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五話//セブン2



 目が覚めてまず、時計を確認するのはおおよその人間に共通する習性である。現代人は時間に追われるようにして生きている────契望者以外は。などと、くだらないことを考えながら、ヒジリはベッドに倒れ込んだ。現在時刻午前四時……早朝である。嫌な予定がある日ほど決まって早くに目が覚めるものだと、ヒジリは目を(つむ)りながら眉根を寄せた。渋面の理由は明白で、今日が払暁の征伐団の本拠地へと乗り込む日だからである。賞金首の死駆罰孔、暴食を討伐するための作戦に先立ち、顔見せとちょっとした会議があると資料には記されていた。一回限りの作戦に参加する寄せ集めの集団に面通しや会議が必要なのかは甚だ疑問ではあるが、それはそういうものとして割り切るべきだとも、ヒジリは思う。ただ、推測ではあるが、払暁の征伐団が企む本来の目的を考えると全てが白々しくなるのも確かではあるが。


 「うわああああぁ……めんどくさああああぁ」


 枕に顔を埋め、本音を大きく声に出してからヒジリはベッドを出た。目が覚めてしまった以上は仕方ないので、暖かい飲み物でも飲む腹積もりである。日の出ていない時間は冷え込む冬の日は、そうして始まるのであった。




 「やーん!お久しぶりですぅ!きゃるるんっ」

「YO!YO!初顔もそうでないのもヨロシクゥ!」

「あらー、濃いわねぇ。まあよろしくね」

「ム……?ムム……」

「オミャーはなんかしゃべれニャ」

「おお、ヴェルクがかつての俺みたいに……」


 某市某駅にて。ハクシュウの連絡先を控えていたカスパルにより、集合場所より先んじて合流する手筈を整えていた三人の契望者が顔を突き合わせていた。ヒジリの知己である柏原アキラとパートナーのヴェルク、そして同じくヒジリの知己である、美雨ハクシュウとパートナーのロプスである。事前にグループチャットで挨拶をしているものの、顔を見るのが初めてのハクシュウとアキラは握手を交わしている。基本がおおらかでこざっぱりとしているアキラは、間延びして甘ったるい物言いのハクシュウにも物怖じせず対応していた。一方でヴェルクはキャラの濃いハクシュウコンビに混乱を見せている。それを後ろで面白がりながら、ヒジリは二人を連れて駅構内のドーナッツチェーンに入った。そこで朝食がてら話をするつもりである。


 「いやー、寒いっスね。上着も厚めのが必要になってくるけど、店入ると暑いんだよなこれが」

「脱ぎ着が面倒だけど、こればっかりはね。その辺、あんたらは毛皮だから楽そうよねー」

「バカ言っちゃいけねェよおネエチャン、オレらはオレらで大変なんだぜぇ?低い位置のが気温が低いし、肉球が冷えて堪らねェ!」

「やだぁロプたんかわいそ。他のコも靴下とか履かないの?キャワだぞっ」

「肉球蒸れるから却下だニャ」

「ム……難しい問題だ」


 ダラダラと会話しながら店内に雪崩れ込み、壁際の席を確保して一息つく三名と三匹。その後各々が望みの品を手にすると、軽い打ち合わせが始まった。


 「情報は共有した通りなんで、まぁ方針を改めて確認ってだけなんですけど。払暁の征伐団本拠では一人にならない、逃げ場のない閉所に留まらない、ミエリの生存確認、出来れば人気(ひとけ)の無い場所でミエリを捕まえて話を聞く、はっきりとした裏付けの下ミエリと協力が出来そうなら協力する、ってことで」

「異議なし、そのモチモチのやつ半分こしてほしいなー」

「異議なしでぇす、じゃあじゃあ、チュロス半分くーださいっ」

「異議ナッスィン!おい、ちょっと千切って下に寄越してくれよ!」

「異議なし、ミャーはいらんニャ」

「ム、異議なし。……毛が絡むので食べない」

「ま、これも事前に決めたもんな。てか久々に食ったけど美味いねドーナッツ」


 意志疎通を確認する意味合いの強い話し合いが終わり、軽く食事をしてから一行は電車に乗った。朝の車内は人がごった返しており、技士連中は早々にパートナーの鞄の中へ潜り込んでしまった。三人は運良く座席を確保出来たため、並んでしばし雑談に興じる。話上手で聞き上手のアキラが居るため、三人は程よく打ち解けられたようであった。


 「それでそれでぇ、そのコがもうホンットにキャワでぇ」

「へえ、地下アイドルねぇ。ミューちゃんもそのコに憧れて真似してるの?」

「そうでっす!ミューたんの理想なの!」

「はー、なるほど。無から湧いたキャラじゃなかったんだ……」

「むぅ、なんかディスられてるぅ」

「いやいや違う違う、なんというか、呆気に取られるみたいな、そういう感じ。悪い意味じゃないから」

「そうねー、地下系は関わりないと面食らうかもね、独特なルールとかあるし」

「えっ、アキラさんもしかして詳しいの?」

「いやいや、シノ、仕事の一環でちょっと知ってるだけよ。又聞きみたいなもん」

「はえぇ、もしかしてイベンターさんとかですかぁ?」

「あー、まあ裏方の、知り合いよ。私自身は地下でやってるイベントの……司会みたいなもん」


 言葉を濁したアキラに、両脇へ座る二人は互いへ目配せして話題を変える。ヒジリにとっては意外なことにハクシュウにも何か察するものがあったらしく、自我のごり押しをせずに、彼女は自身の着用するダッフルコートへと話を逸らした。それを聞いて相槌を打ちつつ、ヒジリは頭の片隅で別のことに思考を伸ばしていた。


 (過去……契望者の魔法は死に際の望みそのもの。つまりそれまでの人生の積み重ねから出たある種の解答ともいえるものだろう)


 (じゃあ、予知夢ってどんな望みから出た魔法なんだ?人を洗脳する魔法って、どんな人生を送ればそんな魔法にたどり着くんだろうか……?)


 やがて電車は三人を乗せ、目的地へとたどり着く。狭い車内から冷えた空気の中へ放り出され首を竦めながら、ヒジリは魔法の根元たる望みへと思いを馳せるのであった。





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