマリリス)ッ!!」」


 魔法で肉体を活性された両者が、刃に火炎の魔力を流し込まれた鋏を蹴り上げて放つ神速の斬り上げ────爪先から片足を縦に割られ、暴食は堪らず空に逃れた。一挙動で高く跳び上がるとそのまま風を集めて飛行し、棘をばら撒く為に回転の予備動作をとる。が、しかし。


 「飛んだわね~、空に!そこはアタシの領域よォ!」


 古今東西の神話において、天罰の代行たる雷は天より降り注ぐのが常識である。つまるところ雷撃を放つ魔法少女に対して、空は逃れ得る場所とはならない。


 「雷鳴轟響(サンダーセレブリティ)崩山雷刃(カラドボルグ)!」


 真っ直ぐに降り注いだ雷光が敵手の背を焦がしながら貫き、通電した暴食はてんでバラバラに痙攣する手足によってバランスを失い落下する。そこへ待ち構えていたのは、黄金の水流を加速させながら羽衣のように纏った和風の契望者である。


 「荒波海嘯(ワイルドスコール)……海皇三叉連衝(トライデント)!」


 ウォーターカッター、超高圧で射出された水流の刃は、ときに鉱石すら削る威力に化ける。その数────三連!


 「墜ちぃや、バケモンっ!」

「GiiiiAhhhhhh!?」


 背の羽根を断ち、攻守に厄介な能力を奪いながら、凶暴な激流の線撃(ライン)が空を穿つ。天と地の連携によって再び地上へ墜落した暴食は、肩から地面に叩きつけられて血を吐いた。


 「フン、やるわね。アンタ名前は?」

「これ言わなしつこく聞いてくるんやろな……オホン。ま、魔法少女ゴールドリップル、よろしゅう」

「ねえ、なんで魔法少女って名乗るとき照れたの?」

「うっさい!あんたも名乗りぃや!」

「魔法少女サンダークラップ!世界一可愛いから、覚えておいて損は無いわ」

「あっそ……それよか、まだアレ来るで」

「知ってるわ!まぁさっきまでは信じられなかったけど……やっぱり事前の情報通り、残機制みたいね!」

「胴体ぶった斬られて生きとるもんな。目ぇ疑うわ」

「でも、復活する度に弱くなるんじゃ話になんないわよ。サクッと焼いて────幕引きね!」


 高所からの落下によるダメージが重いのか、立ち上がれずにもがく暴食へ、極太の雷撃が迫る。それを追ってうねる水流が追随するのは、残機を切り捨てた直後に敵を葬るためか。強力な魔法により、怪物はなす術なく退治され────────。


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