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五話//セブン11



 潮の満ち引きは引力、寄せては返す波とは其の産物、全ては見えない力によって引き合い、そして出会う。


 『引力』、その別称を『運命』。それが悲劇であろうと喜劇であろうと、逃れることは出来ない定め。


 「チィッ、駒風情が……!」


 『Transformation!』


 「禍福糾縄(ハードドラッグ)毒薬変薬(ハードラック)ッ!」


 変身はほぼ同時、互いに睨み合いながらも、(けん)の姿勢を崩さない両者の戦いは、実に静かに始まった。橘ミエリはベレー帽を被り、軍服調のワンピースを纏った紫を基調にしたカラーリングの姿へ、葉芝ヨシノは黒絹のケープを羽織った黒色の看護士風衣装へと姿を変える。やがてミエリは編み上げブーツの踵をリノリウムの床へ叩きつけ、ヨシノは衣装に似合わぬピンヒールを苛立ちと共に打ち鳴らすと、それが幕開けの合図であるかのように、両者が滑るように動き出した。


 「魔法少女ムーンウェイブ、駆動(ドライブ)!」

「魔法少女ドラッグラック!駆動(ドライブ)!」


 先手を取ったのはヨシノ、ドラッグラックである。黒く染まったメスを吐き出す呼気と共に投じ、それは大気を切り裂いてミエリ────ムーンウェイブに殺到する。ムーンウェイブは右の手の甲に取り付けた盾状の円盤を使いそれを弾くと、一足飛びに距離を詰めて殴りつけるようにそれを振るった。ドラッグラックは敵の拳を蹴り上げ返す一撃で踵を落とすが、ムーンウェイブは弾かれた勢いを利用してクルリと回転し難を逃れ、今度は裏拳じみた一撃を相手に見舞う。ドラッグラックはこれを沈み込んで躱し、跳ね上がるように下から逆手のメスを振り上げる。ムーンウェイブが後ろに跳んでそれを避けると、場が一旦仕切り直しになった。


 「鏡!相変わらずの無粋な使い方。ご自分の卑小な器を見つめ直すのに使ったらいかが?」

「あら、鏡に向かって仰ってるの?なんて正確な自己分析なのかしら、感心致しますわ」

「ハ……桃源ユウリのオマケのカスが、この私に罵倒を?身の程を弁えろよ!」

「そちらこそ、他人の魔法に寄生する害虫風情が一丁前に人間の言葉を発するなッ」

「口を閉じろ!ゴミクズッ!」

「黙れ外道!!」


 トラッシュトークを挟み、両者が再びぶつかり合う。お互いに激昂してはいるものの、その手筋は嫌に冷静であった。ドラッグラックはメスを順手に持ち替え、ムーンウェイブは左手にも盾状の鏡を出現させて接近する。


劇薬(ハードドラッグ)黒唇離別(ブラックリップ)!」

「! 月相(ムーンフェイズ)波紋鏡乱(リップルリフレクト)


 ドラッグラックの持つメスが黒いオーラを纏って伸長し、斬撃を見舞う。対するムーンウェイブは鏡面に銀色の光の波を出現させ、オーラごと弾き飛ばすようにそれを防いだ。何故ならば、ドラッグラックの発する魔法は全て、『毒』の性質を有しているからだ。劇薬・黒唇離別は武器たるメスに毒のオーラを纏わせる付与魔法(エンチャント)であり、これに触れた者は即座にドラッグラックの望む症状を発することになる。魔法には魔法で対抗せんとムーンウェイブが張った防御魔法、月相・波紋鏡乱のように、丸ごと攻撃を散らし、弾くような防ぎ方でない限り、毒は触れた部分から侵食してしまう。ムーンウェイブは蟀谷(こめかみ)から汗を伝わせながら、鏡を腕に固定する革紐を擦った。


 (一撃。一撃でもまともに受ければ敗北は必至。見えていない手札を警戒しながら、見せていない手札を叩きつけなくては!)

(ふぅん。反逆してくるだけあって、素人の頃から随分とマシ(・・)になってはいる。ケド……まだ、私には程遠い!)


 指で器用にメスを回転させながら、ドラッグラックが舌なめずりをする。鎌首をもたげた蛇のような女を前に、ムーンウェイブは緊張を増す。その様子に目敏く気づいたドラッグラックは、馬鹿にするような態度で小首を傾げた。


 「あぁらぁ?大それたことをしでかした割に、覚悟は決まってなかった様子ね、ミエリ。いいのかしら、お仲間と合流して哀れな上司を袋叩きにしなくても」

「……ハッ。仲間?何か勘違いしておられるようですけれど、あれらはわたくしが煽って動かしただけの……貴方風に言うならばただの駒ですわ。実際、貴方と相対することを向こうには伝えておりませんし」

「へぇ。で、それに何の意味があるのかしらね。数の力に頼らないことで、貴方は自分を死地に追い込んでいるのだけれど、自覚ある?」

「意味ならば勿論ありますわ。貴方を確実に始末するまで、貴方の駒になり得る強力な契望者に出てこられては困りますし────なにより」

「何かしら?」

「貴方を。お前を我が手で叩きのめすまで、邪魔をされたくはありませんから!!」

「吠えたな、雑魚が!」


 ニヤついた顔から一変し、鬼相を浮かべるドラッグラックを前に、ムーンウェイブはあえて挑発的な笑みを見せた。


 (まあ、実際はユウリの安全を確保するまで、地下に固まっていてほしいだけなのですけれど。そのために連絡をとらずにいるわけですから、不義理を働いているのは事実。……これも今更の話ですが)


 「月相(ムーンフェイズ)千々輝晶(プリズムカット)

「う…………!」


 指を鳴らすムーンウェイブの仕草と同時に、複数の鏡片が空中、地面を問わずに散らばる。それは室内の僅かな照明を乱反射して集め、ドラッグラックに光を注ぎ、強烈な目潰しに彼女は呻きながら腕でそれを遮ろうとする。予想通りの動きに合わせ、ムーンウェイブは左手の鏡をフリスビーのように投擲し、それを追って走った。ドラッグラックは床を蹴る音に反応し、目を庇ったまま魔法を用いてそれを迎撃せんと口元を歪ませた。


 「舐めるなッ、劇症薬(フルミナント)流感毒沼(マッドパーティー)!」


 ドラッグラックから吹き出るように黒いオーラが迸り、彼女の周囲に毒が滞留する。先に投じた鏡が酸に浸けられたが如く腐食して消滅するのを見ながらなお、ムーンウェイブは勢いを増して突撃した。


 「三月相(フルムーン)────月白鏡(アルテミス)狩矢(ストライク)ッ!!」


 ────構盾突撃(チャージ)!眩いオーラの盾で全身を隠したムーンウェイブが、突進の勢いをそのままに体当たりを敢行する。ドラッグラックの毒を弾き飛ばしながら、ついにはその本体に叩きつけられた光の盾は、本来の機能である『返す波が如き反射』を発動した。ムーンウェイブの運動エネルギーを余すことなく利用してぶつかり、接触に際して発せられた衝撃を反射することで、更なる反発を生む────方向性を定められたエネルギーの奔流は、ドラッグラックを激烈な勢いで吹き飛ばす────!


 「ゴッ、アアアアアアアアッ!?」


 殴打によって詰まった呼吸もそのままに、ドラッグラックは吹き飛び、エントランスの受付カウンターを破壊しながら壁にめり込んだ。コンクリートに猛烈な速度で叩きつけられ、無事でいられる生命などそうは居ない。そのために反射を用いた室内での戦闘を選んだムーンウェイブは、盾に構えた右手を下ろすと荒く息を吐き出した。戦闘の緊張と、長い時間をかけて用意した作戦に臨む緊張……精神的な圧迫はムーンウェイブの体力を運動量以上に奪っている。しかし、それもこれで決着……と、気を抜こうとした彼女の耳に、ガラリと硬質の大きな物が落ちる音が聞こえてきた。反射的に音の方向へ目を向けると、瓦礫の上に立ち上がる影が一人分、見える。


 「……髪が乱れた。爪、欠けた。全身痛いし、ゴホッ、オエッ、ハァ…………」


 俯き、髪で顔を隠したまま、それでも────ドラッグラックが立っている。衣装のあちこちが裂け、己の吐いた血反吐と埃で汚れながらも、まだ、生きている。ムーンウェイブは慄然としながら、再度鏡を構えた。その動きに反応してか、ドラッグラックはゆっくりと顔を上げ、乱れた髪の隙間から、ムーンウェイブを捕捉した。


 「殺す」


 『The Extend!E.G.O!』


 「深王覚醒(エゴ・エクステンド)────」



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