表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/41

六話//ヘブン1



 激烈な衝撃、轟音、そして耳鳴り。何者かに引き摺り倒された以降のことを覚えていないままに、安久津ヒジリは意識を覚醒させた。ぼんやりとする頭、はっきりとしない視界に突然飛び込んできたのは、銀色の光と、それを支えるように両腕を天に突き立てるような格好のまま仁王立ちしている人間の姿だった。特徴的な衣装をそのままに、足下に人を横たえたまま血を流しているのは誰か。


 「み、ミエリ……?」

「…………あら、お早いお目覚めですこと」


 紙のように白い顔と色の悪い唇のまま、ミエリは細い声で返事をした。頭上の光は弱々しく瞬いており、その上に無数の岩塊────否、瓦礫が積み重なっているのが見える。ミエリ……ムーンウェイブは突然の災害から仲間を守るべく魔法を展開し続けていたのだ。


 「お前、なんで」

「フフ……ユウリを守る、ついでですわ。でも────貴方が言おうとしてくれたことが、嬉しかったからなのかも、なんて」

「くっ……変身を…………!」


 微かに震えが見えはじめたムーンウェイブの様子に焦り、ヒジリはいつの間にか解けていた変身を再度行うべく、自身の周囲をまさぐる。細かな石片や砂に触れるなか、不意に触れた滑らかな感触を引き寄せ、即座に変身を行う。薄暗い空間を吹き飛ばすように変じたグリッターシャインは、光の剣を現出させると周囲の瓦礫を易々と細断した。それを見届けるとムーンウェイブは倒れ、変身が解除される。光剣のほかは遠くで燃える漏電からの出火くらいしか光源の無い場所で、ミエリは親友と折り重なるようにして意識を失っていた。


 「おい、大丈夫かよ!?クッソ、アキラさんは!?ミューたんさんは!?」


 自分の魔法を翳し、周囲を見渡すグリッターシャイン。彼女の近くには彼女が抱えていたトビオが仰向けに倒れており、その少し遠くにミントを抱え込むようにしてアキラが横たわっている。さらにその奥に地面へ膝をついたハクシュウが起き上がろうとしているのが見えた。────どうやら仲間は無事らしい────ホッとしたグリッターシャインが胸を撫で下ろそうとした瞬間、不気味な咆哮が闇夜に木霊する。全身の毛を逆立てるような、恐怖と不快感を煽る捕食者の咆哮……聞き覚えのある(・・・・・・・)それに、グリッターシャインは天を仰いだ。舞う粉塵が星明かりを隠す暗い空の一角から、明らかに眼下の存在を嘲るような目を向けられている。彼女の感覚は何故か鋭敏にそれを感じ取っていた。


 「『暴食』……!」


 ゆっくりと。羽が空を撃つ音と共に────怪物が舞い降りる。獅子の獣面はそのままに、蛇体の尾は変わらずに、白く長大な一対の羽根と、硬質な(とげ)を一直線に背中へ付けた死駆罰孔が瓦礫の山へ降臨した。


 「おいおいおいおい、ふざけんなよ……!」


 絞り出すように吐いた悪態はこの現状────動けない人間を庇いながら埒外の化物と戦わなければならない状況に対して吐き捨てた泣き言である。アキラは当然のこととして、折角助けたユウリも、ついさっき見捨てられなくなるような言葉を吐いたミエリも、守らなければならないという気持ちが彼女にはあった。それに、トビオもミントも、別に死んでほしいわけではない。気絶したまま訳もわからず最期を迎えるなどあってはならないという考えもある、ましてやそれが他者の悪意から来る終焉ならばなおさらである。腹の底へ沈めていた怒りに再度火がつくのを感じながら……グリッターシャインは光の剣を脇構えに携え、確かな靴音と共に横へ並んだ仲間へと問うた。


 「いけるか、ミューたんさん!」

「おけまる!あとあと、さん付けナシでいーよっ」

「おうッ、ミューたん!」


 軽い語り口とは裏腹に、戦意に燃える目をした美雨ハクシュウは、すでにレイジーフィーバーへと変わっている。鉄靴が陽炎を呼ぶ熱気を放つ彼女から視線を戻すと、グリッターシャインは敵手を睨みつけた。すると同時に、彼女の持つ得物から気だるげな声が響く。


 「まったく、オチオチ寝てもいられんニャ」

「カスパル!起きたのか!」

「すまニャいがまだ本調子じゃないニャ。けど、結界を張ることくらいは出来る。存分に戦うニャ……フンッ」


珍しく気勢をあげるカスパルが結界を展開し、余人の入る隙間の無い戦闘空間(バトルフィールド)が展開される。


 「い、今はこれが精一杯だニャ……」

「や、助かった。サンキューカスパル!」

「ウム……」


 返事を残すと黙り込んだカスパルに感謝しつつ、グリッターシャインは得物を振り上げ、天に座す敵を引き摺り下ろさんと振り下ろす。


 「輝光刃(ルミナエッジ)遠導灯(ビーコン)!」


 初動の瞬間、一気に伸長した刃が夜気を斬り払いながら暴食へと迫る。異質な姿の怪物はそれを避け、羽根を折り畳みながらほぼ垂直に夜闇の中を滑り降りてきた。さながら禽獣の狩りが如き突撃に、二人の魔法少女はそれぞれ別方向へ走り回避を試みる。しかし、敵は狡猾にも回避を先読みしていたらしく、空中で羽根広げると急制動しながらその場で回転した。停止により持て余した運動エネルギーを変換した高速のスピンから放たれるのは、背中から生えた棘である。ばらまくように無差別な針の雨に、グリッターシャインは地上へ倒れる仲間を庇うべく魔法を発動させた。


 「く、光束(ルーメン)超照(ハイパーカンデラ)!」


 収束、そして円状の拡散。記憶に新しいムーンウェイブの防御をそのままイメージに流用し、秘紋暗流衝の機能を利用する。彼女はそうして盾、あるいは反射板の魔法を展開した。


 「蛍光反射鏡(フローライトリフレクター)!」


 飛来する棘を弾き飛ばしながらその一部を逆撃に利用する防御魔法は、確かに仲間を守り抜いた。反ってくる棘を躱そうと空を舞う暴食から目を離さずに、グリッターシャインは魔法を消すと懐中電灯を握り直す。


 (マズい……。棘は全部弾き返すつもりだったのに、反発させられたのはほんの一部。何気なく振られた攻撃に、魔法の威力が抗いきれてない!バケモンがっ、こっちより遥かに早く成長してやがる!!)


 経験を積み上げ成長する者と、他者を喰らって取り込む者。成長にかかる時間やコストは遥かに前者の方が重い。いつの間にか大きく水を開けられていたことに冷や汗を流しながら、グリッターシャインは駆け出した。彼我の出力差は歴然、ならばこちらが勝る点はと考え、的の小ささであると思いついた彼女は、素早く動いて敵の周囲を跳び回ることにしたのだ。視線を暴食に固定したまま、瓦礫を利用して複雑な軌道を描くグリッターシャイン。それを追うように暴食は蛇体を大きく振って鞭のように叩きつけようとする。その頭上に────


 「大炎熱狂(ブレイジングフィーバー)擦過烈火墜(シューティングスター)ァ!!」


 ────縦回転の踵落としを放つ、レイジーフィーバー!眉間を鋭く穿つ一撃に、堪らず暴食が頭を揺らす。火炎疾歩で空中へ留まるレイジーフィーバーが更に追撃を加えようとすると、敵は彼女へ牙を突き立てようと首を伸ばした。レイジーフィーバーは空を蹴るように跳ねて宙に逃れ、その隙を埋めるようにグリッターシャインが接近する。無数の光弾を目眩ましに撃ちながら走り、間合いに入った瞬間、光の刃が迸る。片手で握った懐中電灯を袈裟斬りに振るうと、暴食はそれを掬い上げるような軌道の爪で迎撃した。杭のような爪は斬り落とされ、しかし、グリッターシャインの胴よりも太い前脚が生んだ衝撃に彼女は吹き飛ばされる。錐揉み回転する体を制動すべく手足を広げ、空気抵抗を増したグリッターシャインは四肢を振って回転にかかる力を減らす。そうして確保された視界の中で……彼女の目はしっかりと、それ(・・)を認識した。


 「棘……!?」


 こちらに向けて放たれる、高速の棘の弾丸である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ