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五話//セブン3



 駅を出た先には噴水を中心とした円状の広場があり、幾つか設けられたベンチにちらほらと人の影が見える。ヒジリ一行は寒風に吹かれながら目的地に向かうべく歩みを進めた。工事中のビルや立ち入り禁止の札が掲げられた路地など、再開発の真っ只中である街路にはひっきりなしに工事の騒音が鳴り響いている。耳の敏感な技士たちは鞄に引っ込み、契望者たちは会話も聞き取り難い状況なためか、俯きがちに無言で足を動かしていた。そうして歩いていると、やがて人の姿も疎らになり、草木の気配が濃くなっていく。コンクリートの割れた隙間から雑草が生え、年代を感じさせる褪せた外壁の建物が増えてくる頃、ヒジリは目的地にたどり着いたことに気づいた。


 「二人とも、多分ここだ」

「うん?ああ確かに、寂れた場所に女の子だらけ……わかりやすい」

「わっ、お仲間がいっぱいですぅ」


 品定めかはたまた意図は無いのか、三人で連れ立って来たヒジリたちをジロジロと見る目の多さに驚きながら、彼女らは廃病院の敷地へ足を踏み入れた。するとバタバタと足音をたてながら近寄ってきた少女がそのままヒジリたちへ声を掛けてくる。


 「おはようございます、作戦に参加される方でしょうか?お名前を伺ってもよろしいでしょうか……」

「はい、はい……お三方とも名簿に名前があることを確認致しました。では今から、あー、二十分後に会議が始まりますので、それまでに一階の、案内板があります会場の方へお越しください、はい」


 名前を名乗ってからミエリに配布された資料の有無を確認された後、少女は慌ただしげに去っていく。その後ろ姿を見送ってから、三人は廃病院内部へと足を向けるのであった。


 「ひっろ、外観からは想像つかないくらい綺麗にしてるし、全階こうなら探り入れるのも手間だな」

「床もピカピカだぞっ!毎日掃除に人手を割けるくらい、フォロワーが多いみたい?」

「ふぅん、保護してる契望者をこういう雑事に回してるのかしら」


 三人は声を低めながら、口々に気になった点を言い合う。拠点の広さと清潔さは即ち、これを維持するマンパワーの証明といえるだろう。


 「施設維持のためにシフトを組んで回してるのなら、そのシフト表みたいなのを手に入れる必要があるわね」

「人目を盗んで行動するなら、そうかもぉ?」

「それか、清掃員に化けてウロチョロするか……清掃の人員が多いなら紛れ込めそうだけど、少ない人数でやってるならバレちゃうかな?」

「ま、今考えることじゃないかもね。ガチガチに予定を決めて動くと不足の事態に対して足が鈍る。未知の多い場所ではある程度臨機応変にいかないとね」


 視線をそれとなく巡らせ建物の内部の構造を把握しつつ、三人は会議場へ赴く。元は患者を運動させるリハビリに用いられていたのか、会議場は広く何もない空間にパイプ椅子が並べられただけの簡素な設営になっている。整列されたパイプ椅子の前には折り畳み式の長机が置かれ、記者会見のようなスタイルを想定しているらしかった。三人は適当な場所に固まって座り、会議の開始を待つ。やや早めに着いた三人を追うようにポツポツと契望者たちが集まり、話ながら幾らか待てばすぐに会議が始まった。


 「……皆様、本日はお集まりいただきありがとうございますわ。わたくし、払暁の征伐団幹部会の一員で橘ミエリと申します、以後お見知りおきを」

「……二人とも、ミエリだ」

「生きてたってことは動きやすくなるわね」

「監視ちゃんユルフワです?」


 資料を手に現れたミエリは一礼すると、慇懃な口調で挨拶をしその場の顔触れを睥睨する。ヒジリたち三人を発見すると僅かに視線が止まったように思えたが、それもほんの数瞬の出来事である。一方でヒジリたちは、ミエリに付く監視の目がほぼ映像のみのものであると確信すると同時に、手の込んだブラフを仕込んでこちらを翻弄してきたミエリに白い目を向けるのであった。


 「事前にお渡しした資料の通り、今回の集まりは要討伐危険指定の賞金首を狩るための作戦を遂行するべく募った、いわば連合軍を結成するための会合でございます。と、言いましても、普段から他者と組む機会の少ない皆様です、ピンと来ない所も多いことでしょう……ですので、分かりやすく要点のみお伝えいたしますわ」


 ミエリは言葉を切ると、再び全員の顔へ視線を送る。無言の時間が流れ、僅かに空気が緊張を帯びる。


 「────本作戦は『早い者勝ち(スピードトゥウィン)』、トドメをさした者が賞金の七割を手にすることとなっております。残りの三割は参加者全員に分配される……シンプルでしょう?己が望み(まほう)が最強であると、どうぞ示してくださいな」



 煽るように微笑むミエリにその場の空気は興奮の入り交じるものへと変化する。要討伐危険指定の討伐賞金は、契望者が数年働かずに遊び呆けても食べていける程度の金額である。その七割を集団戦で楽をしながら手に出来るとなれば、普通の契望者は色めき立とうものである。しかし、その裏に悪意があると知る者らにとっては、ミエリの(うそぶ)く毒は実に白々しいものに映った。


 「というかそもそも、手数から鑑みるに払暁の征伐団の誰かがトドメをさす可能性が高いよな?」

「人は夢を見たがるのよねー、普段しっかりしてる人ほどギャンブルで身持ちを崩すってわけ」

「あのあの、ミエリさんってぇ、嘘の上手な方なんですねぇ」

「うーん、契望者連中が騙されやすいってのもあるんじゃない?」

「守るものの無い根無し草だし、超常のパワーがある分、悪意に対する警戒が薄いんだろうね……」


 三人がこっそり話し合う内にも、ほとんど一方的なミエリの独演会は続いていく。最後になにか質問はあるかとミエリが問いかけたが、ちらほら上がった質問はすべて金の受け渡しについての内容であった。そうしてあれよあれよという間に会議が終わり、その場に集まった契望者たちは解散して部屋を出ていく。


 「とりあえず、質問がある(てい)で行きます」

「オッケー」

「りょぉかい!」 


 そんななか三人は連れだってミエリの元へ向かう。ミエリはというと、三人がそうすると分かっていたとばかりに微笑みながら、肘に手を添えて立っていた。


 「すいませーん、さっき質問しそびれたんですけど……」

「あら……申し訳ないのですけれど、会議場の片付けがあるので、ここでは質問を受けられないんですの。そうねぇ……どこか静かな場所でお話をお聞きしますわ」


 茶番である。予定調和の結末を経て、四人は会議場を出るのであった。

 

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