五話//セブン6
突進、そして衝突。押し負けたのは黒衣の魔法少女────グリッターシャイン。相手の推進力に弾かれるように足を乱しながら、目だけは敵を見据えている。その視線の先、己の得物を悠々と担ぎ直した和装の魔法少女は、呆れを示すようなジェスチャーと共に肩を竦めて見せた。
「軽いねェー、飯は食わんといかんぞよ」
「あんたのソレが重いんだよ」
「おいおい、乙女に重いとか言ってくれるなよゥ」
長大超重の長柄重量武器……ハンマーを易々操る魔法少女は、契望者尾藤アマネの変身、魔法少女ヘヴィクランクである。法被のような上衣の下にノースリーブの変形着物を着込み、虎革の腰巻きとスパッツを履いた高下駄姿の傾奇者は、鉄の額当てが付いた鉢巻を指で叩きながらニヤリと笑う。
「愉快な語彙の出てくるトコ、かち割りたくなっちまう」
「元からそのつもりなんじゃねェのかよ」
「バレた?そうなんだよ、詫びにヒジりんもウチの頭、かち割っていいぜ」
「どっちもお断り、だッ」
グリッターシャインは早撃ちのように懐中電灯を腰だめに構え、二発の光弾を放つ。そしてすぐさま加速、ヘヴィクランクへ接近し殴りかかろうとする。しかし、ヘヴィクランクはこれを欠伸しながら、ハンマーを振り回しただけで弾き飛ばしてしまった。風圧と共に迫る巨大な鉄塊に、堪らず逃げ出すグリッターシャイン。奇襲を一挙動の暴力で片付けられ、相手の戦巧者振りを体で理解した彼女のうなじを、汗が伝った。
「相手を睨んで、小刻みに位置を調整して、得物を握りしめて、全身に力が入る。ちょっとぉ、そりゃ読み易すぎんよぉ~」
「ご教授どうも、そういうあんたからは仕掛けてこないのか」
「それはお誘いってことでOKィ?じゃあまあ一丁」
ヘヴィクランクが楽しげに笑い、肩を通すように得物を担ぐ。
「喧嘩舞踏と行きますかァ!?」
肩を支点に独楽のように回転したヘヴィクランクは、手中を滑らせるようにハンマーを通し、柄の終端を握るとそのまま叩きつけてくる。グリッターシャインは打ち合いを避けて跳び退くが、強烈なインパクトで跳ね上げられた土が飛び散り、彼女の視界を狭める。その後ろから黒い大きな塊が、一直線に伸びてくる。
「刺突!?」
「どっせい!」
逆手に持ち変えた懐中電灯を割り込ませるも、重量と威力に押され、グリッターシャインは吹き飛んだ。背後の樹木をへし折って転がる彼女に、追撃の魔の手が迫る。
「羽歩跳梁」
「ぐ、おおッ!」
羽のように、風のように、ふわりと飛んだヘヴィクランク。それが一転して歯を剥き出しにした笑いと共に、ハンマーを上空から叩きつけてくる。グリッターシャインは痺れた腕を抱えながら地面を転がり、ハンマーが伝える衝撃に身を震わせながら、足をバタつかせることで無理に地面を蹴って螺旋を描くように立ち上がった。変身中の身体能力に任せた滅茶苦茶な起き上がり方に、ヘヴィクランクは可笑しさを隠しもせずに彼女を指差し爆笑した。
「ギャハハハハ!!お前今のなに!?ショート動画自力で再現しました的なヤツ!?ギャッハ、ヤバ!」
「うるっせぇな、人の努力を笑うのはいけないことだって習わなかったか?」
「知らないねェ、親にも教師にもウケが悪かったモンで」
「じゃあ今覚えろ!」
「教員免許持ってないヤツの言うことは聞けんなァ~」
適当な言葉を並べるヘヴィクランクに軽口を叩きつつも、グリッターシャインは内心焦っていた。
(こいつ……強い!重くて長い得物なのに隙が無い、攻撃の威力も範囲も広いから反撃すらできない!)
手元を見る。手中の懐中電灯は『魔法さえ使えれば』必殺の威力を出せる。しかしそれは、生物を容易に殺傷できる威力を振り回すということは────。
「迷ってるねェ……そんなにアタシを殺しちまうのが怖いかネ」
「!」
ハンマーを肩に通して両腕を乗せ、ヘヴィクランクが口を開く。
「割りきらないと死ぬのはソッチだぜぃ?ああいやそれとも、魔法の隠密性を気にしてるのかな?だったら杞憂だと思うがね、ホラ、インパクトの瞬間だけ使えばパッと光ってバサーッギャーッてなるだけじゃん?」
「できるかよそんなこと……!」
「そりゃどっちに対しての言葉よ。まあどっちにしろ、できなきゃ死んでもらうよん!」
「クソっ!」
再び攻撃の構えを見せるヘヴィクランクに、グリッターシャインは悪罵を吐きながら────懐中電灯を消した。その様子に意外そうな顔をしたヘヴィクランクをよそに、グリッターシャインは徒手空拳のまま意識を集中させていた。
(光の魔法、熱と光量の魔法、こいつを非殺傷の威力のまま、あいつに通じる形にしなきゃいけない!なら懐中電灯は邪魔だ、どうしても集束に意識が向く!今必要なのは速度向上に必要だった具体性あるイメージじゃなく、むしろファジーな領域を活用する『幻想』!)
額に汗を流しながら、彼女は構えをとる。参考にしたのはレイジーフィーバーだ。彼女は魔法を行使する際、武器である靴以外でも魔法を使っていた。打ち下ろしの手での打撃────あの姿をイメージとして借りる為に、彼女が空中でとる構えを模倣する。緩く鉤手にした左腕を前に、掌打の形にした右腕を担ぐように後ろに……。
「いいよ、お前はそれがいい!諦めないし、破れかぶれにもならない。バトルは遮二無二もいいけど、ある程度は技の応酬がないとねェ」
「なら素直に食らってくれよ……」
「やだよ痛いじゃん」
わがままなことを言うアマネにうんざりしながら、ヒジリはイメージに集中する。
(光は粒、光は波……つまり伝播する。流砂が形を変えるように、波が遠くまで旅をするように!ならば、そのような性質を強めた光は────触れた瞬間相手に伝わり、伝播、浸透する!そうなるように強く望むッ!!)
ぼんやりとヒジリの手掌に光が集まる。それは光剣のように爆発的な明るさを持たない、淡い緑色の光である。一定周期で光の強弱を変えながら、蛍のように輝くそれは、ヒジリが新たに生み出した秘策であった。
「それは?」
ワクワクとした様子を隠しもせず、アマネが問う。ヒジリは滴る汗をそのままに、敵手がするように笑いながらこう返した。
「秘紋暗流衝」




