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五話//セブン10



 「アキラさん、ミューたんさん!」

 蛍光灯があってなお薄暗い廊下を駆けるヒジリの前に、見慣れた魔法少女の背中が二人分現れた。どちらも変身しており、ヒジリ────グリッターシャイン同様に一悶着あったらしい。現にグロウブルームの手元には、小さな人影が横たえられているではないか。ヒジリはスピードを緩め合流すると、手短にグロウブルームへと問いかけた。


 「えっと、これは?」

「眠らせただけよ。ここで予知能力者……桃源ユウリの管理を任されていた契望者で、対象を昏倒させる魔法の使い手だったわ」

「えっ、よく勝てたね」

「ちょっとね、相性が良かったのかも。それはさておき彼女、どうする?」

「あー……取っ捕まえてミエリの前に引き立てるってのは?正直、命をどうこうってのはなるべく避けたいのが本音なんだけど」

「そうね、私もそう。ミューちゃんは?」

「ガチのシリアスは可愛くないんで却下でぇす!」

「じゃ、拘束する方向で。開花(ブルーム)熱絡赤糸(パッションレッド)


 グロウブルームが手を翳すと、指に挟んだ種が急速に成長し、蔦状の植物になって井苅ミントへと絡みついた。手足を縛られ、口を覆うように植物に絡まれてなお、彼女は深い眠りに落ちている。戦闘の結果何があったのか───そこまで想いを馳せてから、今はそれどころではないと気を取り直し、グリッターシャインは仲間たちへ声をかけた。


 「ちなみにですけど、桃源ユウリの居場所は?」

「不明ね」

「じゃあ、急いで探しましょ。正直、団体行動がどうとか言ってられないし、手分けで」

「おっけぃ、さっき役にたたなかった分、頑張りまっす!」


 それぞれがおもむろに駆け出し、施設内へと散っていく。秘密施設らしく人の姿が無い空間は、妙に寒々しく静かである。グリッターシャインは何故か急に、パスカルの顔が見たくなった。彼は端末で休眠中だが、いつになったら出てくるのだろうかと考えつつ、宛もなく足を早めていく。そうして幾つかの部屋を当たったものの、この地下施設は本当に使用されているのか疑わしくなる程に、人の姿はおろか最近使用されたであろう物品、書類の(たぐ)いさえ見つからない。どうも施設の管理者は神経質なまでの秘密主義か、あるいは臆病者で、ミニマリストらしい────そこまで考えたところで、グリッターシャインは次に開けようとした扉に手応えがあることに気がついた。


 「鍵……!ビンゴか!」


 懐中電灯を出現させ、瞬時に形成した光剣で鍵を断つと、グリッターシャインは部屋の中へ飛び込んだ。殺風景な部屋にはインテリアは一つも存在せず、中央に置かれたベッドに点滴へ繋がれた、痩せこけた少女が横たわるのみである。そっと近づいてみると、病衣を纏った白髪の少女は、細く長い息をしながら、それでも生きているようであった。


 「ベッドにタグが……『厳重管理:桃源ユウリ・要睡眠状態維持』人間に対する扱いかよ、コレ……」


 物のように扱われる少女は、美術館に安置されるミイラのように静かに横たえられている。あまりに理不尽な拘束に、グリッターシャインは奥歯を噛みしめてから、大きく深呼吸して息を整えなければならなかった。そうしなければ、沸々と沸き上がる怒りが所作にまで現れかねなかったからだ。ゆっくりと息を吐き、心を静めてから、グリッターシャインは手元の懐中電灯を端末へ変化させ、仲間へ連絡を繋いだ。メッセージに即座に既読が付いたのを確認してから、彼女は端末を消してここからの逃亡手段を考えることにした。


 (人を一人、それもやや衰弱気味の人間を抱えて、人目を避けながら森から、もっと言えば病院から脱出しなければならない。この施設の主はそれを許すほど迂闊かはわからないし、さっき倒した契望者も、俺たちが去れば施設の主と連絡をとるかも知れない……アキラさんが倒したさっきの契望者、人質にできないか?いや、下っ端に情けをかける人間が人を物扱いして監禁したりはしないだろう、つまり人質は無意味。じゃあ……どうする?)


 あれこれと悩みながら、グリッターシャインは手早く点滴をユウリから抜き取り、注射痕にはシーツを裂いて押し当てた。


 (易々と布を裂く、変身中の契望者の力と体力なら、お荷物事態は苦にならない。ただ、移動中を追手に襲撃されれば話は別だ。それを避けるには偶然逃亡に気づかれないことを祈るか────こちらの動きに連動して動く、ミエリの手引きが必要になる。つまるところ、またあのいけ好かない女の一挙一動に左右されることになるわけだ。めんどくせェ)


 バタバタと聞こえる足音に仲間の接近を感じ、ヒジリはそっとユウリを抱き上げた。意識を失った人間は脱力状態にあり、起きている人間を抱えるよりも重い……はずなのだが、ユウリは実に軽い手応えで持ち上がる。その事実に、ヒジリはグッと眉根を寄せた。


 (なんにせよ、この人は助ける。こんな理不尽な仕打ちを受ける人間なんて、一人もいない方がいいに決まってる!)


 扉を開けて入ってきた仲間に顔を向け、ヒジリは腕の中身を動作で示して口を開いた。


 「行こう、こんな所、さっさと出ていこうぜ」




 「あんな所、わざわざ夜に出向きたくはないのだけれど……」


 片眉を跳ね上げ、不機嫌さを隠しもせずに葉芝ヨシノはブツブツと独り言を口にしている。今夜は何もかも、彼女の理想から外れていく。平穏で、いつも通りの、己が手腕に支配された小さな王国……廃病院の全てがヨシノの所有物であり、支配下にある。それが彼女の理想であり、そのために必要なものが、暗く不快な森の中の地下施設にあった。井苅ミントに常時昏倒状態を維持させ夢を見せ、たまに起こしては己の毒で支配し、予知夢という名の未来を先取りして支配する────完璧なギミック、完璧な統治機構、支配のための王権……それこそが、葉芝ヨシノにとっての桃源ユウリである。かの契望者が自分の能力すら把握しきれていない頃に、使えるオマケ付きで払暁の征伐団へ転がり込んできたことは、ヨシノにとって最大の幸運だったといえよう。


 『アタシたち、契望者?っていうのになったばかりで、もう何がなにやら……アタシもエリりんも凄く強い魔法が使えるわけじゃないし、貴方たちが頼りなんです!』


 確か、そんなことをほざいていたか────ふと、過去の記憶を思い出しながら、ヨシノはいつかの残像を嘲笑った。未来予知が強くない魔法?結構、ならばそれを私が有効活用してやろう────そう考え、そして実行し、今がある。橘ミエリという使い手(つかいで)の良い駒も手に入り、予知を利用して未来をねじ曲げ続ければ、いつだって勝利はヨシノの手中にあった。勝利し、支配する。人間の持つ欲の中でもシンプルなその望みは、ヨシノの肥大した自我を支える魔法として顕現し、今日(こんにち)までそれを叶えてきた。誰も己を阻めない────はずだった、今日までは。


 「地下施設の場所がバレた経緯はなに?いいえ、どうせ内通者でしょうそうに決まってる。何故なら私がミスを犯すはずがないから。ミスしたのは私以外、きっとそう」


 怒気を放ちながら音をたてて早足に歩くヨシノの前に、ふと、何か違和感を覚える影が現れた。病院の入り口、広いエントランスホールの真ん中で、仁王立ちのまま静かにヨシノを見つめる者がいる。一体何の用事なのかと鬱陶しげに視線をやって、ヨシノはそれが使える駒の一人であることに気がついた。


 「あら、ミエリじゃない。ちょうど良かった、貴方、私の代わりに森へ様子を見に行ってちょうだいな。何か居れば捕らえて報告、何もなければすぐに戻ってね」

「……それで、」

「ん?何かしら、拒否は許可しませんわよ」

「────わたくしのお友達がそこに居た場合は、どうしましょうか」

「!?貴方、いえ。お前、か────!」


 裏切り。裏切り、裏切り────!瞬時に思考を埋め尽くす単語に強烈な怒りを覚えながら、ヨシノは素早く端末を握った。そのヨシノを前に……更なる怒りを以て立ちはだかる者が一人。


 『Transformation!』


 端末を握る手が白くなるまで力を込めながら、橘ミエリが復讐を告げる。


 「破鏡重円(ムーンフェイズ)波濤の如く(タイダルウェイブ)!」



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