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五話//セブン8



 契望者の魔法は籠めた魔力と呪文により無数の差違を生むが、おおよその使い手は多量に魔力を籠めることで一発の魔法の威力を増大させることを好む。ヒジリ、ハクシュウがこのタイプに該当し、結果のわかりきった事象を確定させる後押しとして、こういった魔力の使い方はある種正しいと言えよう。では、逆に。


 「超眠気(ハイパーレム)

「まっず、防御……!」

「はわっ」

 威力ではなく、その深度や効果を高める使い手は、魔法を正しく運用していると言えるのだろうか。その答えを握るのは、今、対峙する二人の契望者だろう。


 「落池睡蓮(ダウンロータス)

「スヤァ……」

「ちょっ、ミューちゃん!?」


 グロウブルームとナイトドリーム、それぞれ攻撃性を持たない特質の魔法を持つ者が向かい合う。ナイトドリームによる先制攻撃を受けたレイジーフィーバーが自らの腕を枕に眠るなか、グロウブルームは体内に咄嗟に巡らせた魔法を維持しながら、改めて敵の能力について思考を回転させていた。


 (昏睡……!対策が無ければ一瞬で負ける厄介な魔法ね、先にこっちに来たのが私で良かった。ミューちゃんはこの通り、ヒジリちゃんも恐らく抵抗すらできないだろうし……まあ私も魔法使ってないと昏睡するんだろうけど)


 グロウブルームは『回復』の魔法少女、その特性上基本的に攻撃力を持たないため、魔力で肉体を活性化させつつ得物の鋏で攻撃を行う。つまりそれは、肉体に常に魔力を巡らせ、それを魔法へ変換するのに一切のタイムロスが無いことを意味する。


 (賦活潤蔦(ミスルト)……肉体を『正常な状態』に保つ魔法、これをかけ続けながら戦う!魔力消費は重いけど必要経費ってね)

「……?お姉さんなんで寝ないの?悪い子?」


 ジリジリと距離を詰めるグロウブルームに、ナイトドリームは不思議そうに首を傾げている。自身の魔法にかかった者の中で、かかったまま動き続けている者を初めて見たのか────彼女は実に不可解なモノを見る目をしていた。そんなことは露知らず、グロウブルームは突然素早く動いたかと思うと、真っ直ぐ爪先を突き立てるような前蹴りを放った。身体強化の魔力を別に割いてなお風を切る蹴りに、ナイトドリームはたまらず大きく飛び退る。


 「わっ、子供を蹴るんだ。お姉さんすごく悪い人」

「そーよ、ワルワル星から来たワルワル星人なの、覚悟してちょうだい」

「!?」


 睨むようにグロウブルームを見る相手へ、彼女は適当な言葉を投げる。契望者同士の対人戦において、意味がわかる言葉を相手が発しているうちは魔法を使われていないということなのだと、グロウブルームは何となく理解していた。そのためのトラッシュトークであり、その内容に意味は存在していなかったのだが……気づけば目の前の敵手がいやにキラキラとした目で自分を見ていることに、グロウブルームは怪訝な顔をした。


 「おね、お姉さん……もしかして宇宙人なの!?」

「ハァ?」

「だって今ワルワル星から来たワルワル星人って言った!すごいすごい!宇宙人の魔法少女なんだ!!」

「あーと、んん?もしかして……」


 その場で飛び跳ねるように喜ぶナイトドリームを前に、グロウブルームは膝に手を当てしゃがむようにしながらものを尋ねた。


 「ねえ貴方。今……いくつ?」

「ん?えっとね、七歳」

「うっ……わ」


 わざわざ両手を使って数字の七を表すナイトドリームに、グロウブルームは内心で頭を抱えた。


 ────すごく、やりづらい!!


 グロウブルームは本人の認識ではややアウトロー寄りの人間である。人の後ろ暗い部分を幾度となく見てきたうえに、自らの手でそこそこの数の人間を破滅に追いやったこともある。引き際というものを知らないロクデナシ相手ではあったが……そういう背景があるからか、彼女は善人というよりは中立寄りの人間で、自分が望む望まないに関わらず悪事を働ける存在であると自負していた。ただ────


 「落池睡蓮~」

「うくッ、ちょっとそれ止めなさい、お願いだから」

「どうして?葉芝のおばさんは知らない人はとりあえず攻撃しなさいって言ってたよ」

「誰よ葉芝のおばさん」

「キーキーうるさい女の人、見た目若いけどうるさいからおばさん!」

「うわっ、残酷な認識ねぇ……」


 ────相手が本物の子どもとなると話が違ってくると、グロウブルームは焦っていた。殴る蹴るの暴行など気が咎めるうえに、グロウブルームが幾つか持っている『攻撃転用できる魔法』はどれも手加減など出来ない内容である。もはや説得以外に道は残されていなかったが、果たして七歳児を相手にどれほど理屈が効果を発揮するのか……グロウブルームは視線を仲間に送るも、レイジーフィーバーは心地良さそうに眠っており、互いの端末に引っ込んでいる技士連中も今は頼れそうにない。ではこのまま無邪気に魔力を削られ続けながら耐久勝負をするのかと問われれば、相手の魔力量が不明な以上、それは悪手でしかない消極的選択である。


 (状況を打開するには魔法が必要だ……それも、手加減をしつつ相手をしっかり拘束、ないし戦意喪失させる魔法が…………)


 それまでは、時間稼ぎに徹するしかない。グロウブルームは方針を定めると、己の髪飾りを外した。一体なにをするのかとナイトドリームが首を傾げるが、グロウブルームはそれを意に介さず髪飾りを持ったまま手をヒラヒラと振り、おもむろにそれを握り込んだかと思うと、パッと手を開いた。細長い指と手掌が示され、そこに髪飾りの姿は見当たらない────鮮やかな消失マジックに、ナイトドリームが表情を明るくして奇術師を見上げた。


 「お花の髪留め消えちゃった!?どうして?どうして?」

「さあ、どうしてかな?不思議だねえ、探してみようか。ここかな?それともここかなぁ?」


 (っし、上手くいった!魔法に触れたガキなんて捻くれてそうだと思ってたけど、そんなことないわね!こんな手遊びに食いつくくらいだし、全然時間稼ぎはできそう)


 大仰な仕草で髪飾りを探すフリをしながら、グロウブルームは密かに魔力を練る。こうして、観客一名、演者一名のマジックショーが幕を開けるのであった。



 その一方で。


 「……始まったようですわね」


 窓辺に寄り、遠方から────病院裏手の森からチカチカと見える戦闘の光を眺めながら、呟く少女が一人。銀の髪を風に揺らしながら……橘ミエリは思考を巡らせる。焚きつけた契望者が地下施設を防衛する戦力と戦いはじめ、ひとまず、地下施設の存在は確認が取れた。では次に気にかけるべき事項は何かというと、地下施設における作戦の成否である。失敗すれば守りが固くなり、地下に監禁されている友も別の場所へと隠されるかも知れない。あるいはこの輸送を待って襲撃するべく、作戦の成否に拘わらず今夜は静観に回るという手もあるが……。


 「そもそも、地下施設の情報が漏れたことに関して葉芝は執拗に探りを入れることでしょうから……やはり決着は今夜、敵が準備を行えない奇襲の状況下で行うべきでしょうね。つまり、今行うべきは当初の想定通り────」


 身を翻し、足早に窓辺を離れるミエリ。その目は決意よりなお物騒で鋭い光にギラついている。


 「────葉芝ヨシノを、殺しましょうか」




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