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五話//セブン



 ────合縁奇縁だとかなんだとか、不思議な偶然によって結びついた関係というのは、本人たちにとっては当たり前に存在するオカルトだったように思います。


 ────『引力』とでも表現すべき、人と人が引き合う素敵な力。それは、死が二人を別つまで、なんて言葉でも引き裂けない強度でそこに在ったのです。


 ────アナタはワタクシのオトモダチ。光の中で笑う顔、風に乗って香る髪の匂い、柔らかく細い指、汗ばむうなじ、軽やかな足音、そして……


 ────今はもう見ることの出来ない、夕焼け色の瞳の色。それをもう一度見たいのはきっと、かつての引力の名残りに引き寄せられているからなのでしょう。


 ────愛しのアナタ。今、幕が開かれます。


 ────アナタの残した脚本を使って、踊り踊らせてみせましょう。全てはいつかの未来でアナタと────────





 某市……から幾分離れた場所にあるその土地には、都市の再開発を目的とした大事業が開始してからというものの、あちこちの街路で工事が多発していた。その一方で人の手が入る必要のある再開発前の古い建造物も多く、煉瓦塀と鉄扉で閉ざされた古風な建物や、かつて駐車場であったと思しきコンクリートとそれを割る植物がコントラストになった拓けた土地などが幾つも散見される。そういった廃屋の中でも一際目を惹くのが、かつての大病院跡地である五階建ての巨大建造物である。道路に面した窓が全てガムテープ等で封鎖され、カーテンだったであろう襤褸切れにより中が見えなくなった、如何にも怪しげな幽霊病院……迷惑系動画投稿者の格好の餌食になりそうなその建物こそが、払暁の征伐団(ドーンレイダーズ)を自称する契望者集団の本拠地であった。


 「人の集まりはどうなの、ミエリ」


 表からは想像もつかない程に清潔な会議室には隙間なくカーペットが敷かれ、安っぽい折り畳み机とパイプ椅子が並べられている。窓はブラインドカーテンで隠されており、長方形に並べられた机の一席で、カップから立ち昇る湯気を浴びながら一人の少女がミエリに鋭く声を飛ばした。黒髪のおかっぱ頭は丁寧に切り揃えられており、つり上がった目は睨むようにミエリを見据えている。橘ミエリはいつものようにそれを意に介さぬよう振る舞って、ゆっくりと机上の資料を手繰った。


 「資料の二ページをご覧ください。参加を約束して下さった方は二十六名、署名までいただいたのは十四名……」

「どうせ全員は来ないだろ?契望者なんて約束守らん社会不適合者が大半だもんな」

尾藤(びとう)さん、説明がまだ途中ですわ」


 ミエリの言葉を遮りながら、一人の参加者が資料を机に投げ、頭の後ろで手を組んだ。収まりの悪い癖毛を頭の両側で縛った、赤毛の少女である。ミエリに尾藤と呼ばれたその少女は、八重歯を剥き出しにして笑いながら机の上に足を投げ出した。


 「そもそもウチぁ悪の組織だよ?風評ゴミすぎで人集まらんて!実際、悪どいことしてるわけだしィ」

「フン……貴方を含めて、社会不適合者(やくたたず)再利用(リサイクル)してあげているだけなのに、悪党呼ばわりだなんて!心外だわ」

「ギャハッ!副団長ってばクズオブクズだねェ」

「そのクズに進んで従っている貴方もクズでしょう。今すぐその不快な口から讃美歌が流れてくるようにしてあげてもよろしくってよ」

「冗談!アンタの魔法(ソレ)だけは食らいたくないね、生きながら死ぬようなもんじゃん」

「死にはしません、ただちょっと素直になるだけです」

「…………葉芝(はしば)さん、報告を続けてもよろしいかしら」

「どうぞミエリさん、そちらの馬鹿は黙ったようですし」


 黙るのはお前も、だ────内心を隠しながら、ミエリは朗々と報告を続ける。しかし、頭の中で考えるのは別の事柄についてだ。葉芝ヨシノ……『毒』の魔法によって対象を譫妄状態にして情報を吹き込む外道の仕業によって、払暁の征伐団は規模を拡大し続けてきた。団長たる籠羽(ろうば)ミカゼは頭が悪くお飾りでしかないため、実質的に組織を支配しているヨシノこそが払暁の征伐団において最高の権力を握っており、幹部会に権力など無い独裁体制が敷かれている。人を操る毒の魔法を望んだ女はというと、その現状を維持するために常に裏切りへと目を光らせているような状態であった。ヨシノの腰巾着であるちゃらんぽらんの尾藤アマネは暴力を振るうことにしか興味がないらしく組織の善悪など気にかけないし、組織への貢献度から幹部に名を連ねている井苅(いがり)ミントなど、話しぶりも振る舞いも子どもそのもので話にならない。おまけにミントとミエリはとある事情から接触を禁じられているため、これを始末(・・)することすら儘ならないのが現状であった。ヨシノ、アマネ、ミント以外の幹部は数合わせでしかない。今も会議の場で息を潜めながら時間が過ぎるのを待っているだけの無知無能である。ヨシノの操り人形の中でも対ミエリに有効な魔法を持つ者が数名、待機しているだけなのだ。 


 全く、不快な────手元の資料を片付けながら、ミエリは感情を面に出さず席を立った。今回、ヨシノの毒牙に掛かる犠牲者の読み上げなど憂鬱な仕事でしかない。外向きの仕事ばかりを任され犠牲者たちの顔や大まかな性格を知るミエリにとって、この手の報告はいつになっても慣れない苦痛であった。だがしかし、心を痛める権利など己には存在しないと考えるミエリにとって、苦痛を感じることすらストレスであった。何を善人ぶっているのかと、自分を嘲る気持ちに苛まれるのである。ただ一つの望みの為に、他の全てを利用し切り捨てる────自己陶酔感に溺れていない者にとって、それは己の浅ましさや醜さを突きつける刃のような鋭さを持つ思考であった。


 「ではミエリさん、よしなに」

「かしこまりましてよ、葉芝さん」

「じゃーねミエリっち、難しいことはヨロシク~」


 ヨシノの後にぞろぞろと続いていく腰巾着どもを見送ってから、ミエリは窓に近づきブラインドを指で歪めて外を見る。病院の裏手には森が広がっており、そのどこかに地下施設があるなどという噂が広まっているのはミエリも把握していた。古い時代において、今ほど理解が進んでいなかった精神病の患者等を地下へと隔離していた施設が、この廃病院には存在するのだと。


 「可能性は……高い。あの虚栄心に満ちた葉芝が、毎週何もない森で長々と過ごすのは何かあるはず」


 地道な調査によって知った情報は、猜疑心の塊であるヨシノの目を掻い潜って入手した僅かなもののみ。しかし、何処に隔離されているのかもわからない親友を探すための唯一の手がかりである……ミエリはこれに、縋るほかない。


 「願わくば、貴方たちが突破口になりますように─────」


 ミエリは資料に記された名前をなぞった。いつかの親友が語った名前。『予知夢』の中で一際輝いていたという、その名前を。


 「────お願いしますわ、未来の英雄さん」



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